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第312話 道中と飛空艇



 ◆◇◆◇◆◇



[ユニークスキル【取得と探求の統魔権(ヴァラク)】の【取得要求】を発動します]

[対象人物を認識しています]

[ユニークスキル【取得と探求の統魔権】が対象スキルに干渉しています]

[対象人物は抵抗(レジスト)に失敗しました]

[スキル【女神の戦舞】を取得しました]



 飛空艇の窓から外を眺めていると、分身体(ランスロット)がアナスタシアが持つスキルのコピーに成功したという通知があった。

 前回のコピー成功から三ヶ月も掛かるとは思わなかったが、明日に神前試合を控えたタイミングでの成功だと考えれば幸先が良いと言えなくもない。

 【空想具象(ファンタズム)】で生み出した短剣を片手で振るい、目の前の空間を舞うようにして短剣を踊らせてみた。

 【女神の戦舞】の補正効果を簡単に確かめると短剣を消した。



「何だったのですか、今のは」


「たった今手に入れたスキルの具合を確かめてたんだよ」


「そうでしたか。いきなり剣を振り回すなんて危ない人ですね」


「間合いには気を付けてるぞ」



 リーゼロッテからの指摘に肩を竦めながら反論すると、景色を眺めるのにも飽きたので窓際を離れて近くに座っているオリヴィアに膝枕をしてもらった。

 何も言わずとも頭を撫でてくれるオリヴィアの膝の柔らかさを堪能しつつ、室内にも意識を向ける。

 今いるエクスヴェル家専用特殊艦〈スキーズブラズニル〉の広い室内には、リーゼロッテとオリヴィアをはじめとした仲間達が集まっている。

 俺以外は全員女性であり、その大半とは男女の仲だ。

 カレンからは「ハーレム艦?」とかツッコまれたが、状況的にも否定できない。



「リオン」


「どうした、レティ?」



 名前を呼ばれたので振り返ると、リーゼロッテとオリヴィアと同様に俺の近くの席に座っていたレティーツィアが自分の膝を叩いて指し示していた。

 その無言の催促に素直に従って彼女の膝枕へと移動する。

 オリヴィアの膝枕と比べれば柔らかさが足りないが、この程よく鍛えられた足も悪くない。



「リュ?」


「エリューか。アモラとルーラはどうした?」


「リュ」



 レティーツィアの肩の上からこちらを覗き込んできた彼女の使い魔であるエリューことエリュテイアに尋ねると、エリュテイアがリーゼロッテの頭の上とオリヴィアの胸の上へと手を向けた。

