１－６３【協力してほしいんだ】
◇協力してほしいんだ◇
「お、女……って、それじゃあ」
やっと分かってくれたレイン姉さん。
顔を赤や青に変えて、考えを巡らせているようだ。
まぁ控えめに言っても、レイン姉さんは美人だ。この貧相な時代の十五歳の割に胸も大きい。流石ママンの娘。
「ミオ、あまり時間がないよ……急がないと」
「あ、うん……」
どうでもいいが、クラウ姉さんは隠す気あんのか？転生者だって事。
もう今日のクラウ姉さんは別人だよ？あぁいや……それを言ったら俺も同じか。
盗賊の行動理由や村が襲われる理由を、ただの十歳の村人が知ってたら、不審だよな。しかも、学もない村でだぞ？
これは最悪、クラウ姉さんには話さないといけないな……
「――レイン姉さん。僕を……僕たちを通して？」
「で、でも！……子供が何かできるような事じゃないよっ、少し待てば、大人が……」
ごもっともなんだよなぁ。正論だよ。ド正論。
十歳と十三歳に何が出来んねんって話だもんな。
「――大丈夫。私に考えがある。パパには黙らせられたけど……」
あ、クラウ姉さん根に持ってるなコレ。
この事件が片付いたら、親子関係が不安だよ、まったく。
まぁ――それも無事に終われば……の話だけどさ。
◇
冷静になったレイン姉さんに、俺とクラウ姉さんは再度説明をした。
俺たちは盗賊の所に向かうと。
だけど、別に危ない真似はしないと。
――うん。これは噓だろうな。
「それで、クラウの考えって……？」
「……残念だけど、ここでは言えないの」
いや、なんでだよ。
俺と同じ疑問を、レイン姉さんが言う。
「ど、どうして？」
「……ごめん。そういうものだから……」
――！！……まさか、能力か！？
考えって言うのは、クラウ姉さんの転生特典なんだ、きっと。
って事は、クラウ姉さんはもう自分の能力を把握してんのか……羨ましい。
そう言えば、この人は俺に比べて自由だな……一人の時も多いか。
「で、でも……それじゃあ納得できないわ」
そりゃそうだ。言ってくれないと信用できないよな。
クラウ姉さんは言葉足らずだ……これではレイン姉さんでも聞き入れられないはずだ。
“信頼はしても、信用するな”。“言葉は尽くしても、心は尽くすな”。
それが人との上手い付き合い方だと……俺は思っている。
だからレイン姉さんの場合……そうだ。
思ったことを、そのまま告げればいい。
「――レイン姉さん、クラウ姉さんの言うことが納得できないなら……僕の言葉を聞いて。僕は、レイン姉さんに協力してほしいんだよ」
「「え？」」
クラウ姉さんもそこまでは考えなかったのか。
俺はクラウ姉さんからの視線に頷いて、レイン姉さんに言う。
「きっと、父さんは見に来るよ。僕たちが大人しくしているかどうか……そこの窓からさ」
部屋唯一の窓だ。
床上式のこの家の窓は、立った大人が背伸びをすれば覗ける。
抜け出さないか、見に来てもおかしくはない。
「だからさ、レイン姉さんにはあの窓を塞いでほしいと思ってるんだ」
レイン姉さんだけは、父さんに協力していると見せて欲しいんだよ。
塞いでしまえば中は見えない。扉にも施錠をした以上、開ける事も無い筈だ。
「――それで、屋根裏から出ていくって言うのね……」
そう……だから、レイン姉さんには俺たちを監視している風を装ってもらいたいんだ。
しっかりと妹と弟を見張る……長女の役目を、全うする振りをしてくれないか？
