2-9【クラウ姉さんの本気2】
◇クラウ姉さんの本気2◇
さっき弟に言った言葉……鬱憤が溜まっている。
それは噓じゃない。
可愛い弟だ、前世でもあんな可愛い弟が欲しかった。
そんな一つの欲が叶って忘れがちになっていたが……私のこの世界での目的は、のうのうと異世界で過ごす事じゃない。
私が転生したのは……私よりも前に転生したと思われる同級生、武邑澪を探す事だった。
弟と同じ名前?そうね……確かに同じだわ。
でも、そんな偶然……普通ある?だって私の名前はクラウよ?
それに、ミオは私よりも年下。
武邑くんが私よりも早くに転生しているのなら、私と同じか年上になっている筈だもの。
だから……ミオはミオ、私の最愛の弟よ。
「――行くわよミオっ!私が【クラウソラス】で光を放つから、ミオは魔法で焚火を消して、出来るわね?」
「――分かった。やるよ……!」
「いい子ね。じゃあ……行こうっ」
初め、この世界で前世の記憶を取り戻した時、なんて文明の低い世界だろうと思った。文明レベルは超低い……しかも、医者ですらこの村にはたった一人しかいないのよ。
監察医だった私も、多少の医学はある。だが精々そこまでだ、人体の構造や機能を知っていても、病気を治すことは出来ない。
「……姉さん!お願いだから無茶だけはしないでっ!」
走り出した私の背中に、ミオは声をかけてくれる。
とても優しい子なのだ。たまにおじさんのような言動もするけれど。
だから、この子には強くなって欲しい。
私はいずれ……旅に出るつもりだ。転生している同級生を探しに。
その時までに、ミオには強くなって欲しいの。
この世界で、一人でも……家族を守れるくらいに。
「――そろそろねっ……【クラウソラス】!!」
暗い森の中、二手に分かれた私とミオは、盗賊団……ではなく敗残兵だったわね……正直言って私的にはどちらも同じだけど、ミオがそう言うのだからそうなのだろう。
その敗残兵を挟む形で分かれ、私の光を合図に行動を開始する。
夜空に掲げる右手には、蒼白い光が集積していく。
天に走る一本の光の柱。そんな感じね。
そして、その合図と共に……ミオも行動を開始してくれたようだ。
ミオは、二年前に不思議な魔法を覚えた様で、最近はコッソリその練習をしている。パパとママには、地面を操る魔法と言っていたが、本当にそれだけだろうか。
確かに、ミオが土を操っている所を家族全員で見せて貰ったことがある。
私だって、【クラウソラス】を光の魔法と言って誤魔化して伝えてはあるのだが、何か隠している気がするのよね。
と、考えていたが……敗残兵たちの焚火が消えた。
ミオが火の魔法でやったのね。
さぁ――準備は整った。
奴隷の三人はミオに任せて、私は日頃の鬱憤を晴らしに行きましょうか。




