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第305話 蹂躙する樹斧と新たな雷霆



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー傭兵部隊も突撃せよッ!!」


「「「ウォオオオオォーーーッ!!」」」



 雄叫びを上げながら駆け出す他の傭兵達と共に前進する。

 開戦してすぐに両軍の間で〈軍団魔法(レギオン・マジック)〉による攻防が行われた後、両軍ともに行使する軍団魔法の種類は攻撃系から強化系と本陣防衛系へと変わった。

 それらの魔法の行使が終わると、互いの兵士達が相手側の陣地に向かって進軍を開始。

 後衛からの矢や攻撃魔法による援護を受けながら前進する兵士達と同じように傭兵部隊にも突撃が命じられた。



「とにかく敵兵を倒しまくれとは、シンプルな指示だな」



 まぁ、個々人の強さに格差が出やすいこの世界での戦争では、軍略家あたりが好みそうな凝った戦術や指揮などは大して役に立たない。

 全員に〈暴雷王〉の加護が一時的に与えられていることも踏まえると、このような猪突猛進なやり方が一周回って最適解だ。

 凝った戦術などは一人一人の力に差が殆どなく両軍の戦力が拮抗しているからこそ役に立つのであって、文字通りの一騎当千の強者や戦況を一変させるスキルや魔法、魔導具(マジックアイテム)といったモノが多数存在する世界では、存在意義が薄いと個人的には思っている。

 そのような力を持つ強者や強力なアイテムがない国同士の争いなら役に立つのだろうが、そんな国々はいつまでも存在できないぐらいには激動の時代だ。


 此度のレギラス王国とザルツヴァー戦王国の代理戦争もまさにその一端であり、国のトップとなった〈機怪王〉と〈暴雷王〉二人の超越者達の欲望とプライドに周辺の国々が巻き込まれている形だと言える。

 開戦のキッカケは色々あるようだが、一番の理由はやはり両国のちょうど中間地点にある中立国にある神造迷宮を手に入れるためだろう。

 つまりは、この中立国を占領すれば勝利なのだが、すぐに奪われたら意味がないのと戦後のことを考えれば中立国自体は出来るだけ無傷で手に入れる必要があった。

 そのため、最低でも中立国の周辺の国々は全て占領する必要があり、今いる戦場もそんな国々の支配者を決める舞台の一つにあたる。



「戦争の目的が巨塔だと考えると、ある意味では神が認める戦だとも言えるか」



 他の傭兵達から離れて行動した先にいた敵兵に向かって樹龍戦斧バオムドラを振り下ろす。

 頭頂部から股下まで真っ二つになった目の前の敵兵には目もくれず、後方から槍を突き出してくる二名の敵兵の身体を振り向き様に槍ごと両断する。

 そのまま敵兵を斬り払いながら、馬上にいる敵の指揮官級に向かって前進していく。

 俺一人に対して大量の矢が降り注いでくるが、防御系スキル【否弾の加護】と【矢避けの加護】でその全てを無力化する。

 彼我のレベル差が小さいと役に立たないスキルではあるが、弱体化していても基礎レベル自体に変化はないので雑兵相手には十全に効力を発揮していた。



「は、早く止めぶぼッ」


「遅い」



 慌てる敵兵の指揮官級に飛び掛かって首を刎ねる。

 そのまま敵兵のど真ん中に飛び込むと、バオムドラの石突き部分を地面に突き刺して能力を発動させた。

 


「【樹棘葬送】」



 バオムドラの能力が発動すると、俺の周囲の地面から大量の樹の根が這い出てきた。

 石突きを地面に刺している間だけ生み出せる樹の根を操って敵兵を蹂躙する。



「な、なんで根っこガボッ!?」


「潰れ、潰れブッ!?」


「グギャッ!?」



 成人男性の胴回りよりも太い樹の根を振り回して撲殺し、数人の兵士を纏めて拘束して圧し潰し、逃げ惑う兵士達を真下から生やした樹の根で貫いていく。

 先日大樹型エリアボスから手に入れた【怪宴触腕】も使って樹の根の動きの精度と速さを強化しているので、周囲の敵兵は逃げることも防ぐことも出来ずに次々とその生命を散らしていった。

