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第314話 神撃の強欲



 ◆◇◆◇◆◇



 此度の神前試合は、この俺に〈地刑の魔王〉の討伐を単独で実行できるほどの力があることを人々に証明するのが主な目的だ。

 既に〈錬剣の魔王〉を一人で倒しているが、あの時は他国との戦争中の出来事であったことと、討伐対象が永きに渡る封印から解放されたばかりの魔王だったため、封印されずに現代まで存在している〈地刑の魔王〉とは事情が異なっている。

 そのため、〈錬剣の魔王〉と俺の戦いの模様を直接観ていた者達以外で俺の実力を正確に評価できている者は一握りだけだ。


 知識という意味でも情報収集力という意味でも優れていなければ理解できないのは仕方がないことなので、それ自体は特に意外でもなんでもない。

 だが、だからこそ、今この場に集まる各国並びに各勢力の重鎮達の目の前で圧倒的な力を見せ付ける必要がある。

 誰の目でもない自分自身の目で確認すること以上に信頼できる情報源などありはしない。

 俺の力に疑問を持つこと自体が愚かであることを、俺と敵対することがどういう意味であるかを見せ付ける舞台として、この神前試合は最高の機会だと言えるだろう。



「神々と御観覧になられている皆様に恥じない戦いを期待します。では……始めてください」



 〈天弓王〉ジークベルトの試合開始の言葉と同時に対戦相手の三人が動いた。

 〈聖槍公〉セイラスが【聖槍と聖杯の守護騎士(パーシヴァル)】の【奇跡の聖杯】を使って自分達三人の全能力を強化すると、自らも聖槍ロムルタを持って駆け出す。

 〈剣星公〉エーギルが首飾り型迷宮秘宝(アーティファクト)を発動させて背中から半透明の第三の腕を生やし、両手も含めて全ての手に剣を握らせながら距離を詰めてくる。

 〈月天公〉アイラが開始位置から後方に退がりながら神弓の弦を引くと、一息の間に十以上もの光の矢を射掛けてきた。

 彼らの一連の動きを見据えつつ、俺も自分の魔力を活性化させる。



「魔を満たせーー【竜聖炉心(ファフナー)】」



 特殊系スキル【竜血聖躰ノ超越勇者(ジークフリート)】の内包スキルにより魔力生成力が爆発的に強化される。

 吹き荒れる風の如く全身から溢れ出した黄金の魔力が、物理的な干渉力を以て目前まで迫っていたセイラスとエーギルの二人だけでなく神弓の矢すらも吹き飛ばす。

 続けて同じ内包スキルである【勇聖覇剣(バルムンク)】も発動させると、構えていた神刀アメノハバキリに黄金色に光り輝く純聖気を集め、純聖気製の黄金色の刀身を形成する。

