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第303話 開発依頼



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー黒の魔塔へようこそ、アナスタシア皇女殿下。三帝剣の争奪戦後にご挨拶させていただいて以来ですね」


「お久しぶりです、リオン殿。この度は私どもの急な来訪を受け入れてくださり感謝致します」


「お気になさらず。数少ない同族からの頼みを無下にするほど狭量ではありませんよ。では、ご案内しましょう。どうぞ、此方へ」



 黒の魔塔の前にてアナスタシアと周りの目を気にした挨拶を済ませると、彼女達を魔塔の中へと案内する。

 代表である第七皇女のアナスタシア以外にも、彼女の専属侍女のエカテリーナや俺の分身体(ランスロット)なども同行している。

 魔塔内の者達からの挨拶を受けながら上階へと向かう。



「これは?」


「私が魔塔に設置した昇降機です。移動する階数が離れている場合はコレを使います」



 魔導具式エレベーターに乗り込むと、各階数の番号が書かれた多数のボタンの下にある表示板(パネル)に手を押し当てながら魔力を通す。

 特定の波長とリズムの魔力を通すと、行き先を示す別のパネルに魔塔主の部屋がある最上階が表示される。

 エレベーター内に最上階を示すボタンはなく、最上階に直行するにはこの魔力操作が出来なければならない。

 万が一の故障時の落下や襲撃時の対策用の多重障壁がエレベーターを包み込むと、最上階に向かって動き出した。



「もう俺達だけだからいつもの口調で構わないぞ」


「そう? じゃあ普段通りにするわね……改めて見ても変な感じね」



 俺とランスロットの両方を見比べながらのアナスタシアの言葉を受けて、ランスロットと共に肩を竦める。



「「他所では味わえない貴重な体験だろう?」」


「片方だけで話しなさいよ」


「それなら本体()だけが話そう。さて、到着だ」



 エレベーターの扉が開くと、その先には短い廊下が続いている。

 エレベーターの中から魔塔主の部屋の扉までの廊下には、侵入者対策の多数のトラップが仕掛けられているーー魔塔主の部屋に近付くにつれて致死性トラップが増えていくーーが、主である俺がいるので全てのトラップは発動しない。

 そんな廊下を抜けて魔塔主の部屋の中へとアナスタシア達を案内する。

 


「室内には危ないモノもあるから、そこの談話用のソファからあまり離れない方がいいぞ」


「……散らかってるわね」


「こっちの作業部屋を片付ける暇がなくてな。まぁ、何処に何があるかは分かってるから不都合はない」


「立たせたままならランスロットを使って片付けたら?」


「ふむ。それもそうだな」



 対談中は暇になるランスロットの身体を動かして室内を整理するのは良い考えだな。

 ランスロットで室内の片付けをしつつ、室内に置いているティーセットを使おうとしたら、素早く近付いてきたエカテリーナに奪われた。



「こういうのは私の仕事です」



 有無を言わせない態度のエカテリーナを揶揄いたくなったが、彼女の方が上手いのは間違いないので素直に任せることにした。

 紅茶の準備をするエカテリーナを横目に、アナスタシアの対面に座る。



「さて、ランスロットでも軽く聞きはしたが、本体の方でも改めて用件を聞かせてもらおうかな」


「ランスロットはランスロット。リオンはリオンということね」


「そういうことだ。それに、アークディア帝国の公爵であるリオンではなく、賢塔国セジウムの魔塔主であるリオンへの依頼なんだろう?」


「確かにね。では改めて最初から話すわ」



 居住まいを正したアナスタシアが、ロンダルヴィア帝国の第七皇女として、そして次期皇帝の座を狙う帝位候補者の一人として口を開く。



「私がセジウムのリオンに依頼したいのは、ロンダルヴィアの機甲錬騎の改良、もしくは新型の開発よ」


「機甲錬騎か。確か、大元は大陸中央部の何処ぞの戦場で使われた魔導兵器(マジックウェポン)だったな」



 嘘か真か、その魔導兵器は超越者となる前の〈機怪王〉が、まだ〈機勇童子〉の二つ名で呼ばれていた頃に作った物だとか。

 破壊されて戦場跡に放置されていた物を密かにロンダルヴィア帝国が回収し、復元・改良してできたのが今の機甲錬騎らしい。



「ええ、その機甲錬騎よ。知っての通り、ロンダルヴィアの軍部の権限の一部を掌握したことで、機甲錬騎関連にも融通が効くようになったわ。誰かさんが報復してくれたおかげでね」


