第299話 戦利品と装備
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レギラス王国の人工勇者達との邂逅から三日後。
捕らえた十名の人工勇者達の内、研究対象にしていた七名の人工勇者達の解析を終えたので、戦利品を戴くべく後始末を行なった。
[ジョブスキル【盗王】を獲得しました]
[ジョブスキル【大銃士】を獲得しました]
[ジョブスキル【双銃士】を獲得しました]
[ジョブスキル【銃闘士】を獲得しました]
[ジョブスキル【弓聖】を獲得しました]
[ジョブスキル【占星術師】を獲得しました]
[神器〈龍喰財蒐の神刀〉の能力【財ヲ顕ス強欲ノ刃】が発動しました]
[討伐対象から財物が顕在化します]
[アイテム〈盗奪勇環ヴァレファール〉を獲得しました]
[アイテム〈死穿勇弓レラジェ〉を獲得しました]
[アイテム〈術法勇手パイモン〉を獲得しました]
[アイテム〈天賦勇環:斧術〉を獲得しました]
[アイテム〈天賦勇環:剣術〉を獲得しました]
[アイテム〈天賦勇環:槍術〉を獲得しました]
[アイテム〈天賦勇環:盾術〉を獲得しました]
ふむ。用が済んだ人工勇者達を処分してアイテムをドロップさせたが、ユニークスキル持ちでなかったら〈天賦勇環〉というアイテムが確定ドロップするようだ。
名称的にも人工勇者を形作る力が影響しているのだろう。
まぁ、その力自体もユニークスキルの一部であることを考えれば、〈天賦勇環〉もユニークスキルがアイテムとして形を成しただけなのかもしれない。
残りの三名の人工勇者達には、【煌血の大君主】の【支配ノ血】で俺の血を寄生させた上で生かしたまま解放済みだ。
擬似眷属化というか洗脳というか上書きというか、まぁそんな感じの支配状態にしてから解放した三名の人工勇者には、レギラス王国へと帰還させて〈機怪王〉達へと偽りの報告を上げさせた。
内容は、何故か宝物庫の鍵が途中で通じなくなり、自分達三人以外は宝物庫内の罠や番人によって全滅したという報告だ。
血が一体化しているのもあって状態異常扱いではないからか、〈機怪王〉の【万能鑑定】でも看破されることはなかった。
あとは、人工勇者の力の強さが良い隠れ蓑になって、体内の異物の気配が覆い隠されているのも一因と思われる。
これならば怪しまれることなくレギラス王国中枢の情報を集められるだろう。
「レギラス王国の情報は草の三人に任せるとして、次はこっちだな」
人工勇者達の処理を済ませると、人工勇者という存在を形作っていた力の処理に着手する。
開発中の新アイテムに使っている特別な宝珠を転用し、そのアイテムへと彼ら自身や彼らの装備品から抽出した力を封入していた。
その結果、人工勇者の〈勇者〉の力は〈勇者の偽晶〉に、人工勇者や聖剣などの武器を作るのに使われていたスキルの力は〈機怪の欠片〉という名のアイテムにそれぞれ変化した。
それぞれの数は十個未満ではあるが、単体での使い道はほぼないので実験がてら融合させてみることにする。
[対象を融合します]
[〈勇者の偽晶〉+〈勇者の偽晶〉+〈始原ノ泥〉=〈不朽勇者の権晶〉]
[〈機怪の欠片〉+〈機怪の欠片〉+〈始原ノ泥〉=〈機怪神権の欠片〉]
創造補正のある〈始原ノ泥〉も混ぜつつ同名アイテム同士の融合を繰り返し、それぞれに宿る力の質と濃度を高めていくと、やがてアイテム名が変化した。
今ならば能力を剥奪しても価値のある力が手に入れられる。
[アイテム〈不朽勇者の権晶〉から能力が剥奪されます]
[スキル【天賦勇戯】を獲得しました]
[スキル【勇者因子:不朽】を獲得しました]
[アイテム〈機怪神権の欠片〉から能力が剥奪されます]
[スキル【想造改戯】を獲得しました]
お、一つどころか二つも〈機怪王〉が持つユニークスキルの内包スキルが手に入ったか。
人工勇者を作るための材料とツールが両方手に入ったので、俺も人工勇者を作ること自体はできる。
だが、〈機怪王〉が持つオリジナルである【天賦勇戯】と【想造改戯】は、神域権能級ユニークスキル【天機想造の時空神】の内包スキルとして存在するため、スキルの効力では俺の方が劣っているはずだ。
俺は〈創造の勇者〉の称号補正によって創造行為が強化されはするが、あちらにも〈機怪王〉という王権称号があるため、その称号効果次第ではスキルの効力の差が縮まることはないだろう。
それでも人工勇者の質や完成度で上回ることは可能かもしれないが、コストなどを考えると必要でもない限りは試すことはない。
というよりも、二番煎じなので気が乗らないというのが本音なのだが。
どうせやるなら〈魔王〉の偽物を……。
「……おや、作れそうだな?」
魔王モドキの肉体を作る【魔王偽創】に、魔王の魂の偽証たる【魔王の偽魂石】、【想造改戯】の力の欠片が宿る〈機怪の欠片〉、そして創造補正を齎す〈始原ノ泥〉。
これらを融合すればイメージ通りのスキルが作れる気がする……。
ちょうど〈機怪の欠片〉が一個余っているのも都合が良い。
[対象を融合します]
[【魔王偽創】+【魔王の偽魂石】+〈機怪の欠片〉+〈始原ノ泥〉=【魔王似戯】]
ううむ……本当に作れてしまった。
狙い通り紛い物の〈魔王〉を生み出すスキルのようだが、この魔王では〈星戦〉が発動することもないし、魔王討伐によるドロップも発生しないらしい。