 実際の刀身よりも一回りほど大きくなった黄金色の刀身を横に振るい、横薙ぎに振るわれてきた虹色の光刃を迎え打つ。

 神刀の純聖なる刃と星剣の虹色の刃の激突によって地面に巨大な裂け目が生まれる。

 そんな劣悪な足場に臆することなく再び接近してくるセイラスと、先ほど以上の力と数の光の矢を放つアイラを迎撃すべく、新たなスキルを発動させた。



「【神煌天星の極光剣槍(ブリューナク)】」



 名前を呼ぶと、光を鍛えて創造したかのような極光に煌く剣槍が、翼を広げるように背後にズラリと大量に具現化した。

 出現したブリューナク達はすぐさま、迫り来るセイラスと全ての光の矢を撃退するために自動的に飛び出していった。

 受け止めていた虹色の刃を撥ね除けると、即座に俺を挟み込むような軌道で左右から二振りの魔剣が振るわれてくる。

 その同時攻撃をアメノハバキリのみで打ち払い、次は俺の方からエーギルとの距離を詰めてアメノハバキリを振るっていく。



「ワハハハハッ! 噂以上の化け物っぷりだなッ!!」


「そりゃどうも」



 今の状況が愉快なのか額に汗を浮かばせながらも豪快に笑うエーギルと剣戟を交わしていく。

 エーギルは二本の魔剣と一本の星剣を同時に扱っているが、だからといって一つ一つの剣技が中途半端な力量というわけではない。

 例えるならば、超一級の腕前を持つ三人の剣士がそれぞれの剣を十全に振るってきているようなものだ。

 剣自体の能力だけでなく〈剛剣の勇者〉の称号効果も合わさっているのか、エーギルだけでなく剣自体も本来の性能以上の力を発揮しているような気がする。

 だが残念なことに、振るわれる魔剣と星剣が有する相手に干渉するタイプの能力は俺に一切通じていない。

 【竜聖炉心】により過剰に生成された魔力は、自然と凡ゆる干渉を阻害する鎧となり、他者の心身を蝕むほどに威圧する剣となっているからだ。


 称号効果でエーギルの身体性能が強化されていても俺の素の身体能力はその上をいく。

 体内に満ちた魔力によって全身の骨に刻んだ各種強化の魔賢神紋(ルーン)も活性化しており、その身体性能の差は更に広がっている。

 時折、アイラが襲い掛かってくるブリューナクを迎撃しながらも援護射撃の光の矢を放ってくるが、この程度の頻度の攻撃ならば片手間で対応できる。

 セイラスからの追加の強化支援(バフ)を受けてもなお差は縮まらず、故にこの結果は剣戟の一合目で既に互いに分かっていたことだった。



「ガッ、ハッ……」



 三つの剣でどうにか対抗出来ていたということは、一つでも腕を失えば終わりということを意味する。

 右腕を肘のあたりで魔剣ごと斬り落とした次の瞬間には、返す刀でエーギルを逆袈裟懸けに両断していた。

 真っ二つになって戦闘儀場の地面を血に染めるエーギルの身体の内側から神気が溢れ、死ぬと同時に蘇生が開始される。

 加えて、蘇生だけでなく戦闘儀場の外へと強制的に転移されようとしているのを感じた。

 使うには今しかないようだ。



[ユニークスキル【取得と探求の統魔権(ヴァラク)】の【取得要求】を発動します]

[対象人物を認識しています]

[ユニークスキル【取得と探求の統魔権】が対象スキルに干渉しています]

[対象人物は抵抗(レジスト)に失敗しました]

[スキル【強欲なる性豪】を取得しました]



 蘇生中で【取得要求】に抵抗できないエーギルからどのスキルをコピーするかは迷ったが、悩んだ末にユニークスキル【豪放磊落の大英雄(フェルグス)】の内包スキル【強欲なる性豪】を選択した。

 他の内包スキルは既に似たようなのを持っていたので、名称的に惹かれたのと実用性の面からも役立ちそうな常時発動型(パッシブ)スキルに決めた。


 これで【取得要求】は一日近く使えなくなったが、まだ無抵抗でコピーできる状況になる予定の相手が二人もいる。

 後の二人からもコピーしないのは勿体ないため、【取得要求】の再使用可能時間(クールタイム)を解決するために【再三活性化サード・リアクティベート】を【取得要求】に対して発動させた。

 この【再三活性化】は、一度使用するとクールタイムが発生するスキルのクールタイムをリセットすることができるスキルだ。

 一つのスキルあたり三回まで連続でリセットすることができ、一度使用する度にリセット後の使用で発生するクールタイムが一時的に三倍になる。

 リセットする度に三倍になっていくため、正規のクールタイムを経ずに三回連続でリセットした場合に発生するクールタイムは、従来の二十七倍の時間にまで延びることになる。

 現在は一回だけリセットしたので、【取得要求】を使ったらクールタイムは一日弱から二日強ぐらいにまで延びているだろう。



「さて、次は彼にするか」



 先ほどよりも数が増してきた光の矢を打ち払いながら次の標的を狙い定めた。

 エーギルが舞台上から完全に掻き消えたと同時に【天空至上の雷霆神(ゼウス)】の【瞬身ノ神戯(ヘルメス)】でセイラスの背後へと転移し、飛び回る十のブリューナクの相手をしている最中の彼へと斬り掛かる。

