1-59【僕が行く!!】
◇僕が行く!!◇
クラウ姉さんの突然の一言に、当然のように両親は怒鳴り始めた。
「――馬鹿を言うんじゃない!」
「そうよクラウ、何を言い出すの!」
「……二人共落ち着いて。私にかんが――」
「――だ、黙りなさい!!」
「……!」
ル、ルドルフが大声をあげた……?
レギンに常に尻に敷かれ続けて来た、この男が?
最近年を気にしてか、口髭なんて言う似合わないものを生やし始めた、四十歳のおっさんが?
「パパ、聞いて……私は――」
「駄目だと言ってるだろう!!」
「――うっ……」
す、すげぇ剣幕だ。
ここまで怒ってるルドルフ……父さんは見たことがない。
だが、普通に考えれば理由は分かる。
十三歳の娘が、自ら盗賊の所に向かうと言えば、怒るのが当たり前だ。
クラウは農家の娘であり、騎士でもなければ戦士でもない。
魔法も使えなければ、特殊能力も……――そうか!
クラウ姉さんには何かあるんだ。だから確信を持って言える。
自分なら、ガルスを助けられると。
しかし、そんな事を両親が知る訳など無く、流石の剣幕に後退りしてしまったのだろう。
もしかしたら、クラウ姉さんは何かを言おうとしたのか?
だけど、ルドルフ父さんが一方的に怒鳴って来て……封じられた。
「――村長に相談してみよう。村が危険だと知らせれば、きっと……いいですね、カレテュさん」
それはいけない。駄目だ。
「駄目だよ父さん。それじゃ……ガルスもカレテュさんも、その家族も……もう村に居られない、居られなくなる」
そうだ。村に危険を招いた戦犯。
だれがそんな家族を置いておけるだろうか。
もし、何事もなく村で過ごせたとしても、居心地は最悪だ。
俺は覚えている。
十年前、母さんの……レギンの悪い噂が流された時の、あの村人たちからの視線を。
「し、しかしだな……」
だから、クラウ姉さんがいけないのなら。
可能性は低いのかもしれない、それでも……出来る事があるのなら。
「……なら、僕が行きます」
「――ば、馬鹿野郎!!」
分かってる。父さんが怒鳴る事も、母さんが心配そうに顔を歪めるのも分かってる。
俺はまだ子供だ……十歳のクソガキだ。
身体も全然成長していない。地頭だって、恥ずかしいがそこまで良い方じゃない。
「でも……」
「?」
「ミオ……?」
「でも、僕が行く。友達だから……僕が行くんだっ!!」
キレるだろうな……優しいルドルフ父さん。
下手をすれば殴られるかもしれない。
些細なキッカケを見逃した、俺が悪いんだ。
俺がもう少し注意を払っていれば、ガルスは単独で行かなかったかもしれないだろ?だから、俺が行くんだ。
俺が行って何ができるか……そんな事は分からない。
もしかしたら、何も出来ずに殺されてしまうかもしれない。
でも行くんだ。せっかく出来た……新しい人生の友達なんだからさ。




