1-80【姉として】
◇姉として◇
まさか……弟があそこまで勇気のある男の子だと思わなかった。
幼馴染の為、私や家族の為に頑張る……意気地のある子ども。
初めは、そのくらいにしか思わなかったのに。
頭もいいし、回転も速い。
何より洞察力が鋭いのが最大の強みだと思った。
私と似たような感覚を持ち、理解力が広い。
様々な視点から考えることができる、幅の広い思考能力。
それだけで、正直この世界では異質だと思えた。
それこそ、転生者のように。
だが、私は事前に聞いている。
私をこの世界に転生させた――【女神アイズレーン】から。
この世界は、確かに異世界だ。
地球とは異なる未知の世界……だけど、その基準はゲームのようなものだと言った。
転生者をプレイヤーとすれば、現地民はNPCだ。
だが、NPCは生きている。私たちと同じように息をして、食事をし、眠り、子をなし生きているのだ。
女神の言い方では完全にゲームの世界だが、絶対に違うと言うのは自分で確認が出来た。
ここは……紛れもない異世界。
私が生きる、私の世界だ。
そしてそのNPC……いや、この言い方は良くないわね。
この世界の住人は、成長する事で転生者たちのように強くなれるのだと、女神は言った。
だから、ミオはその類の人間だと思う。
例え、ミオが転生者だったとしても……私の探している人物であるはずは、ないのだから。
◇
「――ガルスくん!!ガルスくんしっかりしなさい!!」
完全に気を失っているわ、頭から血も出てる……!
「どうすれば……」
私は周りを見渡し、何かないかと探る。
弟に頼まれたんだもの、絶対に何とかして見せるわよっ!
私は自分の上着を脱ぎ、汚れていない内側をガルスくんの頭に当て、出血を止めにかかる。
「――せめて、医療キットがあれば」
私は自分の前世での仕事を思い出し、応急措置を開始する。
探るように出血の患部を見ると。
「傷は深くないわね……きっと、壁に頭を打ったのね」
ガルスくんが吹き飛ばされて来た壁を確認すると、微かに血の跡を見つけた。
その壁は汚く、泥や何か知らない汚れで黒ずんでいた。
「汚れを落として……患部固定、ちっ……消毒も出来ない!せめてお酒があれば……!」
そうだ……!魔法!
転生者は、才能次第で魔法が使えるって、あの女神が言っていた。
なら……治療の魔法をっ!!
やり方なんて知らないけど……でも、やらないよりはマシだ。
女神に授かった【クラウソラス】だって、いつの間にか使えるようになってた……だったら!
「魔法だって、急に使えるようになったっておかしくないでしょ!!」
両手を重ねて、患部にかざす。
【クラウソラス】を発動させる要領で、手のひらに光を集める感覚だ。
「お願い……!ミオの幼馴染を、助けたいのっ!お姉ちゃんなんだから!!」
ヒールでもヒーリングでも、なんでもいいからっ!
傷を……癒して!!




