2-4【マジカル・キューブ】
◇マジカル・キューブ◇
「――ミオ君、本当にいいのかい?そいつの値段は……二万ルービスだよ?」
「は……?」
はい?二万?二万ルービス?
ルービスはこの国の金の通貨であり、日本円で言えば……どれくらいだろうな。
うちで売っている野菜の一箱あたりが五千ルービスだったから……一箱の中は二十人分くらい入っているとして……四箱分だから、八十人分の野菜と同じ値段!?
その小さなキューブが!?
「ミ、ミオ……固まってるけど、大丈夫?」
「はははっ……無理もないね。これは都産の魔法のアイテム。【マジカル・キューブ】って言うんだよ」
「マ、【マジカル・キューブ】……ですか?」
なにそれ。因みに、値段に驚愕して固まっている俺の代わりにアイシアが聞いてくれている。
俺はもう硬直だよ……ガッチガチもいい所だ。
「ああ、そうだよ。【マジカル・キューブ】……不思議な力が宿っていて、誰でも魔法が使えるようになるんだってさ?」
「……え〜?」
これアイシアは信じてないな。
しかし、そう述べたディンさんも疑問形だな。
これはあれだ、売れると思ってないパターンだ。
「あはははっ。僕も同じだったよ……この村の人間にそれを買う人間はいないと思ってたんだけど、まさか選ぶとはねぇ」
やっぱりか、それにしても、まさかこの店一番の高級品だったとは。
それを的確に選ぶとは、なにを選んでんだよ……アイシアさん。
「……欲しいなぁ……あ、でも。う〜んさすがに」
そ、それを聞いても言えるのか……すげぇなある意味。
それだけ綺麗ではあるし、女の子なんだな、やっぱり。
でも自重もしてる、自分の中で戦ってますねコレ。
「ア、アイシア、流石にこの値段だと……ねぇ」
俺だって小遣い制なんだ、いくらド田舎で金の使い道がないからって、子供が数年で貯められる額じゃない。
あとさ、八十人分の野菜を買った方がマシに感じるよ、俺にはさ。
「ははは、まぁでも……実際これは眉唾かもしれないしねぇ。でも恩人のミオ君になら……四分の一でいいよ?」
それでも五千ルービスか。二十人分の野菜たちっ!!
しかし、手の出ない額ではない……くっ。
たまには男らしく気前のいい所を見せたい俺も居る……アイシアにだって、素気なくしてきたしなぁ。
「……か……」
葛藤した末、俺の答えは。
「ミ、ミオ?」
くそぉっ、俺も男だ!
少しは幼馴染にカッコいい所を見せたいお年頃なんだよ!
そして決定打は……近々で金を使う予定がない事だ!
「――か、買います!!」
「――え?」
「えぇっぇぇぇぇぇえ!?」
ディンさんも、アイシアまでも驚いている。
欲しいと言いつつも、まさか本当に買ってくれるとは思わなかったんだろうな。
まぁそうだよなぁ、もう少ししっかり考えてもよかったか、俺もさ。
◇
「ま、毎度あり。その……しっかりな?」
「……はい」
儲けたはずの商人に気を遣われてしまった。
だが、いいんだこれで。
たまのたまには、アイシアにこれくらいしてやったっていいだろう。
なんたって……いっつも邪険にしてるんだ、それなのにこうして幼馴染でいてくれてるんだ。感謝だよ――まぁ、うるさい時もあるけどもさ。
「あ、ありがとう!ミオっ!わたし、一生大事にするね!!」
「あ、あぁ……喜んでくれてよかったよ、うん」
五千ルービスか……貯めるまで何ヶ月かかるかな。
感激してキューブを見つめるアイシアと、途方に暮れそうな俺。
そこに。
「――いた。ミオ……」
長く伸びた暗めの金髪に……スラッとした四肢と身体つき、寡黙でクールな俺の二番目の姉……俺と同じく転生者であり、この村の警備を担当する武闘派――クラウ・スクルーズの登場だった。




