1-82【親の思いを頭で受けて】
◇親の思いを頭で受けて◇
今回の一件が全てが終わった……クラウ姉さんを誤魔化すことも出来た。
俺にとっては、それが全てだ。
幼馴染も助けて、盗賊たちは瓦礫の下。
ああ、そうだよ。【無限】の能力を使って、あの納屋を崩壊させたんだ。
予め木材の軽さの数値を弄って、落ちて来ても一切痛くないようにしたんだ。
いや……一切は違うな、多少は痛かった。
それでも、発泡スチロールの塊がぶつかる感じだったよ。
だがそのおかげで、俺はクラウ姉さんを騙……いや、言い方が悪いな。
秘密を隠す事が出来た……かな?
とにかく、今回の事件では被害は無かったんだよ。今はそれでいいだろ?
「……大丈夫?ミオ」
「へ、平気だよ……平気平気。もう直ぐ村に着くしね」
クラウ姉さんと二人でガルスを運んでいるのだが……力の抜けた人間のその重さは、十歳のガキにはきつかった。
それでも、男気を見せて気合を入れてるんだよ、クラウ姉さんの方が疲れてるように見えるしな。
しかし、そんな俺とクラウ姉さんの耳に。
とても聞き覚えのある声が入ってきた。
それはとても大きな声であり、そして……とても怒った声だった。
「――お前たち!!」
「……パパ」
「と、父さん」
やっべぇ……バレた。
でも良かった、解決した後で。
そうだよな、怒られる覚悟は初めからあったんだ。
父さん――ルドルフ・スクルーズは、ズンズンと大股で俺たちに近付くと。
「……父さんが何故怒っているか、分かるな?」
「「は、はい……」」
父さんはしゃがみ込み、子供の目線で話してくれる。
どこぞの盗賊とは違うわな。
しかし父さんは、大きなため息を吐くと。
「はぁ~……二人共、大丈夫なんだな?大きな怪我はないんだな?」
俺の頬を見て、ため息を吐く父さん。
大きな怪我は無いよ……あえて言うなら、一番痛いのは腹かな。
「う、うん……」
「大丈夫……」
「ならいい……ガルス君を」
そう言って、父さんはガルスを抱えてくれた。
助かるよ……正直。
でも、もしかしてそんなに怒ってないのか?
と、思った俺がバカだった……と、俺とクラウ姉さんは二人して思う事になるのだった。
◇
俺とクラウ姉さん、そしてレイン姉さんまでもが、正座をさせられている。
家の廊下でな。
もう分かるだろうけどさ……カンカンだよ、親父殿は。
怪我をしているガルスは両親に引き渡して、俺とクラウ姉さんの報告を聞いた村の男たちが、崩壊してしまった納屋に向かったよ。
今頃、親分以外は捕らえられてんじゃないか?
なにせ俺が地面の数値を弄らないと、親分を掘り出すことは出来ないだろうからな。
「――ミオ!聞いているのっ!?」
「あ、はい!ごめんなさいっ!!」
やべぇ……レギンママンまで怒ってるんだもん。
当たり前だけどさ……俺たち三姉弟は、順に並べられて、頭に拳骨を受けたよ。
今の日本なら問題になるレベルのさ。
でも、ここは異世界だ……しかも、俺たちを思ってくれた一撃だと……心から理解できた。
不思議とさ……涙が出たよ。
あぁ……異世界なんだな、ここはさ――って、改めて実感したよ。
異世界に転生して……早や十年。
三十歳の誕生日に手違いで殺されて、ポンコツ女神に転生させられた俺、武邑澪。
せっかく貰った能力も、武器も使わず十年。
今日……俺はようやく一歩を踏み出したんだ。
一歩目の歩みを、異世界で生きていく覚悟を、持つ事が出来た。
ようやく、澪から始まる異世界転生譚が……始まるんだ。




