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第306話 アインブルク



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーふぅ。終わったぞ」


「お疲れ様でした。成功しましたか?」



 作業を手伝っていたリーゼロッテからの問いに答えるように体内の魔力を流動させる。

 すると、全身の至るところで様々な力が活性化し、心身の格が一回り上昇したと錯覚してしまうほどの万能感に包まれた。

 外見上こそ変化はないが、仮に体内を視認できたならば、力が活性化している箇所の骨の表面で文字や紋様らしきモノが淡く光り輝いているのが分かっただろう。



「ああ、成功だ。ちゃんと定着しているようだし、時間が経って完全に固定化されれば、再生や復元が行われても自動的に刻まれるようになるだろうな」


「おめでとうございます。それにしても、自らの全身の骨に魔賢神紋(ルーン)を刻印するとは……リオンは頭がおかしいですね」



 【始源の魔賢神紋(プライマル・ルーン)】で扱えるルーンは、それ単体でも強力な力を発揮する文字または紋様だ。

 だが、ただルーンを描くだけでは効果を発揮する時間は短く、基本的な使い方は魔法と変わらない。

 その効果時間や効力を高めたいならば、俺が能力値の〈弱体化〉の際に使っている塗料のような特殊なアイテムを使用して描くか、対象にルーンを直に刻む必要がある。

 この刻むという作業にも、表面に傷をつけるぐらいの軽いモノと、より深く魔力を込めつつ対象の形自体を変えるほどに刻印するという重いモノの二つが存在する。

 前者は効果時間と効力が強化されるだけで一時的にしかルーンは力を発揮出来ないが、後者は上手くいけば永久的にルーンの力を発揮させることが可能だ。

 ただし、存在自体が力を持つルーンを刻印できる素材は限られており、無生物である魔導具(マジックアイテム)を作るならばまだしも、生者の肉体に刻印するとなればその条件は更に厳しくなる。

 そういった理由などもあって、外部の影響を受けやすい皮膚よりも体内にある骨の方に刻印することになった。



「褒め言葉として受け取っておく。かなりの痛みだったが、リーゼの力が役に立ったよ」


「高温に発熱する身体を冷やし、時を操ってルーンが定着するのを後押ししただけですけどね。リオンの行いがどのような作業かを想像するだけで背筋が凍る思いでした、〈氷刻の魔女〉であるこの私が」



 リーゼロッテが言うところの背筋の凍るような行いは以前から思い付いていたが、実現に足る材料が揃わず断念していた。

 だが先日、最後のピースが手に入ったため、肉体の負荷を減らす手伝いをリーゼロッテに頼んだ上で全身の骨へのルーンの刻印作業を実行した。

 この作業が実現できたのも、体内でルーンを彫る道具として使う【空想具象(ファンタズム)】に加えて、特殊系スキル【竜血聖躰ノ超越勇者(ジークフリート)】の【超越勇躰(オーヴァーブレイヴ)】による超越的な肉体、ユニークスキル【天空至上の雷霆神(ゼウス)】の内包スキル【巨神戦争ノ権業(ギガントマキア)】に二つある派生スキルの一つ【不死ノ巨神竜(ギガンテス)】による不死特性と人外の回復力・再生力が揃ったおかげだ。


 最後のピースである【不死ノ巨神竜】の不死特性で一定以上の痛みに対して鈍くなっていなければ、おそらく作業は難航していただろう。

 元になった【万夫不当の大英雄(ヘラクレス)】の内包スキル【不死身特性】よりも上位能力なだけあって作業中は結構余裕があり、思ったよりも早く刻印作業を終えられた。



[特殊条件〈刻印天賦〉〈狂畏の発想〉などが達成されました]

[スキル【刻印の心得】を取得しました]



 このスキルは出来ればもっと早く欲しかったな。

 まぁ、今後に活かすとしよう。



「刻印したルーンは主に強化・増幅系だそうですが、全て活性化させたらどのくらいの強さになるのですか?」


「んー、超越者の中で肉体系最強と言われるリンファの素の身体性能に並ぶぐらいじゃないか?」


「それなら身体強化系スキルなどを使えば上回りますね」


「いや、リンファの神域権能(ディヴァイン)級ユニークスキルの内包スキルに特殊な身体強化スキルがあるから、今はまだ無理だろう」


「以前報酬で貰った〈九頭龍王の宝環(ナインヘッド)〉でその身体強化スキルをコピーすれば良いのでは?」


「まぁ、そのスキルもコピーして使用すれば上回るかもな。だが、コピーしたスキルはユニークスキルの枠組みから外れているから、そのコピーしたスキル単体ではオリジナルよりも効力が下がる。効力の落ちた身体強化スキルをわざわざコピーすることはないかな」


