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第301話 暇潰しとテスト



 ◆◇◆◇◆◇



 中継拠点が置かれる予定の第三十一エリア帯の自然環境は主に〈草原〉と〈森林〉で構成されている。

 そのため、中継拠点は開けた草原の中に築かれることになる。

 冒険者達も遠目から場所が分かり、逆に遠方から近付く魔物の姿もよく見え、防衛がしやすいなどといった利点があった。

 俺が遭遇した時の開拓計画以外にも、過去に幾度となく失敗し、試行錯誤が繰り返された末に辿り着いた場所らしい。


 そんな中継拠点だが、到着してすぐに着工することはできない。

 予定している中継拠点の規模は町レベルであり、通常であれば頑強な城壁も含めて完成までに年単位の時間が掛かるだろう。

 だが、今回の開拓計画では国からの依頼を受けた俺が一番重要な城壁と拠点内の基礎部分を担当することになっている。

 スキルによってすぐに出来上がるので、中継拠点完成までの所要時間は一気に短縮される。

 ユニークスキル【神魔権蒐星操典(レメゲトン)】の【神殿創造主】の力を使えば、魔力消費のみで都市一つを創造することが可能だ。

 残りの部分を開拓部隊の方で建築するにしても、数ヶ月もあれば中継拠点は完成できるだろう。



「とはいえ、国への配慮も必要だからな」



 俺への依頼料や他所の利権との兼ね合いなどの問題から、城壁と基礎部分の建築には魔力消費のみではなく、実際の建築資材を使うことになっている。

 建築資材を俺の魔力で代用する分だけ依頼料が激増するのを考えれば、当然と言えば当然だろう。

 そのあたりの交渉を妥協するつもりはない。

 金に困っているなら減額を受け入れることはなかったが、別に困っていないので借りを作る方向で交渉を進めたわけだ。


 地上から持ち込んだ分以外の資材は草原の周りに広がる森林から調達される。

 資材が用意されるまで完成までの時間が延びることになるが、そこまで待つことにはならないはずだ。

 まぁ、資材の準備が整うまで暇であることには変わりないが。



「【兵站と補給の魔権(ハルファス)】か【建造と防衛の魔権(サブラック)】を使って熟練度(レベル)を上げるのが賢いか……」

 


 どちらの魔権系ユニークスキルにも【都市建造】という内包スキルがある。

 【神殿創造主】とは違って、発動するには魔力だけでなく建築資材も必要なスキルだ。

 既に神域権能(ディヴァイン)級であるためランクアップしない【神魔権蒐星操典】の【神殿創造主】を使うよりも、どちらかの特異権能(エクストラ)級の魔権を使って建てる方が利口だし効率的だろう。



