第211話 マモンとシルキー
◆◇◆◇◆◇
神造迷宮への四回目の遠征から帰還して一ヶ月が経った。
この一ヶ月の間に起こったスキル関連の変化を振り返るために、脳裏に関連した通知情報を再表示する。
[保有スキルの熟練度が規定値に達しました]
[ジョブスキル【高位鍛治師】がジョブスキル【最高位鍛治師】にランクアップしました]
[ジョブスキル【高位裁縫師】がジョブスキル【最高位裁縫師】にランクアップしました]
[ジョブスキル【彫金師】がジョブスキル【高位彫金師】にランクアップしました]
[ジョブスキル【大工】がジョブスキル【高位大工】にランクアップしました]
巨塔から帰還後、商会の仕事や趣味の製作作業を行なっているうちに、幾つかのジョブスキルがランクアップした。
既に取得している生産系のジョブスキルのランクアップもそろそろ頭打ちになりそうだ。
[スキルを合成します]
[【魔導騎士】+【神聖騎士】=【星導騎士】]
先日の遠征にて、徘徊主・神の使影から【剣聖】と同じ特殊ジョブスキルである【天騎士】を獲得した。
【大騎士】から【騎士王】を飛ばして【天騎士】を取得したことをきっかけに、既に取得している騎士系ジョブスキルの中から二つを合成させてみた。
素材にした二つのジョブスキルによる能力値へ加算されるボーナスの合計値よりも、特殊系ジョブスキルに分類される【星導騎士】一つのほうが能力値へのボーナスが大きい。
魔法技能や騎士技能、神聖系技能などへの補正も引き継いでいるため、今後は役に立ってくれるだろう。
[経験値が規定値に達しました]
[スキル【錬金の心得】を習得しました]
[スキル【調理の心得】を習得しました]
[スキル【調薬の心得】を習得しました]
[スキル【裁縫の心得】を習得しました]
[スキル【細工の心得】を習得しました]
[スキル【彫金の心得】を習得しました]
[スキル【木工の心得】を習得しました]
[スキル【解体の心得】を習得しました]
[スキル【運搬の心得】を習得しました]
[スキル【投擲防御術】を習得しました]
[スキル【武器入れ替え】を習得しました]
[スキル【書記術】を習得しました]
[スキル【暗記】を習得しました]
[スキル【解体術】を習得しました]
[スキルを合成します]
[【鍛治の心得】+【錬金の心得】+【調理の心得】+【調薬の心得】+【裁縫の心得】+【細工の心得】+【彫金の心得】+【木工の心得】=【職人の極み】]
スキルレンタル業のサービス開始に向けてレンタルスキルのラインナップを増やすために、【星の叡智】にて習得方法が解禁されているスキルの中から、短期間で取得できそうな幾つかのスキルを習得した。
大半は、一部のパッシブスキルやユニークスキルの所為でこれまで習得し難くなっていただけなので、それらの発動を【強欲神皇】の固有特性〈強欲蒐権〉でオフにしてから集中して訓練したらすぐに習得することができた。
普段は習得するのに必要な量の経験を積む前に作業が終わるのも珍しくなく、優先順位の低いスキルは今回のような機会でもない限り習得することはなかっただろう。
「……そろそろか」
今いる場所は、異界にある俺の固有領域〈強欲の神座〉内に作った、俺の余剰魔力に満ちた特殊な空間。
そこの中心には氷冠青霊鸞の卵が安置されており、六大精霊達がその卵を取り囲んでいた。
普段のぬいぐるみのような省エネ形態ではなく、通常形態にて顕現している六大精霊達は、中央のマグナアヴィスの卵へと自分達の魔力を注入している。
六大精霊達の足元には特別な術式陣が敷かれており、その効果によって全員が同じ量と質の魔力が注入できるように制限されていた。
「そこまででいいぞ。ご苦労だった」
『『『つ、疲れた……ッ!』』』
俺が声を掛けると六大精霊達は魔力注入作業を止め、全員が通常形態から省エネ形態へと形を変化させて、地面に寝転がるとグッタリとなっていた。
視線をマグナアヴィスの卵へと向けると、元の青白色から仄かに虹色が浮かぶ白色へと変わっていた。
霊鳥種に分類されるマグナアヴィスは、卵の時期に同種である親鳥から魔力を供給されることで孵化するという生態だ。
そして、この時に魔力供給を最も多く受けた相手を親鳥、魔力を供給してくれた相手に懐くという特徴を持つらしい。
つまり、卵の時期は魔力の影響を大きく受けるということであり、初期の卵の中の雛の力が不安定という霊鳥種によく見られる特徴にも当て嵌まる。