 リーゼロッテの頭上に視線を向けると、彼女の白銀色の髪と同化するようにして白銀色の羽毛のルーラが寛いでいた。

 もう一方のアモラは、オリヴィアの特盛の胸の間に挟まって寛いでいる。

 そこは俺の場所だというのに……ある意味では俺の使い魔らしい。



「アモラ」


「ピィー?」



 呼び掛けたら気の抜けた鳴き声が返ってきた。

 思った以上にまったりと寛いでやがる。

 無理矢理手元に召喚してやろうかと思っていると、レティーツィアに顎を掴まれて顔の向きを戻された。



「婚約者に膝枕をしてもらいながら()を見ているのかしら?」



 何処を、ではなく、何を、と言っていることから分かっているだろうに。

 まぁ、流石に正直に告げられるほど深い関係にはまだなっていないので誤魔化しておく。



「アモラが可愛くてな」


「ピィー」


「あら。アモラが羨ましいと思ったんじゃないかしら?」


「婚約者に膝枕をしてもらってるのにそんなことは思ってないさ」



 ただの独占欲から邪魔をしたくなっただけだから、羨ましくは思っていないとも。

 両手では足りないぐらいには経験しているし。



「リオンさんと殿下は仲良しですね」



 オリヴィアが暢気なことを言っているが、まぁ膝枕をしてもらうぐらいには仲が良いな。



「……煽られてるのかな?」


「そのようなことはありませんよ。言葉通りの素直な気持ちです」



 既に男女の仲のオリヴィアの発言とあって、まだ清い関係であるレティーツィアは邪推してしまったようだ。

 オリヴィアの感情に僅かに見えた〈傲慢〉の色は見なかったことにしよう。

 女って怖いと思っていると、俺達三人の様子を静観していた〈傲慢〉と〈嫉妬〉の担い手であるリーゼロッテが俺を拉致した。



「そろそろいいですね」


「何言ってるの。まだ駄目よ。私の婚約者を返しなさい」


「私の婚約者でもあります。次は私の番です」


「リーゼは普段イチャついてるでしょう。私は同棲してないんだから私に譲りなさい」


「嫌です」



 実年齢的にも外見年齢的にも良い歳をした大人の女性二人に、まるでギャグのように左右に身体を引っ張られる。

 相手が俺だからか、本当に遠慮なく引っ張っており、常人ならば真っ二つに裂けているだろう。

 これも彼女達なりのコミュニケーションだと思うことにしつつ、取り合いになるヌイグルミの気分を味わった。



「ねぇねぇ、エリンお姉様。私もあの人形が欲しいなぁ」


「もう少し大きくなればカレンも貰えるわよ」


「でも胸の成長が止まったのよねぇ。身体自体は結構成長したんだけど」



 自分の胸のサイズを確認しているカレンは直に十二歳になるが、肉体の成長が早い獣人種である狐人族なので外見年齢自体は十代半ばぐらいだ。

 カレンの異母姉のエリンのように年齢以上に大人っぽい容姿なら別だが、カレンは実年齢的にもまだ手を出す気は起きないな。

 カレンが転生者の異界人(フォーリナー)で中身がおそらく成人女性であっても、世の中には世間体というモノがあるのだ。

 ま、一番の理由は俺の性的嗜好故だが、そこは言わないでおく。


 俺を挟んでリーゼロッテとレティーツィアがいつまでも言い合っているので、二人を逆に引き寄せて捕まえることで強制的に大人しくさせた。

 二人を左右に侍らせるようにして肩を抱くと、慣れているリーゼロッテは身体を預けるように自ら(もた)れ掛かってきたが、全く慣れてないレティーツィアは突然の事態に顔を真っ赤にして身体を硬直させていた。

 周りの女達は皆慣れてしまっているので、レティーツィアのような初々しい反応は逆に新鮮だな。



「レティ、大丈夫?」


「な、何が? 大丈夫だけど?」


「顔が面白いことになってるわよ」



 レティーツィアが彼女の専属侍女であるユリアーネに声を掛けられたことで再起動した。

 レティーツィアには内緒で密かに俺と仲を深めているユリアーネには余裕が見える。

 自分だってあんなに初々しかったくせに、とは彼女の名誉のために言わないでおいてやった。



「そういえばリオンさん。この飛空艇って、フレースヴェルグ型とは駆動音や飛行速度とかが違うけど、やっぱり動力機関が違うの?」



 ふと思い出したようにオリヴィアが現在乗っているスキーズブラズニル型について質問してきた。

 アークディア帝国の宮廷魔導師長であり魔導研究所所長であるオリヴィアとしては気になるようだ。



「そうですよ。国内を周るフレースヴェルグ型には従来の魔力炉技術を転用した動力炉を使ってますけど、このスキーズブラズニル型や皇帝御座艦である〈フリングホルニ〉型には人工賢者の石を使った新型動力機関を搭載しています」


「人工賢者の石……量産に成功した賢者の石ってこと?」


「そうなりますね。言われてみれば、賢者の石自体が人工物ですから人工賢者の石という呼称はおかしいですね。今後は量産型賢者の石と呼びますよ」



 一般的な飛空艇の動力には複数の魔核を使用して稼働する魔力炉式動力機関が使われている。

 俺が建造した飛空艇の内、大型のフレースヴェルグ型と小型の〈リンドヴルム〉型には一から俺が作った特殊な魔力核を複数使った〈直列立体共鳴(レゾナンス)式動力機関〉を使用している。