「暇そうですね」


「暇だからな……ふぁ」



 現在地は中継拠点予定地に建てた仮設テント内。

 その中に設置した自作のリクライニングチェアに座ったまま大きな欠伸をする。

 ヴァルハラクランの殆どの団員達はこの小エリア内の魔物の掃討に向かわせたので近くにはいない。

 エリン達五人も第一部隊として他の団員達と同様に魔物の討伐に向かった。

 俺とリーゼロッテは能力的にもランク的にも団員達の仕事を奪ってしまうので留守番だ。


 クリストフ達アルヴァアイン方面軍と非戦闘員の人足達は、森林から木々を伐採し運び出す作業を行なっている。

 これが【都市建造】で使用する分の建築資材になるわけだが、実際の建築で使うような乾燥や成型などの処理は必要ない。

 過程は必要なく、資材となる前の資源さえあれば問題ないといういい加減さ……もとい便利さは、流石はユニークスキルというべきだろう。


 此処が神造迷宮内なので、減った分の魔物は時間が経てば補充される。

 そのため、中継拠点予定地がある小エリア内の魔物を完全に排除することは事実上不可能だ。

 つまり、作業を行う開拓部隊は危険に晒され続けることになるので、中継拠点が完成するまで開拓部隊の護衛依頼は続く。

 元より長期依頼であるので承知の上だが、思っていたよりも暇な時間が多い。


 組織構造で言えば部下にあたる団員達が魔物討伐で忙しい一方で、トップである俺は時間がある。

 まぁ、組織のトップが現場で慌ただしく動き回るよりは良いのは理解できるので仕方がない。

 仕方がないが、このまま何もせず待機は退屈なので暇潰しにでも行くとしよう。

 背もたれを倒すと、室内のソファに座って本を読んでいるリーゼロッテへと視線を向ける。



「ここのエリア帯のボスでも倒しに行かないか?」


「一日も大人しくできませんでしたか」


「酷い言い草だな。まぁ、事実だけど」


「今さら〈中層〉のエリアボス程度では暇潰しにはならないと思いますが?」


「ボスの素材で暇潰しに何か作れるだろ?」


「可哀想なボスですね」


「中継拠点から最も近くにいるエリアボスの価値を見定めるっていう目的もあるんだぞ」


「後付けでしょう?」



 やれやれ、といった雰囲気を醸し出しながら出掛ける準備をするリーゼロッテ。

 俺のことをよく理解してくれているのは嬉しい反面、胸の内をあっさりと見抜かれてしまうので厄介でもあった。

 それだけ気心知れているわけだが……まぁ、贅沢な悩みだな。



 ◆◇◆◇◆◇



 第三十一エリア帯のエリアボスは、植物タイプの魔物である〈喰らい増す魔天樹アルボスト・フローヴォア〉。

 第三十一エリア帯の中枢エリアの中心部に聳え立っており、生命を喰らう度に周りに下位種や非魔物の植物を増やしていくという特徴を持つ。

 他にも、討伐されると増やした下位種も植物も全て滅びるという特徴を持つため、中枢エリアがどれほど森に呑まれているかで、現在いるフローヴォアがどれほど生き延びているかを判断することができる。


 リーゼロッテと共にやってきた中枢エリアは、元々は九割が草原だったのが今や草原は三割しか存在しない。

 中継拠点の選定の際にエリアボスについても調査されているため、その時に森が拡大したのかもしれないな。

 そんな森の中をリーゼロッテと共に歩いていく。

 通常の樹々に擬態している魔樹(トレント)系の魔物が襲ってくるが、俺は【黄昏ノ貪喰(フローズヴィトニル)】の貪喰のオーラで触れてきたトレントを喰らい尽くし、リーゼロッテは纏う極寒の冷気の魔力によって触れさせる前に凍結させ破壊していた。



「中層の魔物だからでしょうか。この魔力の鎧すら破ることができないみたいですね」



 リーゼロッテが纏っている〈氷刻の魔女〉由来の魔力は、彼女のユニークスキル【星従傲慢の氷源女帝(ニブルレギナ)】の力で格段に強化されている。

 その上、固有特性〈忠義者〉によって主人扱いになっている俺の傍にいる間は全能力値が三割強化される。

 加えて、内包スキル【王権代行(レガリア)】の効果の一つで主人である俺の能力値の十分の一がリーゼロッテの能力値に常態的に加算されている。

 結果、上級Sランク冒険者に匹敵するほどのスペックになっている〈氷刻の魔女(リーゼロッテ)〉の魔力は、発する魔力だけでも大抵の魔物を討つことができる領域に至っていた。

 完全に支配下に置いた【嫉妬(ザ・エンヴィー)】の力を使えば更に強化されることも踏まえると、もはや歩く自然災害と化していると言っても過言ではないだろう。



「今のリーゼなら弱いエリアボスは魔力を放つだけでも勝てそうだな」


「これも愛の力ですね」


「……そうだな」



 〈傲慢〉と〈嫉妬〉の力じゃね? とは口が裂けても言えなかった。

 そんな平和的な散歩をしながら雑談していると、フローヴォアが聳え立つ中心部に到着した。

 周りの樹々よりも太く、見上げると首が痛くなりそうなほどに巨大なフローヴォアは、俺達を認識すると自らの身体と地中から大量の木製の触腕を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。

 それと同時に、周りから多数のフローヴォアの下位種が集まってきた。

 フローヴォア自体は歩行できないが、下位種は歩行できるので集まってくるのも当然だ。



「予定通りフローヴォア自体は俺がやるから、リーゼは周りの奴をよろしく」


「分かりました。適当に相手をしておきます」



 リーゼロッテよりも前に出ると、〈天喰王〉リンファから貰った装備である〈九頭龍王の宝環(ナインヘッド)〉の能力を発動させた。



「【九天金喰霊尾(ナインテイル)】」



 迷宮秘宝(アーティファクト)である龍王宝環ナインヘッドが持つ唯一の能力【九頭の宝能龍】を使ってリンファからコピーさせてもらった【九天金喰霊尾】を発動したことで、腰の辺りから黄金色の狐のような尻尾〈金喰霊尾(こんじきれいび)〉が九つ具現化した。

