ep18.シャムムと占い師
噂のカフェに乗り込むと、可愛らしい猫耳の少女が元気に出迎えてくれた。胸元に名札をつけていて、そこには「シャムム」と書かれていた。
「いらっしゃいませにゃー!」
この少女は敵側の少女だ。普段はカフェの店員として働いているが、地下の隠しエリアのことは知っているし、魔族側の一人として戦うことになる。……まあ、本来ならば。
ひとまず俺たちは、普通のお客としてテーブルに着いた。周りには何人かの冒険者と、妖精たちがお茶を楽しんでいる。
「注文が決まったら声かけてくださいにゃ!」
シャムムはそう言って水を俺たちの前に出し、メニュー表を置いて去っていった。
「可愛い方ですね。獣人の子なんて珍しいです」
ルルはごく自然な会話を心がけているようだったが、震える手を机の下で必死に抑えているのがわかった。
「ああ、そうだな」
そう返しながら、机の下でルルの震える手をそっと握る。ルルは、少し安心したように俺を見た。
「で、さ、どうするのよ」
「とりあえず、それは飲んだらダメだぞ」
水に口をつけようとするミリアを俺は静止した。
「っへ?なんで?」
「ここで出されたものを飲んだらダメだろ。俺たちのことが占い師に占われていたら、それ、毒が盛られてるかもしれないぞ」
ミリアに小声で耳打ちをする。
「ちょっと!早くいいなさいよ!……っきゃ!!」
ミリアは驚いて、手に持っていた水を床に落としてしまった。
ガシャリ……!と音を立ててグラスは割れ、足元に散らばった。
「だいじょうぶ……?ケガしてない?」
「大丈夫ですか……?」
ヴィオとルルが心配そうにミリアを見る。
「にゃあ~!お客さん、困りますよお~!」
シャムムが駆けつけてきて、ガラスを素手で拾い上げようと――
「っおい、危ないだろ」
俺は咄嗟にその手を掴んで静止すると、シャムムはにゃにゃっと笑って俺を見た。
「ご注文はシャムムですかにゃっ、ユウリ♪」
「……バレてたのか」
「優しいお客様はVIP席にごあんない~」
シャムムが俺たちを連れてお店の奥にあるドアの前に立つ。そのドアのプレートにはアムルガルの言葉で「プライベート」と書かれている。
「で、何?ここがVIP席への入り口?」
ミリアがシャムムに詰め寄る。
「そんな怖い顔しないでくださいにゃああ!シャムムは何もしりませんにゃっ。ここにいるVIPなお客様に呼んで来いって言われただけですにゃ~」
そういうとシャムムは扉を開く。
そこには古びた地下への階段があった。薄暗くて下は見えない。
「どうぞにゃ♪」
「悪いがシャムムが先に進んでくれ」
「むぅ〜、毛並みが汚れちゃうにゃ……」
シャムムは、不満げな声を漏らしながらも薄暗い階段を歩いていく。
静かな空間。コツンコツンと、足音だけが響く。
そして、最下部に着いた頃、突然背後から何者かが殴りかかってくる気配がした。俺は咄嗟に身を屈め、避けると同時にR武器の剣に手を伸ばす。
「にゃはははっ、すごいにゃ!すごいにゃ〜!ユウリは何で避けれたにゃ?!」
「シャムム」
ここでのイベントも、頭に入っている。シャムムが不意をついて攻撃してくるんだ。
「にゃはは、占い師さまが言ってた。ユウリも未来予知を持ってるって」
その占い師は……もしかして、転生者か?そんな考えが頭をかすめる。どこでシナリオの情報を手に入れたかは知らないが、未来がわかる人物なんてこの世界にはいないからな。それに、今日俺がここに来るのを知っていたことから、未来予知というのも本当なのだろう。
「きゃあっ!!!誰かいるわ!!」
「!!」
辺りを見回すと、いつのまにか雑魚兵が俺たちを取り囲んでいた。
「ここに占い師がいるんだろ?そいつに断りもなくこんなことしていいのかよ」
「にゃはは!許可済みだにゃ!ルルを貰い受けるにゃー!」
一斉に雑魚兵たちが飛びかかってくる。
「ルルは渡さないからねっ!」
ミリアが武器を構える。
「待てミリア。ヴィオ、状態異常無効魔法をかけられるか?」
「かけられる、いくよ」
そう言うとヴィオは本をペラペラとめくり、手早く呪文を唱えると俺たちに状態異常無効の魔法をかけた。
「よし、じゃあ今だ!雑魚兵の腰の瓶を狙って攻撃しろ!」
雑魚兵はどいつも腰に魔法で生成された禍々しい色の液体を下げていた。これは毒だ。ここの連中は毒使いが多い。
それを目掛けて攻撃し、瓶を割ると、中からは一気に毒の液体があたりに飛び散った。
「ぎゃあああああ!!!!!」
雑魚兵たちは自らの毒を被り、パニックを起こして暴れ回った。
「にゃああー!何するにゃ!!!毒消しにゃーーっ!って、こっちくるにゃーー!」
シャムムたちは大騒ぎで、俺たちはその様子をしばらく見つめていた。
少し毒が効いた頃に、毒消しの魔法をヴィオにかけてもらうと、疲弊したシャムムたちは地面にへたり込んだ。
「にゃにゃ〜……もう、しびれるにゃ……なんでにゃ〜すごいにゃ……」
もう襲う気力は残ってないだろう。
「ちょ、ちょっと、あんた本当に何者なの?あたしにも活躍させなさいって……」
「ユウリさんは本当にすごいですっ」
ミリアたちが驚く。まあ、それもそうかもしれない。
さて、と。
「シャムム、占い師はどこだ?」
「あ…….ああ……にゃにゃ……占い師さま……にゃ」
シャムムは俺の後ろを見て震えていた。俺に助けを求めているかのようにも見えた。
振り返るとそこには、占い師と呼ばれた男が立っていた。
このアバター……俺はピンときた。
「……あんたが誰かわかったよ。クソ上司、だろ?」
俺はホッとした。
こいつがクソ上司なら、思う存分暴れても心が傷まないからな。たっぷり溜まった残業代、支払ってもらおうか。
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