 この新型動力機関のおかげで、以前までに使われていたアークディア帝国の動力機関よりも出力が十倍近く高く、連続稼働時間も三倍ほど長い。

 これら二つのタイプは将来的にも建造数が多くなることが分かっているため、コストを抑えるために魔力炉式の動力機関を採用している。

 だが、唯一無二のスキーズブラズニル型とフリングホルニ型には性能重視で量産型賢者の石を使った新型動力機関〈紅賢核炉心(ルベド)〉を搭載していた。



「ルベド式はレゾナンス式の更に十倍の出力になっていまして、理論上は半永久的に連続稼働が可能なんですよ」



 既に一部の貴族から発注がきている各貴族家用の中型飛空艇〈ヴェズルフェルニル〉型には量産性を上げて性能を落としたルベド式動力機関の下位互換である〈亜賢核炉心(デミルベド)〉を搭載する予定だ。

 これはヴェズルフェルニル型に限らず、貴人座乗艦には各種戦闘用魔導具(マジックアイテム)を搭載しているため、デミルベド式動力機関の出力がなければ満足のいく性能を発揮することができないからだ。

 デミルベド式はレゾナンス式の三倍の出力しかないが、貴族用の飛空艇の性能としては十分だろう。

 


「陛下の御座艦とこの艦だけということはかなり高コストな動力なのね」



 オリヴィアが見上げた先にある大型モニターには艦の外の光景が映し出されており、そこにはヴィルヘルム達が乗るフリングホルニ型と護衛艦であるリンドヴルム型の姿が確認できた。

 今回エリュシュ神教国で行われる神前試合には、観客としてヴィルヘルムをはじめとした各国の首脳部が招待されている。

 転移で移動しても良かったのだが、せっかく各国のトップが一堂に会する貴重な機会なので、帝国の国力ーー今回の場合は軍事力と言うべきかーーを誇示する目的で最新の飛空艇で向かうことになった。

 エリュシュ神教国に集まる者達は勿論だが、道中に通る国々への示威行為も兼ねている。

 事前にエリュシュ神教国の招待であることを通達しているため襲撃を受けることはまずない。

 世界的宗教の総本山である国家を敵に回す怖いもの知らずな人類勢力はいないため、悠々と他国の上空を通過していく。


 飛空艇の外装には基本となるアークディア帝国の国章に加えて、それぞれ皇帝座乗艦を示す紋章とエクスヴェル家の飛空艇であることを示す紋章が飾られている。

 皇帝御座艦のフリングホルニ型はスキーズブラズニル型よりも二回りほど大きいので、遠方からもよく見えることだろう。

 共に周囲を飛行している七隻のリンドヴルム型と合わせて、その建造費は俺の懐を大いに潤してくれた。

 流石に一括で支払えるほどの現金はないので国債だが、まぁアークディア帝国の今後の発展を考えれば価値あるモノであることは間違いない。



「リオンさん、ルベド式の下の動力機関はあるの?」


「ありますよ。開発中の試作型機甲錬騎の動力にでも使いたいんですか?」


「ええ。既存の内蔵式動力機関では十分な性能を発揮出来なかったから試してみたいの」


「試すだけならタダで貸しますよ」


「本当?」


「俺とオリヴィアの仲ですから」


「愛してるわリオンさん!」


「ピピィッ!?」



 正面からオリヴィアが抱きついてきたことで俺の頭が谷間に埋まった。

 その所為で谷間で寛いでいたアモラがお怒りのようで、俺の頭部をキツツキのように嘴で突いてくる。

 神前試合を明日に控えているので普段行なっている弱体化付与はしていないのもあってノーダメージだ。



「……なぁ、自分の母親が自分の男に抱きついてはしゃいでいる光景を見た娘としては、どう反応すればいいと思う?」


「母娘でリオンの女なのに今さら何言ってるのよ」


「それはそうなんだけど」


「ある意味では長命種ならではの問題ですね」


「どちらかというとリオン自身の性的嗜好の問題でしょう」


「あー、確かに問題なのはリオンくんでしたね」



 離れたところからシルヴィア、マルギット、セレナの声が聞こえてきたが、俺は胸に埋まっているので聞こえないフリをしたのだった。





 

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