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ep22.三日目の夜

「ねぇ、あんたってさ、本当に初心者なの?」


 すっかり日も落ちた頃、時計台で星を見上げながらミリアがふとそんなことを口にする。


「えっ……う~ん、まあ……?」


「フーン。でも何であんなバグみたいな威力がでたのかしらね。あんたのファイア」


「さあ……俺もそれはよくわからないんだよな」


 ミリアは流れ星、と空を指差す。今日は星が良く見えるな。一面の星空だ。


「ミリアこそ、何で俺に声をかけてきたんだよ?魔族の森なんて、あんた一人でも行ける場所だろ?」


「いや~あたしクラスになると、初心者を手助けするのが楽しくなってくるっていうか……そういうの、あるでしょ?初心者さんにちょっといいとこ見せちゃおっかなって思ったのよ。でも逆にユウリに良いとこみせつけられちゃって。面目丸つぶれね」


「ああ、なるほど」


 確かにその気持ちはわからんでもない。初心者を導くのって結構面白かったりするよな。


「私も、気になっていたことがあるんです。ユウリさんは私に……死ぬかもしれない、って話をしてくれました。あの時は私も怖くて、深くは聞かなかったですが、どうしてそんな……知っていたのかなって」


 ルルは空を見上げる視線を落とさないまま、そう聞いてきた。


「……それが何故かはまだ言えない。でも、信じてついてきてくれて、本当に嬉しいよ。ルル」


「はい。私も……信じてよかったです」


 ルルが俺の顔を見て笑う。


「ほんと、なんか不思議な人だわ」


 ミリアは二つ目のライフポーションの栓を抜き、飲み始める。


「僕も、よかった。こんな景色も、見れたから」


 ヴィオも流れ星が流れるたびに指を指し、少しはしゃいでいるように見えた。


「あっそうだ、ヴィオに買ってきたものがあるの」


 ミリアはそう言って花の形のブローチをヴィオに手渡す。


「えっ、これ……綺麗だなって思ってた。どうして?」


「ふふ、ユウリがヴィオがずっと見つめてたって教えてくれたの」


「……!わぁ、ありがとう、僕が好きな花だったから」


 ミリアはブローチをヴィオの胸元につけてあげる。

 ヴィオの髪色にも似て、とても綺麗だった。


「とっても似合ってますよ。ヴィオちゃん」


「にゃあ〜、うらやましいにゃああ」


 シャムムが目をきらきらと輝かせていた。

 皆で見上げた空は、どこまでも澄んでいて。ずっとこの時間が流れればいいと思った。




 リリアラの街の宿屋。それぞれが部屋でくつろぐ夜。

 俺とルルはこっそり抜け出し、宿屋の庭に出た。


 ルルが死んでしまう要因はすべて排除した。リリアラの街も守った。原因がなければ、結果は生まれない。ルルの死に繋がる要素はもう残ってない。

 それでも、少し不安はあった。


「ユウリさんっ」


 ルルは突然抱きついてきた。


「今日の夜はずっと一緒にいてくれるんですよね……?ユウリさん」


「ああ、何かあったら困るからな」


「ふふっ、嬉しい。ね、このあたりを少し散歩しませんか?この先に小さな湖があるんです。ここの宿屋は湖のほとりに建っていて、結構人気があるんですよ」


 ルルの提案で宿屋の庭を散歩した。

 ルルがそわそわと手を差し出してくる。その手をそっと取り、繋いで歩いた。

 あたりには美しい花々が植えられており、レンガで作られた道はぽつぽつと置かれた灯りによって照らされている。


 横を見ると、ルルと目が合った。


「ユウリさん、なんだか……とっても幸せです」


「よかった。今夜はとことんルルに付き合うよ」


「本当ですか?ふふ、じゃあ」


「わっ!」


 ルルは俺の手を引き、いきなり走り出した。


「どこに行くん……」


「早く早く、ほらっ、見てくださいっ!」


 息を切らししばらく走ると、目の前にきらきらと輝く湖が現れた。水面に映った月は、湖に浮かんでいるようだった。


「ふふ、ここは思い出の場所なんです」


「お、おい!ルル?」


 ルルは湖に躊躇いもなく入っていく。水面の月が揺れた。


「ユウリさん!走って汗をかいたでしょう?」


 ルルが振り返り、笑顔で俺を呼ぶ。


「えっ、はっ、入るのか?」


「ここではリリとよく水浴びをしていたんですよ、ユウリさんも」


 湖にそっと足を入れると、ひんやりとした温度が気持ちいい。

 ルルはそんな俺の手を引き、胸の辺りに水が浸かるほどまで入っていった。

 ルルの薄いワンピースは水に濡れ、肌が透ける。張り付いた服は、ルルの身体のラインを強調させる。

 ……意外に、あるよな。うん。さすがに少し目のやり場に困るぞ。


「照れてますか?ユウリさん」


 ルルは俺を見つめながら腰に手を回す。


「だ、大胆でびっくりしたんだよ」


「ふふふ、二人っきりだから、大丈夫です。……水が冷たいですから、もう少し……」


 そう言ってルルは密着してくる。

 水の温度の冷たさと、ルルの温かさが混ざり合う。


「ルルは……もっとユウリさんとこうしていたいんです。嫌、ですか?」


「いや、そんな事はないけど……」


「じゃあ、ルルにもっと……いいんですよ」


 ルルが耳元で呟く。……なんか、二人きりになると本当に積極的だな、ルルは。そのギャップは嫌いじゃないけどさ。


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