1-58【私が行く】
◇私が行く◇
俺の幼馴染で同級生、ガルス・レダンがいなくなった。
残されたメモには「盗賊を見に行く」と書き記されていたと言う。
その時間から、既に結構の時が経っている。
もしも盗賊が関わっているとなれば、時間は多くはないだろう。
「ミオくんの言う通り、あの子は見に行ったのでしょうね……ガルス、あの馬鹿息子……」
「――ごめんなさい」
素直な思いだ。俺の知恵と大人の説得力があれば、ガルスを止められたかもしれない。
命がかかってるんだ、本気で悪いと思っている。だから謝る。
でも意味はない。きっと、これはただの自己満だ。だけど、だからこそ……
「――最近、隣町から商人が来ませんよね……?」
「ミオくん?」
「ミオ?それがどうしたんだ?」
カレテュさんと父さんだ。
「盗賊がいる事を……商人の人たちは知っていたんだと思います。だから、落ち着くまでこの村には近付かないようにしたんです、きっと」
「お、おお……」
いつになく饒舌な息子の真剣な顔に、父ルドルフは困惑している。
しかし母親、レギンは。
「聞かせてくれる?ミオ……」
流石レギンママンだぜ……俺の気持ちを分かってくれてる。
「うん……このままだと、村に盗賊が来てしまうと思うんだ」
「なっ!!」
「え!?」
「……」
ルドルフ、レイン、クラウの順だ。
ガルスの母カレテュは、頭を抱えてテーブルに肘をついていた。
「……多分ですけど、噂の盗賊……もともとは商人を狙った盗賊だったと思うんです。でも……話を聞きつけた商人が来なくなった。そうなれば、何もない場所では近くにある村や町にいくしかない……つまり、一番近いこの村に襲いに行くしかなくなる」
「……そ、そんな」
「……多分その通りだよ」
驚くレイン姉さん、そしてクラウ姉さんが俺に同意する。
そして付け加えて、説明をしてくれた。
頼りになるなぁ……転生者。
「――ガルスくんはまだ無事……それは確実だと思う」
「ほ、本当に!?」
カレテュが立ち上がって、クラウ姉さんに言う。
いつものクラウ姉さんならウザそうに対応するだろうが。
「はい。盗賊はこの村の情報を持っていません。持っていたらもう来ているでしょうし……だからきっと、ガルスくんに村まで案内させると思うんです。だから、簡単に命を取ったりはしないはずです」
俺もクラウ姉さんも、人の変わったように口が軽くなっちゃってさ。
どうしようかね、今後。
それでもやっぱり、友達は助けたいよな。
「でも……自警団もないのよ?この村には」
「そ、それは……」
レギン母さんが言う言葉に、カレテュが動揺する。
そうだ、この過疎化した村には、自衛の手段がない。
きっと今までも、このような経験は無かったのだろう。
作物さえ守れれば、この村では平和に暮らせていたんだ。
だから、俺は一度もこの村で……剣や槍を見た事が無かった。
そのせいで、ファンタジーの世界に転生したって実感がなかったんだと思う。
「――なら、私が行く」
「「「「!!」」」」
「ク、クラウ姉さん!?」
――は!?な、なんでだよ!どうしてクラウ姉さんが行く必要があるんだ。
驚きの宣言に、この場にいる全員が固まったのだった。




