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第308話 条件


※明けましておめでとうございます。

 今年も本作をよろしくお願い致します。




 ◆◇◆◇◆◇



 星の光一つない偽りの空の下。

 【終炎崩能(ムスペル)】によって生み出された大量の紅色の火の玉が天上から降り注いでくる。

 上空で燃え盛る炎の翼を広げるヴィクトリアが〈熾剣王〉として世界より与えられた権能を行使すると、全ての火の玉が剣の形をした紅炎と化し、流星のような尾を引くほどに加速してきた。



「ホント遠慮がないな……【勇聖覇剣(バルムンク)】」



 両手に携える神刀エディステラと神刀アメノハバキリから強烈な純聖気が迸る。

 特殊系スキル【竜血聖躰ノ超越勇者(ジークフリート)】の内包スキルで二振りの神刀を強化すると、迫る紅炎剣の群れを迎え討つために斬撃を乱れ撃つ。

 紅の終炎気と黄金の純聖気が彼我の中間地点で激しく衝突する。

 必然的に発生した魔力粒子による煙幕を突き破るようにしてヴィクトリアが特攻を仕掛けてきた。


 自前の紅金色の翼から紅炎を噴出させており、その紅炎を囲うように〈炎環の魔女〉の魔法による炎環〈強化炎環〉が展開されている。

 多重強化によって実現した瞬間移動染みた速度が齎す衝撃を、ヴィクトリアは卓越した体捌きと剣術を以って神剣の斬撃に上乗せして放ってきた。

 その斬撃を正面から二つの神刀で受け止めると、隕石が落下したような衝撃と破壊が大地を襲う。



「いくら周りに被害が出ないとはいえ、遠慮しなさすぎじゃないか?」


「リオンが超越者に匹敵するほどの身体性能に至ったって自慢するのがいけないのよ」


「その結果がコレか?」


「溜まってたのよ。受け止めてくれるでしょう?」


「見ての通り受け止めてるんだが、なッ!」



 大きく陥没した地の底を舞台に会話と剣戟を交わし続けていたが、仕切り直しのために強引に神剣ごとヴィクトリアを弾き飛ばした。

 ヴィクトリアはその勢いを背中から生える熾天族の翼を広げて打ち消すと、軽やかに着地する。

 


「……戦闘欲求が溜まってるなら魔王でも倒したらどうだ。ヴィクトリアなら大抵の魔王は倒せるだろ?」


「神塔星教の教義の中には魔王殲滅というのはないのよ。『人類を守り、慈しみ、寄り添う』というのがエリュシュと神塔星教の基本方針だもの」


「教義の解釈次第ってやつか」


「中立国としての立場故というのもあるのよ。理由はどうあれ中立国が積極的に武力を行使しちゃ駄目でしょう」


「ま、確かにな」


「幾つもの国を滅ぼして回るような活発的な魔王がいたら流石に動くらしいけどね」



 言われてみれば、封印されていない現存する魔王達は基本的に自らの支配領域から外へは動いていないな。

 まぁ、支配領域がない魔王や序列一位の大魔王は別なんだが、これらは特に破壊活動は行なっていないから例外か。



「そろそろ休憩はいい?」


「気になったことを聞いただけなんだが?」


「あら、負けず嫌いね」


「本心だ。実際まだまだ余裕だしな」


「でしょうね。ま、あまり長々と続けると止めるタイミングを失いそうだから、この一撃で最後にするわ」



 ヴィクトリアの神剣へとユニークスキルの強大な力が集まっていく。

 俺が使った【勇聖覇剣】によく似ているが、ヴィクトリアが使おうとしている内包スキルは規模が桁違いだ。



「えっ、こんな場所で使うのか?」



 地の底なんていう閉鎖的な場所でやったらお互いに逃げ場がないぞ?



