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第174話 インスタントな食事と錆びた剣



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーうん。これなら及第点だな」



 耐熱性の器に入っている麺を啜り、その味に合格を出す。

 周りの木々を切り拓いて作った広場にて、休憩がてら昼食を摂っている。

 俺が今食べているのは商会で売り出す予定の新商品である即席麺、つまりインスタント麺だ。

 長時間の迷宮探索に不足しがちな栄養素を含む野菜も加薬として入っており、特殊な素材と製法で作られた袋自体も燃える素材として(たきぎ)のように使うことができるようになっている。



「意外と美味しいんだな」


「お湯を入れるだけで簡単に作れることを考えると十分な味ね。冒険者だけでなく、国軍や領軍の兵士達にも受け入れられるんじゃないかしら?」



 シルヴィアとマルギットのような武闘派の貴族令嬢からも一定の評価を得られたようだ。

 少なくとも野営の食事を経験したことがある者からは歓迎されそうだな。



「袋麺も凄いけど、このお湯と冷水の両方を出せる魔導具(マジックアイテム)も良いわね。暑い時にも寒い時にも使えるから一年を通して使い続けられるわ」



 オリヴィアは宮廷魔導師長兼魔導研究所所長らしい着眼点でボトル型魔導具に触れていた。

 スイッチを押した者の魔力を自動的に使用して冷水やお湯に変換するため、使い方は非常に簡単だ。

 コップとして使えるフタもあるので荷物も減らすことができる。

 飲料水を生成する魔導具は需要の高さから珍しくないが、魔力効率は悪い上に出せるのも一定の温度の水のみであり、魔導具自体のサイズも大きいという欠点を抱えていた。

 その点、俺が作ったこの魔導具〈冷湯水生成水筒(ダブルウォーター)〉は前もって生み出す飲料水の温度を指定可能だ。

 敢えて欠点を挙げるならば、持ち運びの利便性を優先したので一度に生成できる水量が少ないことぐらいか。

 まぁ、それでも袋麺一食分の量のお湯は一度で生み出せるため、この水筒を製作した最低限の目的は果たせているから大した問題ではない。



「インスタント食品なんて久しぶりだわ……」


「懐か、な、なんとなく好きな味ネー」

 


 どうやら、転移者のセレナと転生者のカレンの昔の記憶を刺激するぐらいの味ではあるらしい。

 麺の太さこそ太くもなく細くもない太さに統一しているが、味に関しては醤油、塩、豚骨、味噌、唐辛子などと複数種類のスープ粉を用意している。

 武器を振るうために身体を動かすか、魔法構築のために頭を働かせるかの違いはあるものの、どの戦闘ポジションであろうとも魔物との戦闘でカロリーを消費することに変わりはない。

 そのため、平時ならまだしも今のような戦闘後の食事においては、彼女達も結構な量を食べる。

 それぞれが複数の味の麺ーーまぁ、ぶっちゃけラーメンなのだがーーを食べ比べたのを見た限りでは、リーゼロッテとオリヴィアは塩味、シルヴィアとカレンは豚骨味、マルギットは唐辛子味、セレナは味噌味、エリンは醤油味が好きなようだった。

 俺は特に決まった味が好きというわけではないが、この商品の試作時の試食では醤油味が一番好きだったので、今回も醤油味を選んだ。

 


「それにしても、景観が悪いですね」



 リーゼロッテに言われて周りに視線を向けると、そこには蒼銀色に光輝く障壁結界に攻撃を阻まれている魔物達の姿があった。

 安心して昼食の時間が取れるように、ダンジョンエリア内のクラン拠点にも設置している魔物を追い払う波動を放つ魔導具である〈聖場碑〉を起動させ、物理的に侵入を阻害する【聖場なる光護壁セイントフォース・シールド】を多重発動している。

 このエリアの高レベルの魔物が相手では聖場碑は役に立たない一方で、【聖場なる光護壁】はその高レベルの魔物達の攻撃を難なく防いでいた。

 どちらも予想通りの結果であるため驚きはなかったが、リーゼロッテの言う通り景観については考えていなかった。



「間に挟んでる遮音結界で音は聞こえないのはまだいいが、光まで遮ったら外部のことが分からなくなるからな」


「理解は出来ますが鬱陶しいですね」


「そうだな。十分攻撃は防いだだろうし、今いる分ぐらいは一掃できるか。放て、【報復せし神の義憤リベンジ・オブ・ネメシス】」



 スキルを発動させると、蒼銀色に光輝いていた障壁結界から紅金色の衝撃波が放たれ、魔物達の身体を貫いていった。

 一度目の発動から二度目の発動の間に防いだ攻撃や、負ったダメージを蓄積し、二度目の発動時に敵に累積ダメージに相応しい威力の攻撃を放つのが、この【報復せし神の義憤】の能力の一つだ。

 今回の休憩においては、【聖場なる光護壁】を展開した際に【報復せし神の義憤】も一緒に発動させているため、今の今まで【聖場なる光護壁】が防いでいた分の攻撃が魔物達に跳ね返った、ということになる。

 一見するととても強力なスキルに思えるが、このスキルを発動するには、俺基準でもそれなりの量の魔力を毎回消費する必要があるため、多用は禁物だ。

 あと、このスキルでダメージを蓄積し反射するという一連の流れを経て魔物を倒すよりも、自分で斬ったほうが早いという元も子もない理由もあるため、高性能のわりにはあまり使う機会が無さそうなスキルだったりする。

 まぁ結局のところ、俺の匙加減次第なのだが。



[スキル【獣王の制圧】を獲得しました]

[スキル【戦猿の目】を獲得しました]

[スキル【貪欲な嗅覚】を獲得しました]