周りの環境や魔力の影響を受けるという点において、精霊と霊鳥種はよく似ているため、より強く干渉できるのではと思い、六大精霊達に魔力を注がせてみた。
予想は的中し、卵の色彩の変化からも卵の中の雛の種族が変わったことが分かる。
「リオンの分も変化が終わりましたね」
少し離れていたところに立つリーゼロッテの前にもマグナアヴィスの卵があるが、そちらのほうは数日前に六大精霊達による魔力注入作業が終わっている。
それ以降、時間が空く度にリーゼロッテが魔力を注入していたことで、白色の卵が薄っすらと輝きを放つようになっていた。
卵に供給する魔力の割合だが、リーゼロッテの希望もあって上から順に、リーゼロッテ→俺→六大精霊達となっている。
俺の分の卵は、上から順に俺→リーゼロッテ→六大精霊達の割合だ。
ちなみに、親鳥のマグナアヴィスや、俺の分の卵にはグランズルム天狩国の女性族長の魔力など、俺が入手する前に注入されていた分の魔力に関してだが、六大精霊達が注いだ量より少ないのと既に亡くなっているため除外している。
「ああ。土台は出来たから、あとは俺達の魔力で方向性をつけるだけだ」
「リオンの魔力だとどんな変化が起こるんでしょうね」
「種族は同じだと思うが、魔力の配分が違うから、リーゼのほうとは違う見た目になるだろうな。さて、ちょうど時間だし、続きはあとにして戻るぞ」
「分かりました」
俺の腕に触れているリーゼロッテはいいとして、疲れて動けない六大精霊達はこのままだと此処に置き去りになってしまう。
あとで回収するのも面倒なので、一緒に戻るために【強欲王の支配手】で持ち上げてから、指を鳴らして固有領域内から元いた場所へと現在地の座標を変更した。
一瞬でアルヴァアインの屋敷へと移動すると、その辺に六大精霊達を置いてからリーゼロッテと共に屋敷内を移動する。
時間短縮のために向かった移動先の衣装部屋では、フィーア達女性使用人が待ち構えていた。
「おかえりなさいませ、ご主人様、リーゼロッテ様。お時間が無いのでさっそく取り掛からせていただきます」
フィーアの合図に従って、室内にいた女性使用人達がドレスアップのために俺とリーゼロッテを取り囲んだ。
着せ替え人形にされながら、この後にあるスキルレンタル業のオープニングセレモニーについて思考を巡らせる。
スキルレンタル業を含めた商会のスキル部門の正式名称は〈マモン〉に決まった。
スキルレンタル業はドラウプニル商会の一部門ではあるが、そのままスキルレンタル業と呼称するのも味気ないため、この事業の根幹にして俺の半身とも言える能力であるユニークスキル【強欲神皇】からとることにした。
神話や伝承などにおける強欲の悪魔が人々に黄金などの貴金属の価値を教えて魅惑したように、財貨を対価に使うことができるレンタルスキルという新しい力は人々を魅了することだろう。
マモンの開店日は本当はもう少し後にするつもりだったのだが、新年の大抽選会にてレンタルスキルの先行体験に当選した者達から広まった体験談が予想以上の効果を発揮したらしく、サービス開始はまだかという問い合わせが商会に連日殺到したため予定を早めることになったという裏事情があった。
もう少し人々を焦らしたかったが、問い合わせの対応をする従業員達が可哀想だったので仕方がない。
「マスター、マスター。そろそろ時間だけど大丈夫?」
「マモンの前に沢山の人間がいたわ! 本当に沢山なの!」
「だろうな。まだ姿は見せてないよな?」
「そこはダイジョーブ! マスターから与えられた隠密スキルをフル稼働させて覗いてきたもの。気付いた人間はいなかったわ!」
「お披露目までは秘密だものね!」
着替えている俺の前に身長が大人の頭ぐらいのサイズの二体の小人が音もなく転移してきた。
背中から二対の妖精翅を生やしたドラウプニル商会のミニチュア制服を着た彼女達の名前はシルキー。
正式名称を〈拠点精霊〉という俺が生み出した人造精霊達だ。
彼女達は全員が同じ顔、同じスタイルではあるが、髪と眼の色だけはバラバラなので最低限の個性は持たせている。
シルキー達を生み出した背景にはドラウプニル商会の人手不足がある。
正確には商会だけでなく、関連会社も含めたドラウプニルグループ全体の人手・人材不足を解決するために生み出したというべきか。
自我がなく、そのままだと消え去るしかない数多の下級精霊達を凝縮・合成して生み出しており、追加で俺が与えた能力も合わさって、一体一体の力はSランク冒険者に相当する。
