1-4【赤ちゃんとママ】
◇赤ちゃんとママ◇
あー。もうやだ。やる気しねぇ。
俺は寝っ転がりながら、心の中で一人呟いていた。
産まれてから数ヶ月が経った。何度も何度も羞恥に耐えて過ごしてきた赤ちゃん生活。
乳を飲み、クソをして寝る。そんな生活も慣れてきて、今のようにたまに夜中にふと目を覚ます。
まぁ分かるだろ?この独り言こそ、そう、夜泣きだよ。
「うぎゃああああああん、おぎゃあああああ」
その度に、母レギンは俺をあやしてくれる。
抱っこをして、乳を飲ませ、オムツを換えて散歩をする。
こんな夜中でも、何時でもだ。
一方で、夫のルドルフは鼾を掻いて眠りこけている。
「はーいはい。よしよし……いい子でしゅね~」
少しは妻を手伝えよ。この駄目夫が。
この様子だと、レインとクラウが赤子の時もこんな感じだったんだろうと、容易に想像が付いちまう。
もしかして、ルドルフは典型的なダメンズなのでは?と。
「パパに似て、夜型なのかな~?ハッスルしちゃうのかな~?」
おい、頼むからやめてくれママン。言葉が分からないと思ってるだろうが、二人の姉より知っているんだ。すまんなマジで。
そんな俺の葛藤を露とも知らず、レギンは夜の村を歩く。
そしてふと、ランタンの灯りが目に入った。
「――おや?これはスクルーズの奥様じゃないか……」
「……あ、ど……どうも」
ん?レギンが強張った?
俺は声の方に振り向いた。そこには、ランタンを持ったイケメンがニヤニヤしながらレギンを見ていた。
「こんな夜中にどうしたんです?……ああ、そうか、子供の夜泣きか。大変ですねぇお母さんは」
「い、いえ……当然の事ですから。オイジーさんこそ、どうしたのです?こんな時間に」
この男、近所に住むオイジーと言う若い男だ。
その視線はいやらしく、レギンを舐める様に見てやがる。
おいやめろ、母に色目を使うんじゃあない。
「スクルーズの子供だもんなぁ……」
あ?今なんつった?
あんな駄目男でも、一応この世界での俺のオヤジだぞ。まるで俺まで駄目って言われてるみたいで、心底腹立たしいんだが。
それはレギンもそうなのか、俺を抱く手に力が入る。
「そんな事はありません。彼は仕事をしてくれています。私と三人の子の為に、汗水流して野菜を育ててくれているんです!」
なるほど。スクルーズ家は農家か。
四人が毎日のように食べる瘦せた野菜は、自家製だったのか。
「そうかい?でもそれじゃあ、奥さんは寂しいんじゃないかな?」
おいこら、肩を寄せるんじゃねーよ!!
ママンも拒みなさ……い?
は?え?
「……」
寂しいのかよ!!仲良し夫婦じゃないの!?
そう心の中で叫んだ俺だったが、レギンは。
「――そういうのはやめてください。確かに私たち夫婦は……あなたの家に借金がありますけど、そんなつもりは一切ありませんから」
「へぇ……いいんですか?だってそうでしょう?なんたって――村長の息子ですからねぇ」
コイツ、この村の村長の息子だったのか。
でもって、スクルーズ家はこいつに借金がある……と。
こりゃあ、ルドルフは知らないパターンだな?
いや、もしくはルドルフが作った借金か……?いやいや、そこまで駄目な男じゃないだろう、きっと。
「と、とにかく。借金は野菜を売って返します……なので、これ以上は」
これ以上?おいママン……この男に何かされたのか!?
俺の勝手な妄想力がオーバーヒート!!流石魔法使い!
もしこの妄想が事実だったら……クソが!!許せねぇ!!