「命じられた通り、暗殺未遂の報復をしたまでだけどな」



 数ヶ月前に起こったアナスタシアの暗殺未遂事件。

 未然に防いだその事件だが、首謀者は判明していた。

 というのも、アナスタシアと同じ帝位候補者の中の有力な皇子や皇女の元には、数は少ないが諜報用の眷属ゴーレムを潜ませている。

 そのため、対象が声に出したり書面に残しているような内容ならば大体把握していた。

 この暗殺依頼も同様で、正確な日時までは分からなかったが近いうちに来ることは分かっていた。

 他に暗殺を仄めかす発言をしているのはいなかったし、実行の時期もほぼ同じなので依頼主は確定している。

 そして返り討ちにして、報復を行なったわけだ。


 まぁ、暗殺未遂の報復で殺すのはアナスタシアの方針とは異なるため、相手の皇子をビビらせるだけにした。

 その皇子のコレクションの武器の一部を奪って、残っている武器の中から適当に選んで寝ている皇子の周りに突き刺しておく。

 更に、皇子を密かに守っていた影の護衛達を誰にも気付かれずに処理して、皇子の寝室内に転がす。

 更に更に、その護衛達の血を使って寝室の壁に『次の死の抱擁は二番目か?』といったメッセージを残した。

 おかげで二番目こと、暗殺の依頼主である第二皇子は不眠症になった。

 去り際に、オマケで悪夢を見るように魔法をかけたのが良かったのかもしれない。


 変貌してしまった第二皇子の姿に、彼が掌握していた軍部に揺らぎができたので、その機会に軍部の一部をアナスタシアが自派閥に引き込んでいったわけだ。

 どうやら機甲錬騎関連もその一部に入っていたらしい。



「だから、その権限範疇で自派閥で扱う機甲錬騎を開発しようと考えたの。でも、残念ながら主要開発者や開発施設は兄上が押さえているのもあって、独力での開発は到底不可能。そこでリオン(スポンサー)に依頼することにしたのよ。それに、この内容ならどのみち黒の魔塔が最適でしょう?」


「確かに、スポンサーのことを抜きにしても、他の魔塔ではなく魔導具(マジックアイテム)を専門に取り扱う此処に声を掛けるのは納得だな」



 既に似たような開発計画(プロジェクト)はアークディア帝国からも受けているしな。

 まぁ、あちらは俺の方から営業をかけたんだけど。



「これが依頼内容などを纏めた物よ」



 アナスタシアが収納系魔導具から取り出した書類の束を受け取り、順に目を通していく。



「……最初に言っていたように、主な内容は現在稼働している最新の機甲錬騎の改良と後継機の開発の依頼か。最新の機甲錬騎ってどんなやつだっけ?」


「最新の機甲錬騎というのは、戦場でリオンが倒しまくったアレよ」


「アレか。火力は中々だったが色々と問題が多い印象だったな」


「例えば?」


「搭乗者の脱出機能のない動く棺桶だったし、デザインがダサいし、動きが遅いとかかな。総合評価としてはBランク魔物ぐらいだから悪くはないんだが、良くもないというのが正直なところだ」