敢えて分類するならば、上級精霊と大精霊の中間に位置する力と個体数なので、〈最上級精霊〉という新しい枠組みになるだろう。
シルキーの創造に六大精霊達は反対するかと思ったが、下級精霊は自我も無いし、このままだと消えるだけだから構わないと、寧ろ賛成されてしまった。
六大精霊達の全面協力の下、【造物主】の【万変創手】、【蠱毒の君主】の【君主権限】と【進化特性】、【精霊の支配者】、【強化合成】といった多数のスキルに加えて、先代黒の魔塔主エスプリから奪った魔導生物や精霊に関する知識なども総動員してシルキーを創造している。
第一陣で生み出したシルキー達は全部で四十八体。
彼女達はマモンがあるドラウプニル商会の建物内だけでなく、ミーミル社や飛空艇事業関連の建物なども含めたグループ関連施設の管理・警備・監査が仕事だ。
それぞれの施設自体が契約者のような扱いになっており、そこを守護することは自分達の存在を維持・強化することにも繋がるため全力で取り組んでくれることだろう。
この辺りの仕様も拠点精霊と称した理由だ。
仮に施設が失われたとしても、創造主である俺が予備の契約者になっているため、施設が無くなったからといって死ぬことはない。
シルキー達はどれだけ遠くても互いに意思疎通が可能で転移能力もあるため、いざとなったら応援に向かうことも可能だ。
シルキー達は担当施設内にいる人々から大気へと漏れ出した魔力を吸収し使用するのだが、この魔力もシルキー同士でシェアができるため、魔力不足の問題が発生することはほぼない。
まぁ、そもそもの身体能力が高い上に、大半の業務に魔力を使用することはないのだから大丈夫だろう。
「そうだ。秘密なんだから本番まで大人しくしていろよ。もうすぐ向かうから先に戻っておけ」
「「はーい!」」
一瞬で転移していったシルキー達のように彼女達の精神は少し幼いが、生まれてまだ十日ほどだから無理もない。
「ちゃんと仕事ができるのでしょうか?」
「大丈夫だろう。失敗したらしたで、そこから学ぶだろうよ」
シルキーやマモンについてリーゼロッテと雑談しているうちにドレスアップが終わった。
フィーア達に見送られてドラウプニル商会本店にある転移用の部屋へと転移する。
そこで待っていた本店支配人のヒルダと少し話をしてから彼女の先導で社屋内を移動する。
迷宮探索から帰還してから建て直した本店は、従業員の居住空間を別の建物へと移したことで非常に広くなっていた。
スキル部門マモンのために敷地内に用意した建物の前に、多くの人々が待っているのが感じられる。
事前に、ミーミル社が発行する新聞を通してドラウプニル商会の会員証の各ランク帯でレンタル可能なレンタルスキルの一部の詳細と、その必要ポイント数を公開しておいた。
前日からは金銭によるポイント変換を受け付けており、その利用者数と使用金額からもこの人の多さは予想通りと言える。
設置している〈賢魔の権能碑〉の数には限りがあるため、一人当たりの時間を制限したとしても、全員にまわる前に商会の営業時間が終わるだろう。
順番が回らなかった者達には整理券を配るつもりだが、それでも暫くは商会前はこんな状態になっていそうだ。
本店からスキル部門の建物へと通じる従業員通路の先にある扉の前にて立ち止まると、一度だけ深呼吸をする。
「……また忙しくなるな」
「今さらでしょうに」
「ははっ、確かにな。さて、行くとするか」
意識を切り替えると、扉を開けた先で待っていたマモンの従業員達やシルキー達と挨拶を交わす。
それから軽く朝礼を済ませると、全員で建物前で開店を待つ人々の前へと向かうのだった。
☆これにて第八章終了です。
力を結構明かすようになったリオンや分身体による活躍を描いた章となりましたが、如何だったでしょうか?
分身体による視点を増やしたため当初予定していたほど本編内の時間は進みませんでしたが、書きたかったモノは書けたかと思います。
次の更新日に八章終了時点の詳細ステータスを載せます。
特殊系スキル欄にある君主スキルでは、まだ本編ではまだ出してない能力も記載していますので、よろしければご覧ください。
九章の更新はいつも通りステータスを掲載する次の更新日の、その更に次の更新日からを予定しています。
九章では元々八章の最後に書くつもりだった大陸オークションやクラン試験などがメインになる予定です。
引き続きお楽しみください。
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