 セイラスの身体を斬り裂く直前、十字型の光の障壁が連なるように七重に出現し、強化されたアメノハバキリの黄金の刃を受け止めた。

 おそらくコレが【聖槍と聖杯の守護騎士】の【守護聖陣】なのだろう。

 破壊されながらも【勇聖覇剣】で絶大に強化された神刀の一撃を防ぐとは、中々の防御性能だな。


 一瞬遅れて奇襲に気付いたセイラスが、聖槍ロムルタを背後に向けてくる。

 ロムルタの穂先から放たれてきた聖気の砲撃を避けずに、即座に頭上へと引き戻したアメノハバキリを振り下ろして聖槍の一撃を割断した。

 追撃を仕掛けようとした時にはセイラスが俺に向き直っており、残りのブリューナクは十字障壁に任せるようだ。



「優秀な盾だな」


「四つも破壊されるとは思いませんでしたけどねッ!」



 目の前の視界を埋め尽くさんばかりに連続で繰り出される聖槍の攻撃を真っ向から迎え打っていく。

 セイラスの身体能力自体はエーギルよりも下だが、防御技能は上回っているため総合的には同じくらいの力量だな。

 まぁ、攻撃力よりも防御力の方が優れているので、このままだとエーギルの時よりも時間が掛かりそうだ。

 時間を掛けずにこの防御を突き崩すには更なる力を使う必要があるだろう。

 観衆に圧倒的な力を見せ付けるという目的にも沿うので、手札を切ることに躊躇いはない。



「【強欲巨神の神覇業撃(ガグンラーズ)】」

 


 全身から攻撃性の深紫色の魔力が稲妻のように迸る。

 魔力の放電(スパーク)とでも表現すべき現象を成す深紫色の魔力が、瞬く間にアメノハバキリの黄金色の刀身の刃を侵していく。

 一瞬の間に新たに深紫色の刃が追加されたアメノハバキリを振るうと、その一撃によって聖槍ロムルタが纏っていた【審判ノ聖槍(ロンゴミニアド)】の力ごと破壊した。

 二撃目で、新たに生成されて再び最大数の七重の障壁となった【守護聖陣】の十字障壁を破壊する。

 三撃目で、聖気を固めて即席の擬似聖槍を作り出したセイラスを、その擬似聖槍ごと真っ二つに両断した。



[ユニークスキル【取得と探求の統魔権】の【取得要求】を発動します]

[対象人物を認識しています]

[ユニークスキル【取得と探求の統魔権】が対象スキルに干渉しています]

[対象人物は抵抗に失敗しました]

[スキル【審判ノ聖槍】を取得しました]



 再び【再三活性化】を使ってクールタイムをリセットすると、屋内である戦闘儀場の天井に広がる()()を見上げる。



「途中から矢が来ないと思ったら、こんなものを用意していたか」


「……」



 上空の偽りの夜空に浮かぶ偽りの月を背景にアイラが滞空していた。

 ブリューナクのみでは十字障壁を破るのは困難なので、残る全てのブリューナクはアイラに向かわせたのだが、少し意識を逸らした隙に全て破壊されたようだ。

 彼女が所持するスキルの中に目の前の現象を可能とすると思われるスキルが見当たらないので、おそらくはユニークスキル【天に輝く狩猟の月光神(アルテミス)】の固有特性(ユニークアビリティ)である〈月天光明〉の力によるものだろう。