【想造改戯】でも本物の〈勇者〉が作れなかったように、あくまでも〈魔王〉の如き強さと変質を起こすスキルでしかないようだ。
実際に使うかどうかはさておき、面白いスキルが手に入ったことには違いない。
[特殊条件〈贋作の極意〉〈創造の極意〉などを達成しました]
[ジョブスキル【贋作者】を取得しました]
ふむ。偽物を作る際に補正を齎すジョブスキルか。
【複製する黄金の腕環】で分身体を作ったりアイテムを複製する以外にも、【空想具象】を使う際にも補正が掛かるようなので、後で詳細を調べるとしよう。
「……っと、効果が切れたか。また時間が短くなってやがるな」
装着している全ての装備を外して裸になると、【無限宝庫】から特殊錬金塗料を取り出す。
その自作した塗料に魔力を通して活性化させてから、【強欲神の虚空権手】の念動力で塗料を操作して全身に〈弱化〉の〈魔賢神紋〉を描いていく。
身体能力を弱体化させる〈弱化〉のルーンを刻んでいるのは、成長系スキルである【背水精進】の効力を発揮させるためだ。
スキルを【萬神封ずる奈落の鎖】で封印することで効力を発揮できたが、数多あるスキルの中から取捨選択するのが面倒だった。
そのため現在は、【始源の魔賢神紋】によって常態的に身体能力値を弱体化させることで、【背水精進】による成長力の強化率を上げる方法を使っている。
タルタロスでのスキル封印も行うが、常に行なっているのはルーンの方だ。
能力値という基礎部分の封印・弱体化なので、かなりの制限になっており、成長力の強化率も中々のものになっている。
それでもなお並みの上級Sランク冒険者よりも高い身体能力なのだが、これが弱体化できる限界なのだから仕方ない。
また、そのまま魔力のみでルーンを描くと数秒と経たずに抵抗してしまうため、ルーンの効能を高めるために専用塗料まで開発することになった。
おかげで当初は一度描くと三日は保っていた。
ただ、今では一部の耐性スキルを封印してもルーンを使う度に短くなっているので、この方法もいずれ使えなくなるだろう。
まぁ、素の耐性部分でも順調に成長していることが分かるので悪い気はしない。
ルーンを全身に描き終え、描いたルーンが肉体に同化して見えなくなったのを確認してから装備を再装着した。
「最後に死体の処理をするか。巻き込まれるからエジュダハ達は離れていろ」
「承知しました」
人工勇者達の研究の手伝いをしていたエジュダハと秘密研究所配属の〈魔精人形〉達に俺から離れるよう指示を出す。
彼らが十分離れたのを確認してから、回収しておいたレギラス兵達の死体の山を人工勇者達の死体の近くに配置すると、〈黄金の魔女〉の固有魔法を発動させた。
「『欲深き強欲の蒐獲祭』」
足元に展開された黄金色の魔法陣が、人工勇者達とレギラス兵の死体の山を魔力粒子へと分解して魔法陣に吸収していく。
黄金色の魔法陣が虹色に明滅すると、脳裏に浮かぶ〈蒐獲可能物一覧表〉の中から蒐獲物〈勇猛戦神の黄金腰帯〉を選択して手元に創造させた。
ちょうど装備を更新したい気分だったので、迷わずコレを選んだ。
自作した腰部装備〈黄金覇王のベルト〉も悪くはないのだが、今の保有スキルからすれば下位互換の能力しかなかったので、以後はコチラのベルトに変更するとしよう。
ついでに似た理由で手部装備も〈鉱喰竜の革手袋〉から〈術法勇手パイモン〉へと変更しておくか。
「さて、じゃあ後のことは任せたぞ」
「お任せを。マスターには要らぬ心配でしょうが、お気を付けくださいませ」
「ああ。では行ってくる」
異界にある固有領域〈強欲の神座〉からアルヴァアインの屋敷へと戻る。
屋敷では既にリーゼロッテ達が準備を済ませて待機していた。
「ギリギリでしたね」
「一応は時間通りだ。準備は良いみたいだな?」
今日はヴァルハラクラン全体で行う初めての依頼の実施日だ。
アルヴァアインにある巨塔こと神造迷宮のダンジョンエリア内に中継拠点を築くという国家事業に関わるからか、リーゼロッテ以外の面々は少し緊張しているように見える。
適度な緊張感は必要だと思うので、特に触れる必要はないだろう。
「装備が変わりましたね?」
「まぁ、良い機会だったからな」
リーゼロッテの目敏さに軽く戦慄しつつ、ふと良いことに気付いた。
「あ、そうだ。エリンとマルギットとシルヴィアにはコレをやるよ」
【無限宝庫】から取り出した〈天賦勇環:剣術〉と〈天賦勇環:槍術〉、そして〈天賦勇環:盾術〉を手渡していった。
「それぞれ装着していれば剣、槍、盾の扱いなどが更に強化されるアイテムだ。指環にも腕環にもサイズは変わるから、良ければ使ってくれ」
「よろしいのですか?」
「まぁ、俺には無用の長物だからな」
「そういうことなら」
「有り難く使わせてもらうわね」
叙事級なら複製して量産できたんだが、残念ながらギリギリ伝説級だった。
特定技術の強化以外にも身体能力の向上効果もあるし、そのまま死蔵するよりは彼女達に使ってもらう方がいい。
「……悪いけど後衛組に渡せるようなアイテムは手に入らなかったんだ」
「ええー」
素直に不満の声を漏らすカレン以外にも、セレナとリーゼロッテの二人も「自分の分は?」とでも言いたげな様子だった。
そのうち何か用意しておいたほうがいいかもしれない。
ま、今回の依頼の間に考えておくとしよう。




