1-66【不思議な子】
◇不思議な子◇
私の弟は、とても賢く、とても可愛い。
異世界に転生した私の、最愛の存在だ。
今、私はその弟と二人、村の外に出ている。
盗賊を退治するためだ。
「子供に何が出来る」って、村の皆はそう言うだろうけど。
この村では大人だって何も出来ない筈だ。
そう言う場所だもの……何もない、退屈な場所。
だけど、弟……ミオは違う。そんな気がするの。
「姉さん……今、何て言ったの?」
好奇心の瞳がこちらを見ている。
今さっき私が口にした、“アジト”と言う言葉……多少の英語が浸透している程度のこの村では聞き慣れない筈だ。
ミスっちゃった……アジトは、ロシアから来た外来語であって、英語でも、勿論日本語でもない。
「……えっとね……」
どうしよう。この子は頭がいい。
私が聞きなれない言葉を使った事に、興味を示しちゃったんだ。
転生して今まで、十三年間。
前世の記憶が戻ったのは……三歳の時。
弟……ミオが産まれた年だ。
その時から、何度も何度も試行錯誤をして、女神に与えられた能力を顕現させる事が出来るようにまでなった。
それでも変なボロを出さないように、寡黙でクールな子を演じて来たけれど、やっぱり所々で素が出てしまう。
私が説明に戸惑い、焦っているとミオが。
「あ、そうか……クラウ姉さんは商人から買った本をよく読んでいるもんね。僕の知らない言葉をしっている筈だよ……」
と、自慢のお姉ちゃんを見るように笑いかけてくれた。
ありがたい。寡黙美少女を演じた甲斐もあるって言うものね。
「そ、そうね……だから色々しってるの。何でも聞いて」
自信ありげに胸を張る私。
よかった……ミオが私たち家族を大好きでいてくれて。
変に疑われるより、装ってでも上辺をつくろっておいた方が便利だしね。
「ミオ。あれが……あの納屋が、盗賊の居るアジト……拠点よ」
「う、うん」
ミオが生唾を飲んだ。ごくりと音を鳴らして。
やはり、怖いんでしょうね……それはそうよ。私だって、異世界転生者じゃなければ、盗賊なんて関わりたくないわ。
だけど、これはミオの為……ミオの友達を助ける為、私は力を振るう覚悟を決めた。
私が女神……名前は忘れたけど、何とかっていう女神から授かった力。
それを使えば、きっと簡単に決着がつく。
例え家族に変に思われても、村で居づらくなったとしても。
この子に辛い思いはさせたくないから。
「大丈夫?ここで……」
「待っているか」と、聞こうとしたけど……ミオは私の手を取って、頭を振るった。
口は開かない……それでも伝わる、ミオの思い。
「分かった……お姉ちゃんの言う事をよく聞いて……そうすれば、皆で帰れる。ガルスくんを連れて、帰ろう……そしてパパに怒られようね?」
さぁ、私にとっても……転生して、異世界らしい初のイベントだ。




