１－８１【怒られに行こう】
◇怒られに行こう◇
想いが通じたのか、それとも転生者の才能なのか。
私の手が光り輝く。
パァァァァァ――っと……優しい、白い光が。
「――！！光った……？」
自分でも驚いた。
まさか、本当に魔法が使えるだなんて。
「いや……驚いている場合じゃないわ……！やらなきゃ……！！」
早くガルスくんを治して、ミオを――
助けに行かなければ、と……そう思った時だった。
私が治療を終え、顔を上げたその瞬間。
弟を、ミオを助けに行かなければと思っていたのに。
その場所が……納屋が……一気に崩壊したのだ。
「う……噓……」
立ち上がった私は、ふらつきながらも崩壊した瓦礫に近付く。
その建材は殆どが木材だ。
二階建ての高さもない、本当に簡素な作りのものだった。
「まさか、ガルスくんが吹き飛ばされた穴が原因……？」
その穴から、崩れたのだ。
「ミ、ミオーーーー！！」
土埃が治まってくると、私は駆け出して叫んだ。
中にいた盗賊たちなんてどうでもいい。弟だ、弟だけは……絶対に！
「――【クラウソラス】！！」
光の魔法剣、しかし……その実体はなく。
魔法や精神を斬り裂く能力を持った剣だ。
私は全力で瓦礫に斬りかかる。
吹き飛ばしてやろうと思ったのよ……でも。
「くっ……なんで！！」
魔法剣は瓦礫をすり抜けて、音もなく消える。
「か……はっ……！はぁ……はぁ」
今の私の限界だ……魔力が持たない。
パシューーーーン……と、【クラウソラス】が消滅した。
もう、発動も出来ない。
「……そ、そんな……」
レインお姉ちゃんに、パパとママに……何て言えば。
「……ミ……――！！」
ハッとした……何か、微かに聞こえたのだ。
本当に微かだが、確実に聞こえた。
私を呼ぶ声が、弟の声が。
「ミオっ！？」
「――クラウ姉さん……クラウ姉さん！」
「――ミオ！！」
聞こえた。隙間から、弟の声が。
探す、探す。くまなく探して、そして。
大きな木材と木材の隙間に、その影を見つけた。
泥だらけの顔。埃だらけの頭。
しかし、その顔は満面の笑みだった。
「姉さん。ガルスは……？」
「バカっ！！自分の事を心配しなさいよっ！もうっ……」
私は涙目になりながら、弟を引っ張り出す。
「……よっと……クラウ姉さん、ありがとう！」
運が良かったとしか言えない。
でも……これだけは、あのだらしなさそうな女神に感謝してもいい。
「大丈夫なの？ミオ……」
「うん。逃げ回ってたら……盗賊の親玉が勝手に色々と壊してくれたんだっ。そしたら、そしたらね！」
「う、うん……わかったから落ち着きましょう？」
なによもう。急にそんな子供っぽくなっちゃって、いつもの冷静な感じはどうしたのよ。
興奮気味の弟に、私はほっこりとしながらも、急激に襲ってくる疲労感と魔力の消費による倦怠感で、思考が正常に動いてはくれなかった。
「さぁ、帰りましょう。ガルスくんを連れて、村に……」
「――うん！そうだねっ！一緒に父さんに怒られようねっ！！」
あ。そう言えば……そうだった。