 弱体化してもなお膨大にある分身体の保有魔力を消費し続けて樹の根を生み出す。

 その消費した大量の魔力も、バオムドラの【生命還元】で倒した敵兵の生命を魔力に変換して回復しているので大して減った感覚はない。


 瞬く間に百名以上の敵兵を倒していると、遠くから飛来した砲弾が外縁部で蠢いていた樹の根に着弾した。

 炸裂した砲撃がその一帯の樹の根を燃やしているのを確認してから、砲撃があった方角に視線を向けると、そこには全長十数メートルほどの巨大な人型の魔導兵器(マジックウェポン)の姿が見えた。



「アレが魔動機騎か」



 全体的にずんぐりとした形状の機甲錬騎とは違い、魔動機騎は比較的スラリとした形状の人型をしていた。

 機甲錬騎と比べると防御力の低そうな印象を受けるが、使われている装甲材や術式群を見るに寧ろ防御力は上回っている。

 ただ、砲撃を受けて延焼はしているがあまり破壊されていない樹の根を見る限り、逆に攻撃力の方は劣っているかもしれない。



「いや、両肩の砲塔からしてアレは遠距離支援タイプっぽいから結論を出すのは早計か」



 次々と砲撃を行う砲塔(キャノン)型魔動機騎に向けて【樹棘葬送】の樹の根を伸ばしていく。

 道中の兵士達を蹂躙しながらキャノン型に迫っていると、キャノン型が後退しようとしていた。

 やはり距離があると逃げられるな。



「足止めをするか」



 地面に刺したままのバオムドラから手を離すと、足元に転がっていた槍を拾って近場の樹の根を駆け上る。

 天辺まで上がると、そこから上空に飛び上がり槍に雷撃を込めてからキャノン型へと投擲した。

 投擲した雷槍によって片足を貫かれ破壊されたキャノン型が、地面に倒れていくのを確認しながら地上に着地する。

 バオムドラの柄を握って再び樹の根をキャノン型に殺到させる。

 程なくしてキャノン型が樹の根の群れに呑み込まれた。



「あとは中の搭乗者を殺せば収納できるな。他のも来たか」



 重厚な歩行音を立てながらキャノン型とは別のタイプの魔動機騎が接近してきた。

 キャノン型にあった両肩の砲塔は存在せず、縦長の盾と青く発光する魔動機騎用の巨大な魔剣を装備したタイプが二体。

 おそらく通常タイプにあたる機体のようなので、この二体は必ず確保する必要がある。



「【復元自在】があるし遠慮なく壊させてもらうか」



 キャノン型の砲撃では破壊されなかった樹の根を巨大魔剣で斬り払いながら近付いてくる通常タイプへと此方から距離を詰める。

 地面から引き抜いたバオムドラを振り抜くと、機体の正面に構えられた盾に防がれた。

 だが、巨大ではあっても伝説(レジェンド)級であるバオムドラよりも劣る材質と等級の盾では完全に防ぐことは出来ない。

 一撃で破壊された盾の残骸が宙を舞う中、【強欲神の虚空権手】を行使して自分の身体を通常タイプの胴体へと引き寄せる。

 念動力で引き寄せた勢いを活かして再度バオムドラを振るい、その斧刃を腹部にある搭乗席へと叩き込んだ。

 腹部を大きく陥没させたことで動きを止めた機体を蹴って跳び上がると、空中にいる俺に向かってもう一体の通常タイプが巨大魔剣を振り下ろしてきた。



「チッ。足場無しだと質量差はどうしようもないなッ」



 空中歩行系のスキルは封印しているので、そのまま空中を足場に踏ん張ることが出来ずに地面へ叩きつけられる。

 地面を陥没させながらも着地すると、頭上から通常タイプが踏み付け攻撃をしてきた。

 素早く息を整えてからスキル由来の闘気ではない素の闘気を喚起させて一気に身体能力を引き上げると、追加で今の状態で発動できる身体強化系スキルを発動してからバオムドラを背中に背負い直した。



『な、何だと?』


「足場があるならこの程度の質量差は問題ないんだよッ」



 振り下されてきた魔動機騎の足を両手で受け止めると、【強欲神の虚空権手】による念動力も使ってしっかりと足を保持してから魔動機騎を振り回す。

 持っているのは片足だけだし色々違うが、気分はジャイアントスイングだ。

 俺を軸に魔動機騎を振り回し駒のように高速回転しながら移動していく。

 十数メートルもの超巨大鈍器を手に入れた俺は、周りにいた敵兵を弾き飛ばすどころかミンチや血煙へと変えていった。

 ミシミシと魔動機騎の足の付け根が千切れそうになっていたが、その度に【復元自在】で直して振り回し続けた。



『そこの貴様ッ! 止めーー』


「ドーン!」



 新たに現れた上位機っぽい魔動機騎に向かって振り回していた通常タイプを手放す。

 狙い違わず通常タイプが上位機へと命中した。

 そのまま一度も刃を交えることなく上位機が沈黙し、吹き飛ばされた上位機と通常タイプに巻き込まれて多くの敵兵の命が戦場に散っていった。



「おっ、遂にレベルアップしたな。やった……ほほう」



 レベルアップの通知の直後、追加の通知が脳裏に浮かんできた。



[一定条件が達成されました]