 どのような力を持つかについては、偽りの夜空に浮かぶ月が放つ輝きが増すにつれて、アイラが神弓に番える光の矢の輝きも増していることから予想はつく。



「矢の、いや光属性の強化かな?」


「……」



 返答代わりとでも言うように放たれた光の一矢が、先ほどまでの援護射撃の矢とは違って一秒足らずの間に数十もの光の矢へと分裂していった。

 その数十の光の矢も分裂していき、あっという間に数千、数万もの数の光の矢の雨と化した。

 これは味方がいると使えないだろうな。

 力と技に強い影響が窺える先祖の〈天弓王〉ジークベルトも似たような能力を持っているが、こちらの方がより破壊的な感じだな。

 【天に輝く狩猟の月光神】の内包スキルにある【破壊ノ女神(アポロウーサ)】と【矢を注ぐ神】あたりの効果によるものかもしれない。

 或いは【天空神歩】を除いた全ての内包スキルの複合効果の可能性もあるな。

 ここまでの数と殲滅力が相手では【強奪権限(グリーディア)】でも奪い切る前に被弾しそうだ。

 アイラの後方に転移して回避しようにも、あの辺りの空間自体が偽りの夜空の強い影響下にあるらしく、上手く移動出来そうにない。

 同格の神域権能(ディヴァイン)級ユニークスキル故に妨げられているみたいだ。



「チッ。仕方ないか。【天空神ノ光輝(アイギス)】」



 剣技のみで防いでみるか一瞬悩んだが、すぐに防ぎ切れないと判断を下して【天空至上の雷霆神】の内包スキル【天空神ノ光輝】を発動させた。

 頭上に現出した光の粒子が集まり黄金色の光の障壁を形成する。

 黄金の光壁(アイギス)へと矢の雨が降り注ぐが、アイギスは微塵も揺らぐことなく全ての矢を防ぎ切った。



「【天空神ノ恐怖(アイギス)】」



 【天空神ノ光輝】を別のスキルに変化させると黄金色の光壁が消え去り、代わりに戦闘儀場全体を震わせるほどの覇気が全身から発生した。

 【天空神ノ恐怖】は上空にいるアイラも硬直させるほどで、その隙に発動させた【魔賢戦神(オーディン)】の【天地駆ける神馬の蹄(スレイプニル)】で頭上にいるアイラの元へと瞬く間に駆け上がっていく。

 硬直が解けたアイラが再び神弓に光の矢を番えるが、その頃には彼女の目と鼻の先まで間合いを詰めていた。



「ッ!?」


「遅い」



 基本能力である【嵐霆神刃】を発動させた状態でアメノハバキリを全力で振り抜く。

 アイラが咄嗟に神弓を双剣へと変形させて防ごうとするが、アメノハバキリの刃を受け止めた双剣を容易く呑み込むほどに莫大な量の風と雷が戦闘儀場中に吹き荒れる。

 【強欲巨神の神覇業撃】による攻撃力超強化の効果対象には【嵐霆神刃】も含まれている。

 通常よりも大幅に強化された嵐霆の神撃は、超越者に最も近いと言われているアイラすらも一撃で屠るほどの威力を持っていた。



[ユニークスキル【取得と探求の統魔権】の【取得要求】を発動します]

[対象人物を認識しています]

[ユニークスキル【取得と探求の統魔権】が対象スキルに干渉しています]

[対象人物は抵抗に失敗しました]

[スキル【其を満たす豊穣神(ユルフ・ガイア・)の光威(スプルタ)】を取得しました]



 地上に落ちていくアイラの死体からスキルをコピーすると、蘇生の光に包まれていた彼女の身体が戦闘儀場の外へと転移していった。

 それを確認してから、付与されていた全ての強化効果を解除したアメノハバキリを鞘に納めた。

 これだけ力を見せれば単独での魔王討伐に対する説得力は十分だろう。

 そのことは戦闘儀場と観客席を隔てる神々の力が宿る障壁結界に亀裂を入れたことと、障壁結界を展開する主体的な役割を担っていた高位神官達が血反吐を吐いて倒れていることからも明らかだ。

 倒れている高位神官達の状態を確認したが、どうやら気絶しているだけだから放っておいても大丈夫だな。



「さて、いよいよ二度目の魔王討伐か」



 魔王が相手なら場所的にも攻撃の規模や戦い方を気にする必要はないし、もっと簡単に終わらせることができるだろう。

 少しは楽しませてくれると良いんだがな。




 

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