「そういえばそうでしたね」


「というか、何故そんな話を聞くんだ?」


「大体の強さを把握していればリオンが無茶をしても安心して待っていられますので。そして、私が落ち着いていれば他の者達も同じ様に落ち着けるかと思います」


「へぇ、意外と真面目な理由だ」


「というのが表向きの理由で、本当の理由はリオンのことならばどんなことでも知りたかったからです」


「……そっか」



 わざわざ正直に本当の理由などと言うことから、もしかして照れ隠しなんだろうか?

 でも素で思っていそうでもあるから、判断が難しい。

 取り敢えず、真意を判断するのは保留して適当に彼女の頭を撫でておく。


 さて、いつまでも全裸なのはどうかと思うし、そろそろ服を着るか。

 なお、全裸状態だったのは全身の骨へのルーン刻印作業の際に衣類が邪魔になるからだ。



「むぅ……」



 頭を撫でられたことか、俺が服を着たことかは不明だが、何やら不満そうなリーゼロッテを無視して【無限宝庫】の能力で全ての装備を一瞬で装着する。

 それから作業中に消耗した水分などの補給も兼ねて〈黄金星果(イズン)〉製の果実水(ジュース)で喉を潤しつつ、彼女と共に部屋を出た。



「漸く他の建物も姿が見えてきましたね」


「そうだな。やっと街らしさが出てきた」



 廊下の窓から屋外に広がる街並みに視線を向ける。

 俺達がいるクラン拠点からは、中継拠点都市〈アインブルク〉の城壁内の各所で行われている建築の様子が一望できた。

 アインブルクに建てたヴァルハラクランのクラン拠点や、ドラウプニル商会関連の建物だけはユニークスキル【神魔権蒐星操典(レメゲトン)】の【神殿創造主】で既に建設済みだ。

 アインブルクの利権は色々持っているが、多数の建物を建てられるほどではないため、国から依頼された城壁を築いたばかりの頃は俺達の建物しか存在せず、なんとなく物悲しい光景だったのを覚えている。

 リーゼロッテが言う様に、段々と他の建物の姿が見えてきたおかげで、アインブルクがこれから多くの人が住まうようになる都市であるということが現実味を帯びてきた。



「そういえば、あの城壁にもルーンを使っていましたね」


「ああ、防衛系のルーンを刻んだな。【都市建造】による自動建設ではルーンが刻印できないから、城壁全てに手作業で刻んでいくのは地味に大変だった」


「一日で終えていましたけどね」


「おかげで【始源の魔賢神紋】だけでなく【空想具象】の熟練度(レベル)もかなり上がったよ」


「それは何よりです」



 アインブルクを囲む城壁は【神殿創造主】ではなく魔権系ユニークスキルにある【都市建造】を使って建造しており、発動には巨塔内外の素材が使用された。

 小エリア内で伐採できる非常に硬い樹々を使って城壁の骨組みを作り、地上から持ち込んだ資材とアインブルク周辺の土などを素材にして特殊な壁材を構築している。

 この壁材と伐採した樹々には永続版のルーンが刻印できるため、【空想具象】を使ったルーン刻印の練習には最適だった。



「行ってらっしゃいませ」


「ああ、行ってくる」



 アインブルクのクラン拠点に置いている〈魔精人形(オートマタ)〉の一体に見送られながら建物を出ると、そのまま徒歩で市内を歩いていく。

 俺が依頼でスキルによる建設を担当したのは城壁、そして市内の基礎部分だ。

 この基礎部分には、建物を建てる際の地盤や水路に下水道、道路、歩道などといった各種インフラ設備も含まれている。

 小エリアに到着して一ヶ月、城壁が出来てから三週間ほどが経っているが、そんな短い時間で市内の建設作業がここまで早く進んでいるのは、客観的に見ても俺が基礎部分を担当したおかげだろう。