[ユニークスキル【強欲神皇(マモン)】の【拝金蒐戯(マモニズム)】が発動します]

[対価を支払うことで新たなスキルを獲得可能です]

[【万夫不当の大英雄(ヘラクレス)】【万能と守護の伝令使(ヘルメス)】【雷霆と幻視の大天使(ラミエル)】【天槍煌輝の戦乙女(ブリュンヒルデ)】【無鳴仙歩】【瞬雷閃脚】【紅速脚力】【迅雷霊鎧】【雷霆軍神の戦威】【雷仙武掌】【飛雷鳥葬】【天雷霊毛】【磁雷装甲】【雷電属性強化】【雷精出力】【反撃ノ聖盾(アイギス)】【飛雷する霊翼】【天賦勇戯(ブレイヴ)】【英勇始祖ブレイヴヒーロー・オリジン】【勇者因子:不朽】【雷嵐の支配者】【雷霊の王】と大量の魔力を対価として支払い、ユニークスキル【天空至上の雷霆神(ゼウス)】を得ることができます]

[新たなスキルを獲得しますか?]



 名前を聞くだけでも強力なことが理解できるユニークスキルだな。

 対価として支払うスキルの損失も凄まじいが迷わず承諾だ。



[同意が確認されました]

[対価を支払い新たなスキルを獲得します]

[ユニークスキル【天空至上の雷霆神】を獲得しました]


[◼️◼️◼️◼️より恩寵が与えられます]

[称号〈雷神の加護〉を獲得しました]



 久しぶりの神域権能(ディヴァイン)級ユニークスキルの取得ーーと言っても前回取得時から二ヶ月も経っていないがーーによって魂の内側に充足感のある力が宿ったのを感じる。

 新たに手に入れた加護の力も合わさって制限無しで無秩序に力を振るいたくなるが、その気持ちをグッと抑え込む。

 他にも無性に女を抱きたい気持ちに襲われるが……まぁ、こっちは節度さえ保てば無理に抑える必要はないか。



「ん、また新手か?」



 滾り荒れる数々の欲望と折り合いを付けていると、遠方からまた別タイプの魔動機騎が接近してきていた。

 ただし今回の魔動機騎は、これまでの白っぽいカラーの機体とは異なり全体的に紅い機体だ。

 しかも、地面を走るのではなく僅かに地面から浮いた状態で移動している。

 機体の形状も全体的に細くも角張ったデザインをしており、良くも悪くも人型に寄せている魔動機騎よりも戦闘向けな印象を受ける機体だ。



「明らかに特殊な機体。まさに特殊機ってところか」



 コレも是非とも鹵獲しないとな。

 これまでに倒した機体も回収すべく、敵味方の目を欺くために【星界の大君主】の【星羅万象(アストラル・ルーラー)】で小規模の砂嵐を引き起こす。

 機能停止した魔動機騎達の姿が周囲から見えなくなったタイミングで【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】を発動させて一気に回収した。



「これで良し、っとビックリした。散弾か」



 油断していたところに紅い特殊機が両手に持つライフルから散弾が放たれてきた。しかも連射だ。

 しかし、搭乗者のレベルや特殊機自体のアイテム等級が低いせいで【否弾の加護】と【矢避けの加護】によって自動的に防がれていた。

 射撃が通じないことを理解した特殊機は使っていたライフルを腰に懸下すると、両手それぞれに細身の巨大魔剣を持ってから斬り掛かってきた。


 特殊機の動きは非常に滑らかで、その上に速い。

 背後から振り抜いたバオムドラで巨大魔剣と打ち合うが、巨大魔剣が格上の武器との接触でダメージを受け過ぎる前に機体全身を使って上手く衝撃を逃していた。

 対価で消えた【雷霆軍神の戦威】の代わりに【天空至上の雷霆神】の【雷霆の大君主】で生み出した、より一層強力になった雷撃をバオムドラに付与してから打ち合ってみるが、元々対雷電処理が施されていたようで思ったよりも効果がない。

