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第309話 龍煌国での談合



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー陽の出ずる龍の国の帝へ、陽を冠する魔の国の臣よりご挨拶させていただきます」


「貴公の来訪を歓迎しよう、エクスヴェル公爵よ。それにしても、エクスヴェル公は我が国の古き挨拶の作法をよく知っていたな?」


「龍煌国のことについて調べた際に知りました。間違いがありましたら謝罪致します」


「間違いはないから謝罪の必要はないとも。魔王殺しの勇者であるエクスヴェル公が我が国のことを知ろうとしてくれたことを嬉しく思う」



 〈地刑の魔王〉の討伐が延期になった俺は、ファロン龍煌国へのアークディア帝国の外交使節団に同行していた。

 ヴィルヘルムより使節団の代表を任された外務卿のディプロ伯爵による挨拶の後、彼ら外交官達は別室に移動している。

 その一方で、俺も謁見の間から煌帝用の談話室へと移動すると、ファロン龍煌国の君主であるラウ煌帝に改めて挨拶を行なっていた。

 室内にいるのは俺とラウ以外だと、ラウの護衛の名目で同席している〈天喰王〉のリンファだけだ。



「リンファから、此度の来訪では依頼していた新たな四煌剣について確認したいことがあると聞いた。話を聞かせてくれ」


「はい。私がお尋ねしたいのは、新たな紅龍剣と黒龍剣に国への帰属機能を実装するか否かについてです」


「ふむ。剣に実装する国への帰属機能とは初めて聞くが、どのような機能なのだ?」


「簡単に申しますと、この機能を実装した剣が他人や他国に奪われても、帰属機能を発動させればすぐに奪い返すことが可能になります」


「ほう。それは、我が国としては絶対に必要な機能だな。素晴らしい機能だ」



 龍煌国は過去に四煌剣の一つである紅龍剣を身内によって持ち逃げされたことがある。

 そのことを考えれば、ラウが絶対に必要と答えるのは当然だろう。



「ありがとうございます。ですが、この帰属機能は帰属先が個人ではなく国とする都合上、剣を召喚するための要となる構造物と構造物を置く場所が必要です。その構造物製作にかかる費用は別途必要になりますが……」


