1-73【クラウソラス】
◇クラウソラス◇
――な、何が起きたんだ?
今、クラウ姉さんは確かに盗賊Aを斬ったよな?
そう、斬ったんだ……でも、俺には剣を空振った様にも見えたし、盗賊Aをすり抜けたようにも見えた。
だけど、目を剥いてぶっ倒れた盗賊Aは、完全に死ん……いや、昏倒している。
血は出ていないし、傷などどこにもない。
転んで出来たと思われるたんこぶはあるけどさ。
「――す、すげぇ……」
驚いているのはガルスだ、俺だって声を出して驚きてぇよ。
――とか言っているうちに、今度は盗賊Bがクラウ姉さんに向かってきた。
向かって来たと言うよりも、リーダー格の男に無理矢理行かされた感じか。
そういえば、あいつ……クラウ姉さんにそうとう興奮してた奴だよな。
「うおりゃぁぁっ!」
ほら見ろ。どう見ても掴みかかってる。
腰に下げた剣は飾りかよ!
「――ウザいっ!!」
姉さんや、その言葉はこの世界にはない言葉なのでは?
あるのか?ウザいって。あーでも……うざったいの略語だったか。
クラウ姉さんは、盗賊の掴みかかりを簡単に避ける。
それにしても、クラウ姉さんの運動能力おかしくないか?
十三歳だぞ?俺とそう変わんねぇのに、なんであんなに動けるんだよ。
「――ふんっ!!」
「し、しつこいわね!!スカートを狙うんじゃないわよっ!」
駄目だアイツ……クラウ姉さん、そんな奴はさっさと斬りましょう。
――と、俺と同じ考えだったのか、クラウ姉さんは少し距離が開いた盗賊Bに対して、光の剣を斬り上げたのだ。
普通に考えれば、素振りの距離だ。
届く訳が無いと思った俺だったが、その考えは一瞬で吹き飛ばされた。
姉さんの持つ光の剣が、ギュン――と伸びたからだ。
まるで鞭のようだと思った。伸縮し、盗賊Bの股間から頭頂部までを貫通していった光の剣は、一瞬だけ発光して元のサイズの剣に戻った。
す、すげぇなマジで。
圧倒的じゃないか……しかし盗賊Bは、何故か恍惚の顔を浮かべて大の字に倒れた。いや、マジでなんで?
あ、ああ……股間を斬られたからか?って、なんでそんな顔出来んだよ、青ざめるだろ普通!
「……あと、二人……」
そう呟いたクラウ姉さんだったが、汗が滲んできている。
もしかして、【クラウソラス】はそうとう燃費が悪いんじゃないか?
それとも、やはり子供の身体だからか。
「くそがっ!!今度はお前だっ!行けっ!!」
「う、うふぁっ!!」
この盗賊Cはなんで喋んねぇの?
特徴ある笑い方だなぁとは思ってたけど、返事もそれなのかよ!
「……うふぁああああ!!」
「ふっ、ほっ……」
れ、連続攻撃だ。意外にも、この変な盗賊Cが一番盗賊っぽい戦い方だと思った。
突き、斬り、払い……的確にクラウ姉さんを狙った攻撃だった。
しかし、クラウ姉さんは全部を避ける。
なんで防がないんだ?防御をすれば――あ、そうか。もしかして、光の剣では防御が出来ないのか。
相手には防御をさせないが、それは自分も同じだという事なんだ。
盗賊Cはナイフによる連続攻撃と、多少の体術も繰り出していた。
クラウ姉さんは対応しているが、どことなく動きが……鈍い?
「うふぁ!!」
「――しまっ……」
「クラウ姉さん!」
足払い。クラウ姉さんは少し足を上げるのが遅れただけだったが、盗賊Cの足払いはクラウ姉さんの左足にヒットした。動きが鈍ったのが、如実に身体に出たんだ。
「うっふぁああああ!!」
転倒したクラウ姉さんに、盗賊Cが馬乗りになる。
や、やべぇ!この体格差じゃ逃げられねぇ!!
「この……セクハラっ!!」
しかし、クラウ姉さんは光の剣を胸元で構えていた。
その剣の剣身は異常に短く、俺に渡したナイフと同じくらいにまで縮んでいた。
そして、盗賊Cがナイフを振り上げた瞬間、縮んでいた光の剣は、再度大きさを取り戻し……盗賊Cの顔面目掛けて伸びて行ったのだった。