「以前から欲しがってたでしょう? ここなら周りの目を気にせず確実に手に入るじゃない」


「なるほど」


「前世から続く愛しの彼女からのサプライズプレゼントよ」


「……自分で言うかね」


「何か言った?」


「ううん、何も。奪い解けーー【強奪権限(グリーディア)】」



 準備を終えた俺へとヴィクトリアが神剣を振り抜く。

 流石にこのまま奪うには力が強すぎるため、全力で神刀を振り抜いて力を削いでから黒く染まった両手を前方に翳した。



[解奪した力が蓄積されています]

[スキル化、又はアイテム化が可能です]

[どちらかを選択しますか?]


[スキル化が選択されました]

[蓄積された力が結晶化します]

[スキル【黄昏ノ焱神剣(レーヴァテイン)】を獲得しました]



 ◆◇◆◇◆◇



 異界にある固有領域〈強欲の神座〉でのヴィクトリアとのじゃれ合いから一夜が明けた。

 彼女からサプライズプレゼントを貰った後、彼女の屋敷に戻ってからも色んな意味で熱くて激しい夜を過ごしたのだが、そんな余韻を微塵も見せない彼女の後ろを歩いていく。

 エリュシュ神教国の中枢部である中央神殿の敷地内を歩くこと暫し。

 エリュシュ神教国と神塔星教のトップであるアルカ教皇が待つ謁見の間に到着した。



「お久しぶりですね。〈創造の勇者〉リオン・ノワール・エクスヴェル公。永代公爵位への叙爵を心から祝福します」


「ありがとうございます、教皇聖下」


「ところで、セジウムの魔塔主名のノワールはありますが、アークディアの公爵としての中間名(ミドルネーム)は賜ってはいないのですか?」


「皇帝陛下より領土を下賜される際に一緒に賜る予定となっております。それまではノワールのみです」


「そういうことでしたか……エクスヴェル公に相応しい名を賜りそうですね」


「恐れ入ります」



 ヴィルヘルムから賜るとは言ったが、そのミドルネームは前もって俺自身が決めた名だ。

 その名は既にヴィルヘルムに伝えているのだが……確かに俺らしい名を選んでいる。

 やっぱりアルカ教皇は色々と視えているんじゃないかな?

 何らかのアイテムーーたぶん神器の類いだろうーーに阻害されて彼女のステータスを確認できないが、そういったスキルを持っているのかもしれない。



「して、本日のご用向きは何でしょう?」


「それにつきましては、先ずはこちらの皇帝陛下からの書簡をご確認いただきたく存じます」



 懐から三日前にヴィルヘルムから渡された書簡を取り出すと、近寄ってきた女性神官に手渡した。

 その書簡を女性神官から受け取ったアルカ教皇が中身に目を通す。



「……なるほど。〈地刑の魔王〉の討伐を行いたいのですね」



 アルカ教皇の発言を聞いた謁見の間にいる高位神官達が騒めき立つ。

 軽く片手を上げて彼らの騒めきを鎮めてから、アルカ教皇が口を開いた。



「今回もお一人で挑まれるのですか?」


「事前にシャルロットから〈聖者〉の強化支援(バフ)をしてもらいますが、その後は一人で挑む予定です」


「〈地刑の魔王〉の支配領域であるゴベール大砂漠は、砂漠という過酷な環境も厄介ですが、他の地域では見られないタイプの魔物が棲まう大変危険な場所でもあります。かの魔王は支配領域内の環境だけでなく、其処に生息する魔物をも支配しているため、魔王との戦いでは魔物の大群の相手もすることになるでしょう」


「〈錬剣の魔王〉との戦いでも似た経験はしていますので問題ありません。砂漠という環境も私にとっては過酷というわけではないので、こちらも問題ないかと」


「気負い過ぎている……というわけでもないようですね。流石は超越前に個人での魔王殺しを果たした〈勇者〉と言うべきでしょうか?」


「恐れ入ります」



 相変わらず意味深な微笑を浮かべるアルカ教皇からの問いに対し、頭も一緒に下げながら無難に言葉を返す。

 


「私としましては、多大な実績があるエクスヴェル公による第二の魔王討伐を認可することはやぶさかではありません。ですが、少しタイミングが悪く、そのまま魔王討伐へと送り出すには一つ条件があります」


「条件、ですか?」



 おっと、まさか条件付きとは予想外の展開だが、条件とはなんだろうか?