 開拓部隊の兵士達や職人、人足達もそのことは理解しているらしく、市内を歩いていると俺に気付いた全員から声を掛けられたり挨拶をされたりした。

 まぁ、俺が永代公爵というのもあるんだろうが、覚醒称号〈黄金蒐覇〉によって能力値が増大しているため名声が上がっているのは間違いない。


 そんな彼らに挨拶を返しながら歩いていると目的地に到着した。

 〈冒険者ギルド・アルヴァアイン支部:迷宮内拠点都市アインブルク出張所〉という看板が掲げられた冒険者ギルドの建物を一度見上げてから中に入る。

 地上にあるアルヴァアイン支部の建物よりは外観も内装もシンプルだが、間取りや雰囲気はよく似ていた。

 ロビーにはギルド職員と冒険者達の姿があるが、後者の冒険者達は全て俺のクランの団員達だ。

 彼らの姿を視界に収めつつ屋内を見渡していると、横合いから美女に声を掛けられた。



「あら、いらっしゃいリオン。予定の時間よりも早いわね」



 俺達に声を掛けてきたのはアルヴァアイン支部のギルドマスターであるヴァレリーだ。

 彼女はアインブルクにギルド出張所を立ち上げるために責任者としてこの場に滞在している。

 今回の開拓計画の打ち合わせの際にアインブルクの城壁が完成したら連絡が欲しいと言われており、約束通りに連絡を取った。

 本来ならばドラウプニル商会にある通信用魔導具を通して連絡するだけの予定だったが、先日セジウムに行くために迷宮を瞬時に出入りできることを他者にも明かしている。

 それならばと、城壁が出来たことを直接教えに行くついでにヴァレリーをはじめとしたギルド職員達を転移で連れてきた。


 転移には【天空至上の雷霆神】の内包スキル【瞬身ノ神戯(ヘルメス)】を使用した。

 集団転移で使ったのは初めてだったが、人数が増えても魔力消費が軽くて非常に使いやすかった。

 今日はその転移を使ってギルドマスターであるヴァレリーを地上に送る約束をしており、そのためにギルド出張所にやってきたのだ。



「こんにちは、ギルドマスター。用事が早く済んだので早めに来たんですよ。稼働している出張所の見学をしたかったのもあります」



 周りの目があるのと彼女は仕事中なのもあってヴァレリーのことは役職名で呼ぶ。



「そうだったのね」


「建物に異常はありませんか?」


「設計図通りに建てられていたし、今のところ問題は見当たらないわね」



 ヴァレリーから、というよりはアルヴァアイン冒険者ギルドからの依頼を受けた俺が【神殿創造主】でギルド出張所を建てた。

 そのため、職員であるヴァレリー達を連れてきた次の日には出張所が試験的な営業(プレオープン)できた。

 とはいえ、開拓計画に参加していない冒険者は未だアインブルク内には入れないので、出張所の利用者はヴァルハラクラン所属の団員である冒険者達だけだ。

 利用者が限られているのも迷宮内で試験的にギルドの業務を行うには都合が良く、ギルド出張所が出来てからはアインブルクがある小エリア内や近隣エリアの魔物討伐は出張所を通して依頼の形で行なっていた。

 このことは開拓計画に最初から含まれているため予定通りだ。



「出張所は期待通りの役目を果たせそうですか?」


「ええ、寧ろ期待以上よ。出張所が本格稼働すれば、これまでは地上までの距離の問題で諦めていた素材も扱えるようになるでしょうし、価格が上がり過ぎていた素材も適正価格に落とすことができそうだわ」


「それは良かったです」


「勿論ヴァルハラクランにも期待しているわよ」


「ご期待に添えられるよう頑張らせてもらいますよ」



 アインブルクは立地的にも稼ぎやすい場所にある。

 先行して市内にクラン拠点を作っていて、アインブルクを利用しながら近辺の魔物を倒している俺達は、様々な面で他の冒険者達よりも優位に立てるはずだ。

 ギルドからの期待に応える意味も込めて、実績作りのために団員達に何かしらの目標を立ててやるのが良いかもしれない。


 近いうちに開拓計画も完了するだろう。

 そうなると地上に戻る者達の護衛のためにアインブルクを離れることになる。

 地上に戻り護衛依頼が終わったら、魔王討伐絡みの根回しなどで忙しくなるのが目に見えてるので、今のうちに団員達の目標について色々と思案しておくとしよう。





 

 

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