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ep.24 死亡フラグを越えて

長く長い夜だ。

月は真上を通り過ぎ、少しばかり明け方の様相を呈している。


本来はアプデが入り、今日からは新しい召喚士が実装されるはず。

そしてそれと同時に、ルルの死のイベントも。


ーくしゅんっ。


ルルのくしゃみで、しばらく湖の中にふたりでいたことに気づく。


「さすがに少し冷えるよな、戻るか」


「はい。へへ…ルル、寒いです」


「そ、そんなにくっつくなって」


ルルは俺の腕をぎゅっと抱きしめながら、少しむくれた。


「なんでそんなこと言うんですかっ!

ユウリさんは…もっとぎゅーってしたくないんですか?!」


「いや、まぁ…」


「もっと温めてほしいんですよ…」


ルルは上目遣いで俺を見つめてくる。

それもそうか。

結構な時間、水に浸かっていたから。

さすがに冷えるな。


少し不服そうなルルは宿に着くまで俺の腕をきつく抱きしめていた。


宿に着くと、ミリアとヴィオは起きていて口々に「心配した」と言った。


「…なんでそんな、びしょびしょなの。ふたり」


ヴィオが不思議そうな顔で見つめる。


「ちょ、ちょっと、なんかやらしーんだけど!」


ミリアは赤面して、両手で顔を覆った。

意外に乙女なんだな、ミリアって。


ルルを見ると、ぺったりと張り付いた白いワンピースからは肌が透けていて、確かに…その…これは…やらしい感じがする。


「はっ、恥ずかしいですっ!こんなに明るいとこで見ないでください…!」


ルルは咄嗟に俺の後ろに隠れた。

一度意識してしまうと、背中に触れているルルの感触にどうしても意識がいってしまう。


思わず顔が綻ぶ。


「ちょ、ちょっと、なにいちゃいちゃしてるのよ!」


ミリアが割って入ってくる。

ミリアとヴィオのおかげで緊張していた気持ちが落ちついた。


ルルを見ると、ルルは笑っていた。


「ルルにタオルと着替えを頼むよ」


「ああ!そうね」


「ルル、先にお風呂に入ってきなよ」


「で、でも、ユウリさんは…」


「俺は後でいいからさ」


「一緒に入りましょう!そうすれば、大丈夫です!ここは個室のシャワールームもありますし!そこなら一緒に入っても大丈夫ですよっ」


「いや、それは大丈夫じゃない、色々と」


ルルがシャワールームに行ったあと、ミリアがスープを用意してくれた。

それを飲みながら、ルルを待つ。

今日は俺は朝までは眠らない。ルルに万が一でもあれば、後悔してしまうからな。


皆はそれぞれの部屋に戻り、俺は宿屋の共用ルームにひとり残される形になった。


蝋燭の薄暗い灯りだけが机の上を照らしている。

ルル、まだかな…。

途端に心配になる。

少し様子を見に行ってみようか。


シャワールームに近づくが、静まり返った廊下に僅かに灯りが漏れるだけで、物音はしなかった。

ルル、大丈夫だよな?

倒れたりしていないだろうか。


「…ルル?」


シャワールームのドアをノックして、ルルを呼ぶ。


「……」


異様に静かだ。

シャワールームに湯船はない。

湯船で寝てしまった、なんてことはあり得ないのだ。

こんな静かなことがあるのか?


ふとドアを見ると、鍵が壊れている。

まさか。


様々な考えが頭に浮かぶ。


最悪なケースは、ルルの死が思わぬ形で収束してしまうこと。


「ルル!!」


俺は咄嗟にドアを開けた。





ーそれからのことはよく覚えていない。


ルルが泡の中、体を洗っていたことだけは覚えている。


「…ごめんなさい、だって、ユウリさんが突然ドアを開けるから驚いてしまって…。

もう打ったところは痛くないですか?」


ルルが心配そうに顔を覗き込んできた。

俺はいつの間にかベッドの上にいた。


「ああ…大丈…いてて」


「わっ、痛みますか?ごめんなさい、本当に…」


どうやら俺は頭を打ったらしい。

左の後頭部がずきずきと疼く。


「わたし、咄嗟に見ちゃだめですーってユウリさんの目を塞ぎながら抱きついたら…」


「…そのまま勢いで後頭部から倒れ込んだ、ってわけか…

まあ、いきなり開けた俺が悪かったよ、鍵が壊れてたから何かあったんじゃないかと思って」


「ああ!ここ、もともと鍵が壊れちゃってたみたいで…

でも、本当にごめんなさい…」


ルルはじっと俺を見つめた後、もじもじとベッドの中に入ってきた。


「お、おい」


「今日はルルと一緒にいてくれるんですよね?

ルルも、今日はユウリさんの怪我が心配だからユウリさんをひとりにしません」


ルルはぎゅっと俺に抱きついてきた。


「これなら、安心です…ね?」


ルルは火照った頬を綻ばせて笑った。


「ああ…まあ…」


カーテンの隙間から月の明かりがルルの頬に落ちる。

ルルはやがてすぅすぅと微かな寝息を立てながら眠ったようだ。

ルルはあれからずっと不安だったに違いない。


俺はそっとルルの髪を撫でた。

まだ少し水気の残った髪からは、ほのかに花のような甘い香りが漂う。


おやすみ、ルル。


「……ユ…リさん…」


寝言を呟くルル。

ふいに愛おしくなる。


朝にはここを発とう。

魔族と妖精族の戦争の根源を根絶しなければならない。

なるべく早く動かなければ。

この世界のサ終を知っているのは、俺(とクソ上司)だけなのだから。



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