1-6【オヤジ、鈍感は罪だ】
◇オヤジ、鈍感は罪だ◇
朝方、オヤジ殿。ルドルフ・スクルーズが家を出ると、すぐさまオイジーがやって来やがった。
まるで見計らったかのように、ニヤニヤしながら。
普段のイケメン顔も、ゲス染みた蛇のように、目が気色悪く歪んでやがる。
母親、レギンは軽く挨拶をするも、徹底して相手にはしないようでまずは一安心だ。
それにしてもルドルフ……このオヤジ、顔はいいクセになんつぅ鈍感っぷりだろうか。
最近の男は、過敏なくらいがいいんだぜ?知らんけど。
「……奥さん。今日からスクルーズはいませんねぇ」
――ちっ!!分かり切った事ぬかすな!てめぇが仕組んだんだろうが!
畑を広げるなんて、農家としちゃ嬉しい事だ。
それを、他人の妻を手籠めにしようと簡単に差し出すあたり、もしかしたらこのオイジーの父親……村長もやべぇ奴なんじゃないだろうな……?
「そう、ですね……でもこの子たちが居てくれますから、寂しくありません」
おっと、ママンが先手を打ったぞ。
先に寂しくないと言って、オイジーの初手を読んだな。
「そうかい?でもさ、知ってるかい?」
「……なんです?」
おい、その目止めろ。舐めつくすような、下卑た視線。
その糸目、蛇のような糸目を止めろと言ってんだよ!
人の母親に向けていい目じゃねぇだろうが!!
「新しい畑……実はロクッサ家と、共同の畑なんだよ?」
「……」
俺を抱くレギンの顔がやばい。
ロクッサ家?誰か知らんが、レギンの様子で理解できる。
その人を、絶対にルドルフに近付けたくなかったんじゃないか?
俺には知らないその理由を、オイジーは丁寧に教えてくれる。
勿論、俺にではなく……レギンに知らしめるためだろう。
「――あ~そう言えば、ロクッサのとこのお嬢さんって……ルドルフの元恋人だったっけ……確か何年も付き合ってたんだったな~」
おいこら糸目!!最っっ低だなマジで……!!
つまりレギンは、長年付き合っていたルドルフとそのお嬢さんが別れた後、結婚したって言いてぇんだろう!?
お前の言い方だと、ママンが略奪したみてぇじゃねぇか!!
ママンも、何か言い返し――て……レギン?
「……」
おいおいおいおい!?
何で涙目になってんだよ!なんか言い返せって!違うってさ!
別れた後なんだろ!?ならなにも問題ないじゃないか!
「ばぶぅぅぅ!」
「……うん、いい子ね」
俺の必死の想いが通じたのか、ママンも俺をあやしながら、オイジーの野郎を軽く睨んだ。俺も睨んでる……つもりだ。
「たとえ、ルドルフがリュナさんとどうなろうとも、私たちは変わりません。愛が……この子たちがいるんですから」
レギンは抱く俺と、まだ寝ている二人の姉を優しく見つめて、オイジーに言ってやった。
――つっても、オイジーの野郎の顔もやべぇな……今にも襲い掛かって来そうだ。流石にそこまではしねぇだろうが……もし、そんなことになってみろ……
俺が成長したら、お前ただじゃ置かねぇからな……!
「……まぁいいさ。この後の展開なんてたかが知れてる。きっと、何度も何度もスクルーズはロクッサのお嬢さんと逢瀬を重ねて……その子たちの腹違いの子が産まれるだろうさっ!」
てんめぇぇ!!それは言っちゃいけねぇだろぉがぁぁぁぁ!!
ルドルフが何処までの鈍感野郎か知らねぇが!そんな簡単に種を蒔く馬鹿野郎じゃねぇんだよ!!ざっけんなこらぁぁ!!