 一つあたり二メートルもない金喰霊尾が、俺の意思に従って伸長し、迫り来るフローヴォアの触腕を迎撃する。

 一瞬で数十メートルもの長さと数メートルほどの太さに変化した金喰霊尾は、フローヴォアの触腕を一方的に破砕していく。

 まるで黄金色の龍のようにも狼のようにも見える金喰霊尾の猛威は、流石は神域権能(ディヴァイン)級ユニークスキルの内包スキルだと言える。


 龍王宝環ナインヘッドの能力【九頭の宝能龍】は、『触れた対象の能力を最大で九つまでコピーし使用できる』という絶大な力を持つ。

 ただし、アーティファクトとはいえナインヘッドの等級は伝説(レジェンド)級最上位であるため、格上の存在である神域級能力を一つコピーするにはコピー枠を三つ分消費する。

 コピーした能力を上手く扱えるかどうかは所有者のセンス次第なので、リンファも手に入れた当初こそ使ってみたが、すぐに持て余して使わなくなったらしい。

 

 そんなナインヘッドには現在三つの神域級能力がコピーされている。

 一つはリンファからコピーした【九天金喰霊尾】で、残り二つは彼女と同じ超越者である〈熾剣王〉ヴィクトリアから【終炎崩能(ムスペル)】と【炎界顕現(ムスペルヘイム)】をコピーさせてもらっている。

 前の異世界から続く自分の女であるヴィクトリアは、リンファとは違って気軽に会いに行けるので、【終炎崩能】と【炎界顕現】はいつでも変更が可能だ。

 まぁ、この二つ以外の内包スキルも攻撃性が高いので、基本的に変更することはないだろうけど。



「JUWOO、TWUREEEeeーーーッ!?」


「この叫びって、どっから声が出てるんだろうな」



 フローヴォアには分かりやすい顔や口も見当たらないので地味に謎だ。

 追加で金喰霊尾に【黄昏ノ貪喰】の貪喰のオーラを纏わせて攻撃力を上げると、砂の城を崩すかのような勢いで木製の触腕の群れが消滅していく。

 九つの捕喰者の顎は、あっという間にフローヴォア本体へと到達し、その巨木へと牙を突き立てる。

 俺は一歩も動いていないが、金喰霊尾を自動迎撃(オート)ではなく思考操作で動かしているので、一応ちゃんと戦ってはいる。

 例え、暇潰しがてらナインヘッドや【九天金喰霊尾】のテストを行なっていても戦闘行動であることには変わりないのだ。



「ふむ……そこか」



 金喰霊尾で徐々に削られ、弱っていくフローヴォアの中で変わらず生命力が強いままの部分を見抜くと、その部位に向かって〈龍喰財蒐の神刀(アメノハバキリ)〉を投擲した。

 アメノハバキリがフローヴォアの幹の上部にある一点に突き刺さると、フローヴォアは数瞬の間巨体を震わせてから生命活動を停止させた。



[スキル【怪宴触腕】を獲得しました]

[スキル【腐命豊換】を獲得しました]

[スキル【樹界繁茂】を獲得しました]

[スキル【魔植物顕現】を獲得しました]

[スキル【栽培の心得】を獲得しました]

[スキル【剪定の心得】を獲得しました]

[スキル【豊穣の舞い】を獲得しました]

[スキル【大樹の母】を獲得しました]



[神器〈龍喰財蒐の神刀〉の能力【財ヲ顕ス強欲ノ刃】が発動しました]

[討伐対象から財物が顕在化(ドロップ)します]

[アイテム〈樹精宝杖フォルヴィア〉を獲得しました]



 【妖星王眼(グラムサイト)】の【戦神ノ偽眼(ロストアイズ)】によって看破した急所を破壊してから討伐したことで、フローヴォアの素材を綺麗な形で確保することができた。

 フローヴォアの根本に出現したボス宝箱共々【無限宝庫】へと収納する。

 周囲の森の樹々が急速に枯れていく中、リーゼロッテによって凍らされた樹々や魔物達は枯れずにそのままだった。



「ふむ。凍ったら枯れる対象外になるのか、それともリーゼの氷が特別なのか。興味深いな」


「私もその尻尾が非常に興味深いですね」



 ジッと金喰霊尾を見つめてくるリーゼロッテの様子に肩を竦めつつ、彼女が倒した分の魔物も収納していった。

 さて、中継拠点予定地に戻ったらボス素材で物作りでもしようかな。

 あれだけデカいから暫く暇潰しの玩具には困らなさそうだ。




 

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