[スキル【森秘の感覚】を獲得しました]

[スキル【群れを率いる者】を獲得しました]



 魔物の死骸が【無限宝庫】に自動回収されたのを確認すると、ラーメンのトッピング用に作ってきた猪型魔物の肉を使った自作チャーシューをスープに浸してから頬張る。



「うーん、もうちょっと薄切りにすべきか?」


「ねぇねぇ、ご主人様」


「ん?」


「メンマって無いの?」


「そういえば用意したトッピングにメンマは無かったな」



 メンマの原料って何だっけ……ああ、そうそう。タケノコだったな。

 前世で見聞きした知識を閲覧できる【異界の知識(アナザー・レコード)】によれば、特定の種類のタケノコから作られているらしい。

 俺はメンマは好きでも嫌いでもないため、カレンに言われるまで存在自体忘れていたが、言われてみればタケノコは食用だったな。

 この世界での名称が不明なので、【情報蒐集地図(フリズスキャルヴ)】のマップ上を様々な条件で検索してみる。



「お、これかな。似たようなのがダンジョンエリアにあるみたいだから、たぶん作れるぞ」


「本当? 久しぶりに食べたい!」


「……カレンは食べたことがあるんだな?」


「そ、そうよ。どこで食べたかは忘れたけどね!」



 目が泳いでいるカレンの様子を尻目に【異界の知識】にあったメンマの作り方に目を通していく。

 食べられるとは思われていないのか、市場にも出回っていないみたいだ。

 地上とは生育環境の異なるダンジョン内で獲れるダンジョン産の作物は、収穫してから一定期間が経つと再び収穫することができる。

 タケノコらしき作物の発生周期がどのくらいかは分からないが、ダンジョンエリア入り口の近くのエリア帯に生えているようだから、低位の冒険者でも収穫することができそうだ。

 初めてタケノコを食べた者達の反応次第では、新たなビジネスチャンスになるかもしれないな。



 ◆◇◆◇◆◇



 俺が【複製する黄金の腕環(ドラウプニル)】の派生能力【化身顕現(アヴァター)】によって生み出す分身体には、それぞれに役割と名前がある。

 一つは、ドラウプニル商会所属の迷宮商人という肩書きの〈オーズ〉。

 一つは、ロンダルヴィア帝国で活動するための商会、アリアンロッド商会のトップである〈アルファ・ズール〉。

 一つは、本体のサポートや暗躍時にのみ生み出して動かす、仮面を被る者(グリームニル)こと〈グリム〉。

 そして、各地に眠る所有者不明の財宝やアイテム、資源、掘り出し物などを探し出して回収・蒐集する役割を担った〈オティヌス〉という分身体がいる。

 他にも分身体を生み出すこともあるが、基本的にはこの四体が主に活動している分身体と言っていいだろう。


 そんな主な四体の分身体の一つであるオティヌスを、本体(リオン)が三回目の迷宮探索を行うと同じタイミングで、大陸中央の小国家群のとある王国の旧王都に派遣していた。

 目的は当然、所有者のいないアイテムを蒐集し、【無限宝庫】へと納めるためだ。

 

 

「人が(まば)らだな。これなら目立たないか?」



 【情報蒐集地図】のマップを頼りに旧王都内を移動する。

 以前、ロンダルヴィア帝国で購入してアークディア帝国へと連れ帰った奴隷達がいるのだが、その中のとある奴隷から気になる情報を入手していた。

 その情報というのが、今いるこの王国の旧王都に誰も地面から抜けない謎の剣があるという内容だ。

 魔剣とも聖剣とも、ただの鉄の剣とも言われているようで、正確な記録が書かれた資料などは過去に起こった内乱で失われており、真実を知る者は誰もいないらしい。

 極稀に観光ついでに試す者がいるぐらいで、地元民からも忘れ去れつつある過去の遺物とのこと。



「まさか、あんな物がこんなところにあるとは思わないよな」



 観光名所らしき広場に併設されている教会らしき遺跡へと足を踏み入れる。

 幸いにも中には人はおらず、視線の先に見える奥の壇上には一本の錆びた剣が刺さっていた。



「……分身体でも大丈夫だよな? 駄目だったら本体と入れ替わるか」



 壇上へと登ると、軽く腕を回す。

 魔力の調子も問題無いのを確かめると、剣の柄を握った。



「さて、と。ーー起きろ、〈賢爛たる星の虹剣(アルカティム)〉」



 【情報賢能(ミーミル)】で視えた剣の名称を呼びながら魔力を注ぐ。

 その瞬間、剣の錆びた表面に亀裂が入り、内部から光が漏れ出し、遺跡内を明るく照らし出した。



「全く、自己主張の強い〈星剣〉だな」



 遺跡の外にまで眩い光が漏れ出しているため、外の広場にいた人々が何事かと集まってきている。

 認識阻害効果のあるフード付きマントを被っていて正解だったな。

 星剣アルカティムの深部まで魔力が通り、受け入れられたのを確認すると、地面から一気に引き抜く。

 と、同時に背後の群衆に向かって目眩しを目的とした光を追加で放つ。



「「「め、目がっ!?」」」



 どこかで聞いたセリフだな、と思いつつ、表面を覆っていた錆が全て消え去って、新品の如き輝きを放つ星剣アルカティムの状態を確かめる。



「うん。問題無いな」



 アルカティムが刺さっていた地面に手を翳すと、その穴の先から虹色の光が現出し、翳した手の中へと集まって鞘の型を形成する。

 その鞘に自己主張の激しいアルカティムを納めて大人しくさせると、【亜空の君主】の転移能力を使って目的を果たした旧王都を後にした。



 

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