1-72【イベントステージ5】
◇イベントステージ5◇
俺の初めての……異世界での冒険譚。
夜。友達を助け出すために家を抜け出して、子供のお出掛けのような距離を全力で走り、村からすぐの少し大きな納屋に到着した。
皆も知ってるだろ?……大抵のRPGの初戦は、イベントステージなんだぜ?
言わばチュートリアルだよ、チュートリアル。
絶対に負けはしないし、懇切丁寧にガイドしてくれる誰かもいる。
そんな俺のイベントステージでの主人公は――紛れもなく、クラウ姉さんだった。
クラウ姉さんの右手に輝く光の塊。
姉さんは言った――【クラウソラス】と。
クラウ姉さんの剣が【クラウソラス】?はははっ……出来すぎだろ。
確か、光の剣って意味の伝説の武器だよな。
あれはまさに光の剣だ……光しかない。刀身も柄も、全部が光の塊。
それが、クラウ姉さんの……転生特典なんだ。
◇
神々しい程の光は、一瞬だけ納屋を真っ白に染めて、やがてゆっくりと収まり、そして落ち着いた。
私の右手にぴったりと張り付くように、フィットする剣の重量は皆無。まるで空気を掴むような軽さと、自身と一体化しているような同一感。
「……な、なんだそりゃ」
「お、親分……やばくないっすか?」
「……」
「うふぁ?」
「――流石に、一般人の馬鹿共でもこれのヤバさは分かるみたいね。どう?このまま逃げ帰って、そして二度と村に近付かないのなら、見逃してもいいわよ?」
まぁ、私のようなちびガキにそんな事を言われて、素直に従う様な奴らじゃないでしょうけどね。
「――んだとっ!!そんなコケ脅しで、この俺様がビビるとでも思ってんのか!!」
「「「……」」」
「お仲間たちの腰は引けているようだけど?」
クスリと笑い、私は煽るようにこの場の主導を握る。
盗賊のリーダーだけはやる気のようだけど、部下の三人は【クラウソラス】を見て消沈してる。
正直言って、相手にはなりそうもない。
でも――出来る事ならそうして欲しい。
私だって、人殺しがしたくて転生したんじゃない。
当たり前だけれど、生きた人間は切った事なんてない。
だから……引くなら引いて。
「――ふ、ふざけんなぁ!!お前らぁぁ!いぐぞぉぉ!!」
「お、おう!」
「へ、へい……」
「うふぁいっ!」
馬鹿な奴ら……命は無駄にしない方がいいのに。
私は内心で舌打ちをしつつ、構える。
私の剣……【クラウソラス】は魔力による攻撃の魔法剣だ。
その威力は凄すぎるの一言。だけど、まだ制御が難しいのよね。
「うおりゃーー!!」
来るっ――!盗賊の一人が走って来て、腰に下げていたボロい剣で攻撃をしてきた。
でも遅い。動きが単調で、一歩下がるだけで簡単に避けられる。
「――ふっ」
私は右足を摺足で後退させて、身体を反転させる。
そしてその勢いのまま、身体を元に戻し――【クラウソラス】を振り抜く!
「うおっ……な!?」
「――はぁっ!!」
盗賊は防御をしようと剣を構えた。が……【クラウソラス】は、ボロ剣をすり抜け……盗賊を斬った。
この光の剣【クラウソラス】は物理防御を貫通し、完全に無効化するのだ。
鍔迫り合いなど、全くの無意味と言う訳だ。
「――あ、がっ……」
そして、斬られた盗賊は倒れる。
白目を剝いて、防御姿勢のまま前方に倒れて行った。
【クラウソラス】最大の特徴は、肉体的ダメージではなく……精神ダメージなのだ。
よって、今盗賊が斬られた箇所は血飛沫も出る事はなく、周りの盗賊たちは何が起きたかも分からないまま、仲間の盗賊が倒れる瞬間を目撃したのだ。