「辛辣な評価ね。まぁ、思わず納得しちゃったけど。リオンが開発した機甲錬騎も使って派閥の実績を上げて、ゆくゆくは魔王の討伐へと繋げるつもりよ」


「魔王戦に参加するとしたら遠距離型かな……まぁ、それは派生でいいとして。基本となる拡張性の高い汎用型を作った方が他の開発にも活かせるか?」


「それだと開発に時間がかかるんじゃない?」


「そうだな。だから新規設計の汎用型と現行機の改良型で開発チームを分ける必要がある」



 アークディア帝国用に〈機甲竜〉を開発しているチームは動かせないが、魔塔には他にも物好きがいるし、声を掛ければ嬉々として頑張るだろう。

 互いに競わせれば良い刺激になるはずだ。



「取り敢えず了承した。開発資金なども一先ず書面の額で構わない。足りないようならまた連絡する。機甲錬騎のサンプルを二体分用意したとあるが?」


「この中にあるわ。サイズがサイズだから上半身と下半身に分けて収納しているけど大丈夫?」


「問題ない」



 アナスタシアが取り出した四つの大型収納系魔導具の中に手を突っ込んでいき、【無限宝庫】の収納空間へと移動させた。

 最近よく軍部に行っていたから、そのどこかで受け取っていたようだ。



「他に用件は?」


「特にないわね」



 アナスタシアの言葉に頷きを返すと、室内に設置してある屋内放送用の魔導具を操作し、機甲錬騎の開発チームに推す者達の名前を羅列して会議室に集まるように告げた。



「守秘義務については書面通りに。資金の送金と開発の進捗報告についてはランスロット経由で」


「ええ、分かったわ。それじゃあ忙しくなりそうだからお暇するわね」


「玄関まで送ろう」


「あら、ありがとう」



 アナスタシア達を魔塔の玄関まで見送ると、本体は会議室へと向かった。


 そんな本体側とは別にランスロット側にも意識を向ける。



「さっきは聞きそびれたんだけど」


「うん」


「魔塔内での開発事にはリオンは関わらないの?」


「いや、するぞ。ただ、俺が常にいるわけじゃないからな。だから開発チームというのは、俺がいない間に開発を進めさせるための人員というわけだ」


「ふぅん。そういうことなら良いけど」


「さっき聞けば良かったのに」


「もし駄目だったら魔塔主に責任を問おうと思ってただけよ」


「怖っ」


「冗談よ、冗談」



 アナスタシアの冗談に聞こえない発言を聞いていると馬車が停まった。

 飛空艇の発着場に着いたのでセジウムにある帝国大使館の馬車から降りると、そのままロンダルヴィア帝国の飛空艇へと搭乗した。

 皇族用の部屋に移動すると再びアナスタシアが口を開いた。

 


「開発が終わるまでどのくらい掛かる見通しかしら?」


「早くて来年以内。遅くて数年の間には開発の成果を見せられるだろう」


「意外と早いわね」


「言ったろ。俺が主導だってな。俺のみで集中してやるなら、十日もあれば最低限の成果は見せられるかな」


「流石は賢者ね……セジウムを介してしか依頼出来ないのが本当に残念だわ」



 呆れ顔も美人なアナスタシアに、俺が趣味丸出しで自重せずに作った特種飛翔型機甲錬騎〈Azazel〉を見せたらどんな反応が返ってくるだろうか。

 Azazelに使われている技術は、ロンダルヴィア帝国の現行機よりも最低で三世代は先を行っている。

 一機でロンダルヴィア帝国軍と渡り合えるぐらいの性能はあると思うし……おそらく、機甲錬騎の原典があるレギラス王国の兵器よりも上だろう。


 まぁ、明らかに規格外性能(オーバースペック)なAzazelのことは横に置いておくとして。

 機甲錬騎のオリジナルがある現在のレギラス王国の兵器の性能は、開発に取り組むに当たって調べておく必要があるだろう。

 (スパイ)として送った三人の支配済みの人工勇者達は所属が違うし、当人達も興味が無かったみたいだから持っている情報が少なかった。

 三人を動かしてもいいが、変に支配前と違う行動を取らせると貴重な支配済み人工勇者を失うことに繋がるかもしれない。



「レギラス王国の魔導兵器より上の性能を目指すのがいいか?」


「〈魔動機騎〉のこと?」


「そう、それそれ」


「そうねぇ。魔動機騎に匹敵する性能なら周りも羨むでしょうね」


「それなら新型も改良型も最低限の目標はそこにするか。となると、魔動機騎のサンプルが欲しいところだな」


「そういえば、近日中にレギラスとザルツヴァーで戦端が開かれるみたいね」


「知っている。先ずは末端同士の争いだったな」



 最初はレギラス王国とザルツヴァー戦王国が直接争うんじゃなくて、両国それぞれの同盟国やら属国やらが争うらしいから、あまり興味は湧かないんだよな。



「ええ。その戦場で自勢力に〈機怪王〉が魔動機騎を提供するらしいわ」


「ほう……」


「あくまでも噂だけどね」



 そういうことなら、今後のために観戦する必要がありそうだな。

 彼方此方と我ながら忙しいものだ。


 

 

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