 ただ、全く効果がないわけではないようで、巨大魔剣を伝って雷撃が特殊機の身体にダメージを与える度に少しずつ動きが悪くなっていた。

 おそらく元々想定していたであろう〈暴雷王〉の加護の力が相手ならば、雷轟戦使の永続版の力も含めてノーダメージだったと思われる。

 入念に施された雷撃対策とはいえ、神域権能級ユニークスキル直通の雷撃を防げるほどの効果がないのは当然だろう。

 


「とはいえ、速いし硬い。そして強いなッ」



 派手な武器こそ積まれていないみたいだが、この特殊機の性能はAランク魔物の下位といったところだろう。

 搭乗者の腕前も含めればAランク中位ぐらいの評価になるはずだ。

 魔動機騎の通常タイプがBランク魔物の中位か上位で、戦っていない上位機がBランク上位か最上位あたりと見るのが妥当か。

 魔動機騎を元にしたらしきロンダルヴィア帝国の機甲錬騎がBランク下位ぐらいだから、機体性能は確かに魔動機騎の方が上のようだな。


 今の身体能力ではこの特殊機を倒すのに時間が掛かりそうだ。

 戦場にいる他の魔動機騎とは雷轟戦使達が戦っているようだが、あまり時間を掛けていると此方に参戦してくる可能性がある。

 そうなると穏便に鹵獲することが困難になるだろう。

 なので、不本意だが即死スキルを使ってさっさと終わらせることにした。



「『死ね』」


『ーーッ』



 ユニークスキル【紡ぎ塞ぐ言霊の熾天使(サンダルフォン)】の【真言霊権(アファメーション)】による致死率強化の言霊で補助しつつ、特殊機の視覚素子越しに搭乗者へ【魔眼王の刻死眼(バロール)】を行使する。

 直接視認したわけではないが効果はあったらしく、あれほど激しく動いていた特殊機の動きが止まった。

 搭乗者の生命反応も消えていることから即死に成功したようだ。



「やはり【魔眼王の刻死眼】の力ならば機体越しでも殺せるか。良い実証ができ……おや? これは、蘇生能力か?」



 特殊機の搭乗席のあたりで停止したはずの生命活動が再開したのを感じた。

 経験値とスキルが得られていないので蘇生で間違いあるまい。

 特殊機の機能なのか、搭乗者自身の力なのかは知らないが、また殺す必要がありそうだ。



「……動かないな」



 警戒したが全く動く気配がなかったので、素早く特殊機に近付いて【強欲神皇】の【発掘自在】にて強制的に搭乗席のハッチを開けてみた。

 そこには搭乗席に座っている若い女性の姿があった。

 俯いている上に長髪なので顔がよく見えないが、たぶん美人だ。

 サラサラ艶々な髪と髪型、あと雰囲気的にも何となく清楚っぽい。

 気絶しているし生死はどうするかな、と思いつつ反射的に【情報賢能(ミーミル)】で彼女のステータスを確認した。



「ふむ……元貴族でユニークスキル持ちなのは、まぁいいとして。生まれつき両足が動かないみたいだな。その上、片手を負傷して欠損、っと」



 両足は先天的だから治療できないのは仕方ないとして、片手は何故……あ、もしかして没落貴族で単純に金が無いとかかな?

 詳しいことは彼女の記憶を探れば分かるだろうが、今はそんな時間はなかった。

 キャパシティに余裕はあるが、そこまで惹かれるユニークスキルというわけでもないので、わざわざ獲得する必要もない。

 ただ、〈強欲〉が疼くので一先ず彼女の身柄だけは確保しておくことにした。

 その後どうするかは彼女の記憶情報次第だな。



「取り敢えず眠らせとくか。『深き眠り(ディープ・スリープ)』」



 気絶している彼女を魔法で深い睡眠状態にすると、固有領域〈強欲の神座〉へ送り込んだ。

 緊急性は低いのでこの分身体(ホーアル)の手が空くまでは眠らせておくようにエジュダハに指示をしておく。

 綺麗な状態で鹵獲できた魔動機騎の特殊機も既に【無限宝庫】に収納済みなので、最低限の目的は達したな。



「さて、後は更なるレベルアップを目指して戦い続けるとしようか」



 地面に刺していたバオムドラを引き抜いて肩に担ぐと、周りを覆っていた砂嵐を解除する。

 戦場に立ち込める砂埃に紛れるようにして敵軍の前に躍り出ると、雷撃を纏うバオムドラを振り回していった。


 

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