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ep4.神様の行方

 突然告げたにも関わらず、案外ルルは冷静だった。


「……あはは、わかってますよ」


 困らせてしまうかもしれない、そう思いながらも絞り出した言葉。

 泣き笑いのような顔をする彼女に、困惑したのは俺の方だった。


「わ、わかってるって?」


「はい、大体の方はこの戦争で亡くなっていきますし。

なんとなく、わかるんですよ。

私もきっと、後続の召喚士さんが正式に着任されれば、この世界にとって不要になるんだろうなって」


「……」


 ルルは立ち上がり、お茶を淹れますね、と魔法で温かいお茶を生成してくれた。

 そのお茶を差し出しながら、ルルは続けた。


「私も、長いですから。色んな人の死を見てきました。

その中の何人もが、死の直前には口を揃えて言うんです。

"自分は世界にとって不要になった"って……」


 そんなシナリオは入れていない。

 これは、この世界の住人の予感めいたものなのだろうか?


「あっ、ごめんなさい、今日来たばかりのユウリさんにこんな事を」


「いや、俺が話し始めた事だから。

えっと、単刀直入に言うと、俺はそのシナリオを回避したいと思ってるんだ」


「……そう思ってくださるだけで、十分ですよ」


 そうは言っても、具体的な案が思い浮かぶわけではなかった。

 次回のシナリオの更新を止めれば、きっと救えるのだろう。

 しかし今はそれを止めるすべはない。


「色んな人の死を見てきた」


 彼女の言葉が反復する。


 八年もの間、俺はさまざまなシナリオや企画を立ててきた。

 この世界にとって不幸で、どうしようもないような悲劇や苦痛、別れ。

 自分がしてきた事の残酷さを思い出し、発狂してしまいそうになる。

 彼女を殺そうとしているのは他でもなく、俺だった。

 クソ、夢なら良かったのに。

 夢じゃないのか?これは?


「……ふふ、なんて。私はまだ、死ぬつもりなんてありませんから。ちょっとからかってしまっただけなので。許してくださいね」


 俺は怒りにも似た感情を覚えた。

 それは誰に?と問われても、答えなどない。

 ただ、この運命を受け入れるルルを見守るだけなど出来るわけがない。

 ルルは立ち上がり、俺の震える肩をそっと抱きしめた。


「せっかくこの世界に来てくださったのに、変なこと言ってごめんなさい。嫌わないで……くださいね」


 ルルの温度が伝わる。


 目の前に置かれたお茶は、もう冷めてしまっていた。


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