第313話 神前試合
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エリュシュ神教国の飛行場に各国の飛空艇が集結している様は圧巻だ。
招待を受けた国の全てが飛空艇で移動してきたわけではないが、帝国のように護衛艦を引き連れている国もあるため、大小様々なタイプの飛空艇の数は全部で三十隻を超えている。
これほどの数の飛空艇が一ヶ所に集まっている光景は、もしかするとこの世界では初めてかもしれない。
「……そろそろか」
【妖星王眼】の【世界ノ天眼】で観ていた光景を映す視界を消して、視覚情報を肉眼のみに限定する。
分身体の数も必要最小限に抑えているため、普段よりも本体の脳への負担が少なくコンディションは良好だ。
これから行われる試合のことを考えながら待っていると、複数人の高位神官が呼びに来た。
「これより不滅の加護を授ける儀式を行います。この加護は此度の神前試合でのみ効力を発揮致しますので、ご注意くださいませ」
「分かりました。よろしくお願いします」
高位神官達が俺を囲んで何かを呟くと、彼らが首から下げていたアミュレットと手に持っていた杖に嵌め込まれていた宝珠から力が失われ、代わりに俺に向かって天からナニカが降り注いできた。
「はぁ、はぁ、こ、これで儀式は終了です。ご健闘を、お祈り致しております。試合の舞台である戦闘儀場までは、あちらの者がご案内します」
息も絶え絶えな高位神官達に礼を言ってから、選手控室の外で儀式が終わるのを待っていた別の高位神官に案内されて戦闘儀場に向かう。
戦闘儀場に到着すると、既に観客席の殆どは人で埋まっていた。
空いているスペースも警護の都合や国家間のトラブルを防ぐために空けているだけなので、実質的には全ての席は埋まっていると言えるだろう。
観客席には一緒に飛空艇で来たヴィルヘルム達やリーゼロッテ達以外にも、ロンダルヴィア帝国からはアナスタシアをはじめとした有力な帝位候補者である皇子皇女が数名ほどが、賢塔国セジウムからは王族とカンナ達一部の魔塔主が、ファロン龍煌国からはラウ煌帝とシェンリンなどといった知っている顔がチラホラと見える。
これだけの数の各国の重鎮達が一つの場所に集まっている光景は、改めて考えると凄いことだ。
エリュシュ神教国の影響力の強さを再認識せざるを得ない。
俺がこれから上がる試合の舞台と周囲の観客席を更に囲むようにして、様々な形状の神像が建ち並んでいる。
それらの神像からの気配を感じながら待っていると、向かい側の入場門にも人が集まったようで、少し観客席が騒ついていた。
話には聞いていたが、本当に三対一での試合であることに驚いているといったところか。
全ての選手が集まったのを受けて、主催者であるアルカ教皇が席から立ち上がった。
アルカ教皇の周りの席には、以前にも見た十二人の枢機卿達や各神派の大司教達以外にも、大陸冒険者協会のトップや全ての超越者達が勢揃いしている。
〈天弓王〉ジークベルト・アルクス・イェーガー。
エリュシュ神教国所属。戦人族。〈弓神の加護〉と〈太陽神の加護〉を持つ〈閃光の英雄〉。
ユニークスキル【天に輝く勇弓の太陽神】の所持者。
〈天喰王〉リンファ・ロン・フーファン。
ファロン龍煌国所属。天狐人族。〈大地神の加護〉と〈狩猟神の加護〉を持つ〈貪喰の英雄〉。
ユニークスキル【天駆ける星喰いの獣神】の所持者。
〈幻界王〉アイリーン・エドラ・ハルシオン。
エドラーン幻遊国所属。天艶魔族。〈虚空神の加護〉と〈魔導神の加護〉を持つ〈夢幻の英雄〉にして〈幻想の魔女〉。
ユニークスキル【生死と夢幻の豊饒神】の所持者。
〈熾剣王〉ヴィクトリア・ソルド・イングラム。
エリュシュ神教国所属。熾天族。転生者タイプの異界人。〈炎神の加護〉と〈剣神の加護〉と〈破壊神の加護〉を持つ〈灼熱の英雄〉にして〈炎環の魔女〉。
ユニークスキル【終炎と剣禍の巨神】の所持者。
〈暴雷王〉ロギン・ウォー・ヴァラッド。
ザルツヴァー戦王国所属。真古竜人族。〈戦神の加護〉と〈雷神の加護〉を持つ〈雷轟の英雄〉。
ユニークスキル【天帝覇軍の雷霆神】の所持者。
〈機怪王〉カイ・キリュウ。
レギラス王国所属。戦人族。転生者タイプの異界人。〈造形神の加護〉と〈時間神の加護〉を持つ〈不朽の勇者〉。
ユニークスキル【天機想造の時空神】の所持者。
全ての超越者が一堂に会しているというレアな光景だが、まさか戦争中である〈暴雷王〉と〈機怪王〉まで観戦に来るとは思わなかった。
流石に席は離されているが、まぁそれだけ注目されているということだろう。
そんな世界で最も安全かもしれない場所から、アルカ教皇が此度の神前試合の目的を改めて告げていく。
また、俺による単独での魔王討伐の力の証明という目的以外にも、標的である〈地刑の魔王〉を倒した後の土地は討伐者である俺に帰属することをアルカ教皇に宣言してもらった。
勿論、事前にヴィルヘルムをはじめとしたアークディア帝国上層部からも許可を得ている。