「構わぬ。言い値で支払おう」


「かしこまりました。では、ここに構造物のデザイン案などを纏めた資料がありますので、一度ご確認いただきたく存じます」



 【無限宝庫】から資料を取り出すと、その資料をリンファが念動力で浮かばせてラウの元へと持っていった。

 リンファによって軽く安全が確認された後に手渡された資料にラウが目を通していく。

 そのまま読み終えるのを大人しく待っていると、ラウの傍の席を離れたリンファが俺の真横の席へと移動してきた。



「久しぶりじゃのう、リオン」


「お久しぶりです、リンファ様」


「敬称はいらぬと言っておろう?」


「善処致します」



 【意思伝達】による念話での会話の時と同じことを言われたので同じ言葉を返しておく。

 付き合いの浅い他国の超重要人物を敬称無しですぐに呼べるような性格じゃないので、今暫くは敬称付きで呼ばせてもらう。



「むぅ。儂の屋敷にも来ていいと言っておるのに一向に来ぬし、向こうで囲っておる女子共の相手で忙しいのか?」


「囲っているわけではありませんが、確かに仲良くはしていますね。あと、忙しいのはあっていますが別の理由です」


「ふむ、儂一人の身だけでは多忙の合間を縫って逢いにくるには足らぬか。なんという欲深さじゃ」


「そういうわけではありませんが……」


「儂の屋敷におる女中達は器量良しじゃが、それだけでは足らぬのう…….」



 腕を組んで悩み出したリンファを呆れた顔で眺める。

 俺の対面では資料からチラッと顔を上げたラウも同じように呆れている姿が見えた。

 視界の中に映る、自分で組んだ腕に持ち上げられているリンファの豊かな胸部を眺めていると、熟考を終えたらしき彼女が再び口を開いた。



「……そうじゃ。儂の子孫の中で独り身の女子を屋敷に住まわせるのはどうじゃ? 他にもラウの娘にも儂の屋敷を自由に出入りする許可をやれば満足じゃろう?」


「そういう問題ではないと思いますが……」


「リンファよ。出入り許可は娘達だけか?」



 またもや突拍子もないことを言い出すリンファに返す言葉を悩んでいると、ラウがリンファの与太話に乗ってきた。



「ふぅむ。ラウの全ての娘や孫娘に許可を出すと人数が増えすぎるのう。増やしすぎると儂の時間が減るから、許可は一部の者のみじゃな」


「そうか。それならばまだ独り身の娘達を優先してくれ」


「それは構わぬが、皇女の中には婚約者がおる者もおろう? 其奴らはどうするのじゃ?」


「娘達がエクスヴェル公を気に入ったならば破棄すればいい。国としては勇者との縁談の方が優先順位は上だ」



 はじめは冗談かと思ったが、当たり前のように話が進んでいることとラウの表情が真剣なことから本気で言ってるっぽいな。

 まぁ、根本的にはリンファの屋敷への出入り許可なので、そもそも俺が彼女の屋敷に行かなければ何も起こることはない……物凄く興味はあるけど。



「皇女の中だとリオンの好みはシェンリンとかじゃろう?」


「……第二皇女殿下ですか?」


「うむ。偽りの姿ではあるが、刃を交えてその生殺を握った相手なのじゃから、よく知っておろう?」


「まぁ、ある意味ではそうですね」



 ファロン龍煌国の旧都にて行われた武闘大会に変装してジン・オウの名で出場した際に、本選でシェンリンと対決している。

 リンファとラウの二人は、エンジュによるクーデターとその後の〈悪毒の魔王〉マルベムの残滓との戦いを止める時と、その後の報酬を決める際のやり取りで、俺が変装して武闘大会に出場していたことを知っている。

 救援の対価の一つで魔導契約書(ギアス・スクロール)で関係者には守秘義務を課しているため、内外に俺の変装能力がバレることはないだろう。

 


「ふむ。シェンリンは以前から自分より強い相手でないと婚約も婚姻もしないと公言している。先日の武闘大会以降、密かにジン・オウの行方を探しているようだからちょうど良い。魔導契約書でシェンリンにもエクスヴェル公の秘密を守らせれば問題あるまい」


「それなら一先ずシェンリンには出入り許可を出してやるかのう。どうだ、リオン? 嬉しいじゃろう?」


「私も男なので否定はしませんが、お戯れはその辺になさってください。失礼ながら、そちらの資料は如何でしたか、煌帝陛下」



 いい加減止めないといつまでも話が続きそうだったので強引に話を変える。

 幸いにもラウも話を変えるのに同意してくれた。



「ふむ、いきなり話を進め過ぎるのも良くないか。エクスヴェル公も長命種なのだし、そこまで急ぐ必要もない。この話は追々するとして今は話を戻すか」


「儂は待ち遠しいんじゃが?」


「そこは個人的に話を進めてくれ。シェンリンなどの場所を用意しておいてくれれば事後承諾でも構わぬ」


「仕方ないのう。取り敢えず、選定を済ませるところからリオンの外地後宮計画を進めるとしよう」



 なんか夢のある計画名が聞こえてきたが、俺が反応したらまた話が進まなくなるので聞き流しておく。



「さて、帰属機能元となる構造物のデザインだが、この龍の意匠が特徴的な祭壇型が良いな。サイズも費用も資料に書かれているもので問題ないので、このまま製作を頼む」


「承知しました。それではこちらの祭壇へ帰属するように新たに紅龍剣と黒龍剣を設定しておきます」


「うむ、よろしく頼む。ところで、この祭壇への帰属登録は既存の四煌剣にも設定は可能か?」


「白龍剣と蒼龍剣ですね。製作段階から機能を織り込む必要があるため、申し訳ありませんが不可能です」


「そうか。では、帰属機能を追加することは可能か?」


「白龍剣と蒼龍剣の状態が旧黒龍剣と変わらないならば、能力を変えることなく追加が可能です」

 

「それならば新たな紅龍剣と黒龍剣が完成した後で、残りの二剣にも帰属機能の追加を任せたい」


「かしこまりました」



 四煌剣の残り二つへの帰属機能の実装依頼は予想通りだったが、煌帝専用の金龍剣については言及がなかった。

 流石に煌帝専用の剣までは他国の者に任せるわけにはいかないようだ。

 金龍剣は煌帝以外は触れられないように管理されているようだから、他の剣のような紛失の可能性はないとみていいだろうからな。



「話は終わったかのう?」


「はい。私からの用件は以上になります」


「うむ。我からも特にない」


「それじゃあ、リオンはこの後は暇じゃな? 晩餐会までは儂が煌城内を案内してやろう」


「ふむ。リンファが傍におれば不都合はなかろう。リンファの権限内ならば好きに案内するといい」


「だ、そうじゃが、良いかのう?」


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」



 龍煌国の実質的なナンバーツーであるリンファの権限ならば、普通は入れない場所まで案内してもらえそうだな。

 ラウとの話し合いが終わったら使節団に合流するつもりだったが、こちらの方が利が大きいのでリンファに城内を案内してもらうことにした。



「それじゃあ早速行くとしよう。ラウ坊、後の警護は外の者達に任せるぞ?」


「ラウ坊と呼ぶでない。外に出たら引き継ぐよう言ってから行ってくれ」


「うむ、分かった!」


「それでは煌帝陛下。御前より失礼致します」



 立ち上がったリンファに素早い動きで腕を掴まれると、半ば引き摺られるかのような心境で部屋を後にした。

 リンファの力強さと柔らかさが共存した肢体に惑わされぬよう気をつけつつ、異国の城内を見学するとしよう。



 

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