1-78【無限2】
◇無限2◇
女神に呼び出され、強制的に意識を手放していた俺だったが、時間はまったく経っていなかったようだ。
アイズに能力のヒントを聞き……戻って来た。
そして、俺がパッ――と目を覚ました時。
眼前に迫っていたのは……盗賊親分の靴に仕込まれた刃物だった。
や、やべぇ……ここからどうやって避けるんだよ!?
意外と冷静になっていた俺だったが、この状況ではどうしようもない。
しかし、そんな俺の窮地を助けてくれたのは。
「――や、やめろぉぉっ!!あんっぐっ!!」
ガ、ガルスっ!?
ザシュッ――!!
幼馴染のその声と共に、俺の頬を刃物が切り裂いた。
「――いっ……てぇ」
ガルスが盗賊親分に嚙みついたのだ。
そのおかげで、攻撃がズレたんだ。
「――がっ!痛ってぇぇ!このクソガキぃぃ……嚙みつきやがったなぁ!!」
痛がる盗賊親分。
何言ってんだよ、俺の方が痛てぇよ!おっさん!!
あ、なに?ブーメラン?おいおい、言うなよ良い所なんだからさ。
腹に力を込めて立ち上がろうとする。
いててっ……そう言えば腹も殴られてたな。
そんな痛む腹に力を込めて、俺は必死の形相で立ち上がった。
「――へへっ……サンキュ、ガルス」
「ミオっ!」
少し離れた所にいたクラウ姉さんが駆け寄ろうとしてくれた。
だがしかし、俺は右手で制してそれを拒む。
「このぉぉ!クソガキがぁぁぁぁ!!」
「う、うわぁぁぁ!!」
「ガ、ガルスっ!」
ドガラッシャーン――と、ガルスがボロ納屋を突き破って行った。
盗賊親分が、思い切りガルスを投げ飛ばしたのだ。
投げ飛ばしたガルスを見ることなく、盗賊親分は俺を睨んで言う。
「このクソガキどもがぁっ……俺を舐めやがってっ!!ぶっ殺してやらぁぁ!!」
ジリリ――と、盗賊親分が俺に詰め寄る。
そんな中で、俺は冷静さを忘れないよう心掛け、後ろの姉に叫ぶ。
「――クラウ姉さんっ!ガルスをお願いっ!見て来てっ!!」
「で、でも……!」
「いいから!僕は大丈夫だから!!」
クラウ姉さんは不安そうにしながらも走り出して、納屋の外まで投げ飛ばされたガルスのもとに行ってくれた。
よし、これでいい。
「なんだぁクソガキ、ぼくちゃん一人でも大丈夫だってかぁ!?舐め腐りやがって!あぁん!?」
大人ってさ。大きな声で怒鳴れば、子供は静まるって思ってる節があるよな。
実際そんな事、全然なくてさ……子供は、大人の為人を見てるんだ。
だから、どんなに怒鳴ったって……言う事を聞くことはないんだ。
「黙れよ。おっさんさぁ……俺がガキだからって、怒鳴られて黙ると思ってたら大間違いだぞ……」
急変する態度に、盗賊親分は眉を顰めて。
「――な、なに!?お前……急に」
ガルスが納屋の外まで大きく吹き飛ばされた事で、クラウ姉さんをそっちに行かせた。
物凄い勢いで、ボロい壁を突き破って行った俺の幼馴染。
だ、大丈夫だよな?
まぁでも、今は心配してらんねぇよ……俺は俺の心配をしねぇとな。
そうして、このおっさんをブッ倒すんだ。
「がっはっは!!そんなフラフラで……この俺様を倒すつもりでいるのか!?」
ああそうだよ……倒してやるよ。
まだ知ったばかりで……加減なんて出来ねぇからな!
「――【無限】……」
「なに?」
ボソッと呟いた、能力の短縮名。
しかし、それは発動のキーでもあった。
ふらつく俺の思考には、その発動のUIが見えている。
スマホゲーなんかで見る、ユーザーインターフェースってやつだ。
「さぁ……いくぜ?」
発動しちまえば、効果は永続。
【無限】、その正式名称を、俺は口にする。
「――object・slider・resource・∞――!」
その名を口にした瞬間――俺の異世界での物語が動き出したんだ。