アルカ教皇も、半分くらいは自分達の都合で神前試合を行うのが分かっているからか、この後ろ盾とも言える宣言を行うことを二つ返事で承諾してくれた。
「〈七公聖〉である三人からお名前を読み上げますので、呼ばれましたら舞台上へ順次お上がりになってください。まずは〈聖槍公〉セイラス・ロンド・ミーレム殿、舞台へ」
アルカ教皇が名前を読み上げると一人の男性が舞台に上がってきた。
涼しげな顔をしたハイエルフ族の男性の手には彼の代名詞である聖槍ロムルタが握られている。
〈護槍の勇者〉の称号名に相応しい経歴を持つ〈勇者〉だ。
「次に、〈剣星公〉エーギル・ザンバット殿、舞台へ」
次に舞台に上がってきたのは巨漢の戦人族の男性だ。
精悍な顔立ちに筋骨隆々な身体と全身から男臭さが感じられる偉丈夫の腰と背中には三本の剣があった。
〈剣星公〉と呼ばれるだけあって剣の扱いに長けており、剣を集める趣味以外にも女好きでも有名な〈剛剣の勇者〉の称号を持つ〈勇者〉だ。
なんとなく親近感が湧かないでもない。
「最後に、〈月天公〉アイラ・ルーナ・イェーガー殿、舞台へ」
最後に舞台に上がってきたのは、編み込んだ蒼銀色の長髪と背中から生えた同色の六枚翅が特徴的な精霊人族の上位種族である聖霊人族の美女だった。
何を考えているか分からない感情の読めない表情をしているが、現在は折り畳んで腰に身に付けている神弓から繰り出される一撃は竜すら簡単に屠るという。
その美しくも強靭な身体には〈天弓王〉と今は亡き〈境界王〉の血が流れており、先祖である二人の因子は彼女自身の力にも現れている。
〈七公聖〉の中では唯一神域権能級ユニークスキルを所持しており、今回の神前試合で戦う三人の中では最も強敵なのは間違いない。
「こちらの三人に対するは、此度の結果次第では新たな次期SSランク候補である〈賢勇公〉となるリオン・ギーア・ノワール・エクスヴェル殿、舞台へ」
此度の神前試合での各国首脳部へのお披露目に合わせて、予定を前倒しにして帝国公爵としてのミドルネームを賜った。
アークディア帝国風に〈強欲〉の名を選んだのは、単純に俺を現すならばコレしかないと思ったからだ。
試合の舞台に上がると、対戦相手である三人からの視線が俺一人に集まる。
一人の感情は読み難いものの、それでも彼らの視線には悪意は感じられない。
三対一という相手からしたら舐められているとも取られる試合条件だが、幸いにも当事者である彼らからはそのように捉えられなかったようだ。
そんな彼らを見据えながら【魔賢戦神】の【情報賢能】を発動させた。
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・【聖槍と聖杯の守護騎士】……帝王権能。〈庇護者〉。
【審判ノ聖槍】【奇跡の聖杯】【守護聖陣】【不屈の聖躰】【神聖なる守護騎士】
・【豪放磊落の大英雄】……帝王権能。〈豪傑者〉。
【薙ぎ払う虹の光刃】【英雄誓約】【強欲なる性豪】【剛毅なる勇士】【勇猛なる大戦士】
・【天に輝く狩猟の月光神】……神域権能。〈月天光明〉。
【月光勇躰】【彼を滅する狩猟神の閃撃】【其を満たす豊穣神の光威】【破壊ノ女神】【矢を注ぐ神】【天空神歩】【狩猟の大君主】
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彼ら三人のステータスの内、所持しているユニークスキルの情報のみを抜き出して再確認する。
伝え聞く本人達の戦闘スタイルから考えても、セイラスが盾役兼支援役で、エーギルが前衛攻撃役、アイラが後衛攻撃役兼奇襲役といったところだろう。
攻撃力的にはアイラがメインアタッカーで、エーギルの方がサブアタッカーなのに、メインの方は遠距離からの奇襲攻撃が主な攻撃方法とは地味に厄介そうだな。
まぁ、たぶん実際には遠距離攻撃以外も出来そうだけど。
「開始の合図は〈天弓王〉ジークベルト殿にお任せします」
「承知致しました。これより、神前試合を開始致します。神前試合の勝敗は、どちらか一方の全ての選手の不滅の加護が発動し、舞台から退場することによって決着と致します」
ジークベルトの宣言と同時に試合の舞台と観客席の間に神気を感じる障壁結界が展開された。
以前に戦闘儀場を使った時は神々の使徒達によて結界が張られていた。
今回も彼らによる尽力があるようだが、現在張られている結界は以前のモノよりも凄まじく強固な結界が展開されている。
この結界の主な発生源は観客席の背後に建ち並ぶ神像のようだ。
神の力も借りれるから神前試合なのかもしれないな。
「それでは、双方、構えてください」
ジークベルトの言葉に従って俺を含めた全員が武器を構える。
俺は取り敢えず二振りの神刀のうち神刀アメノハバキリのみを鞘から抜いた。
状況次第では神刀エディステラも抜いて二刀流スタイルで戦うことになるだろう。
「神々と御観覧になられている皆様に恥じない戦いを期待します。では……始めてください」




