2-10【クラウ姉さんの本気3】
◇クラウ姉さんの本気3◇
現場は混乱しているようだった。
兵士たちの叫び声、怒号と言ってもいい。
いきなり消えた焚火に驚き叫ぶ者、周りを警戒する者、奴隷たちを盾にしようとする者。
反応は様々だったけれど……あの光の柱に、多くの者が注視しているようだった。
「……貴様らっ!!そこに固まっていろ!動くんじゃないぞっ!いいなぁ!!」
私たち三人は、無言で頷く事しか出来ない。
一人は頼りないし、一人は全てを諦めている。
このままでは駄目だわ……私一人でここから逃げられるようなら、とっくに街に帰っているのだから。
「――誰か……」
求めていたんだと思う。
誰かに――助けてもらえることを。
望んでいたんだと思う。
その出会いが――運命であって欲しいと。
◇
さてと、【クラウソラス】の光を探って、敗残兵たちがこっちに来た。
数は……十五、ちっ!……全員来なかったわね。
でも、二人ならミオでも何とかなるわよね……私の弟なんだから。
「――そこの女っ!!何者だっ!」
早速大きな声で叫ぶ男の兵士……位置を教えてあげますって言っているようなものだわ。
それも一塊になって?……暗いから?夜目になれてないのかしら?
「そっちこそ、こんな辺境の村の周辺でいったい何をしているのかしら……?」
私は、唯一兜を被っている男に言う。
多分、この男が隊長なのだろう……なんて分かりやすいのかしら。
「我々は……【テゲル】の正規兵だ。貴様は、近くの村……【サディオーラス帝国】の者なのか?」
国に所属している訳じゃないけれど、村はそうね。
「ええ。そうよ……怪しい一団を見かけたから、様子を見ていたのだけど。どうやら村に向かってきそうだったから……注意させて貰いに来たわ」
本当は斬る気満々だけどね。
だから、そっちから仕掛けて来てくれない?
私も中身は日本人……正当防衛の理由を、何んとなくだけど探しちゃうのよね。
「おい、近くに村があるなら」
「ああ。協力させればいいな」
「隊長。今、ドーンが回り込んでいます」
小声で何を。どうせ素直に従う気は無いのでしょうし、さっさと――
「――っ!」
「ちっ!!鋭いガキだっ!!囲めっ!!」
回り込んでた?音が無かったけど。
まぁ、別にいいけど。
「これで正当防衛は成立ね」
「――何っ!?」
私は、一番近くの大木目掛けて、【クラウソラス】を振るった。
勿論、魔法の剣は物理をすり抜ける。
兵士たちには、ただ木に向かって剣を振ったようにしか見えなかっただろう。
しかし、私が狙ったのは……木の裏に隠れた一人の兵士だ。
「――がぁっ!!」
短く声を発して、ドサリ――と音が鳴った。
今頃、木の裏で倒れているだろう。死んではいないと思うわよ?
威力は極力抑えたからね……故郷である村の近くで人を殺めるだなんて、出来る訳ないのだから。