「エクスヴェル公は〈十公聖〉をご存知ですか?」


「次期SSランク候補と言われている十名のことですね」


「はい。時代によって人数は異なりますが、その十公聖です」



 少し前までは十二公聖と呼ばれていて、その名の通り人数は十二人いた。

 その内の二人が基礎レベル百に到達して超越者の仲間入りしたことで今の十公聖となった。

 なお、この二人というのが〈暴雷王〉と〈機怪王〉だ。



「エクスヴェル公。今から告げる内容は正式な発表があるまではアークディア皇帝陛下も含めて他言無用で願います」


「承知しました」


「まだ秘匿されていますが、先日、十公聖のうちの三名がそれぞれ〈地刑の魔王〉、〈侵星の魔王〉に挑み敗北しました。〈地刑の魔王〉の方には二人で組んで挑んだ結果の敗北です」


「……なるほど。そういうことでしたか。生死については?」


「撤退もできなかったようです」


「そうですか」



 それは本当にタイミングが悪いな。

 少なくとも基礎レベル九十九という、数値上は俺よりも上である次期SSランク候補者が三人も魔王に挑んで亡くなったならば、エリュシュ神教国としては慎重になるのも当然のことだろう。



「ちなみに、亡くなった三人が魔王に挑んだのはリオンがきっかけよ」


「……自分よりもレベルが下の奴が倒せたなら自分でも倒せるに違いない、ということか」


「そういうことよ」


「亡くなった三人の中に〈勇者〉は?」


「いないわね」


「そうか」



 ここまで横で黙って話を聞いていたヴィクトリアが事の経緯を教えてくれた。

 まぁ、次期SSランク候補者がそのような思考に辿り着くのも無理もない。

 レベル的に俺が彼らよりも格下なのは事実だからだ。


 基礎レベル百に到達するための条件として、同格以上の強敵を打倒するというモノがある。

 この同格以上の強敵というのは正確な基準が定まっていないが、基本的にはレベルが上の存在のことだと言われている。

 ただし、そんな存在を打倒せずともレベル百に到達した超越者もいるため、絶対に果たさなければならない条件というわけではないらしいが、殆どの超越者は達成しているので基本条件とみていいだろう。

 その基本条件を満たすにはレベル百を超える〈魔王〉という強敵の存在は、倒せるか否かを抜きにすれば最適な相手なのは間違いない。



「ヴィクトリアが全て説明しましたが、そのような経緯故に起こったことでありますので、エクスヴェル公には今一度力を示していただく必要があります」


「他の十公聖、いえ、七公聖との試合でしょうか?」


「お察しの通りです。エクスヴェル公の力を示して単独での魔王討伐を行う説得力を補完するとともに、先の三名のような者を出さないためには必要なことなのです」



 ふむ。確かに道理に適っているな。

 本命は前者ではなく後者の方であることも理解した。

 話ぶりからして亡くなった三人はエリュシュ神教国に伺いを立てずに挑んだか、止められたけど強行したってところか。

 というか今気付いたんだが、ヴィクトリアからのサプライズプレゼントの背景には、これらの出来事も関係していそうだな。



「対戦相手の選定には多少時間をいただきますが、構いませんか?」


「承知しました。試合の日程はいつ頃になる予定でしょうか?」


「年内を予定しています。場所は此処エリュシュの戦闘儀場です」



 以前ヴィクトリアと模擬戦をした場所か。

 まぁ急ぎではないし、年内なら十分早い方だな。



「かしこまりました。お手間をおかけして申し訳ありませんが、よろしくお願い致します」



 魔王戦の前に次期SSランク候補者との試合とは予想外だったが、正式に戦える機会というのは俺にとっても良いことだ。

 試合の目的も考えれば方々から観客も呼ぶんだろうし、今から楽しみだな。

 それまでは他の仕事をこなしておくとしよう。




 

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