1-43【女神の囁き2】
◇女神の囁き2◇
やべぇやべぇ!!どうすんだよ!!
二人の話に身を入れ過ぎて、身体と心がバラバラになってた!
これじゃあ、まるで聞こえていたみたいじゃないか!!
土を踏みしめて、クラウお姉ちゃんの足音が近付いてくる。
――だぁぁぁぁ!女神?もだ!
聞こえた二つの足音に、俺は背筋に汗を流した。
しかし。
「待ってイエシアス、ミオは疲れてるはずだから……寝かせてあげて」
「うん?寝てるの?あれ……」
そーだ!寝ればいいんだ!!
クラウお姉ちゃんのありがたい助言に、俺は一瞬で狸寝入りをする。
……。……。……。
寝れる訳ねぇだろ!の○太じゃないんだから!!
しかし、クラウお姉ちゃんは言う。
「大丈夫よ、寝てる。昨日もあんな感じで……テーブルに頭ぶつけてたから」
あの時のガタン――!って、俺がデコぶつけた音だったのかぁ!!
い、いや、しかしチャンスだ……!これなら寝てられる、噓寝だったとしても!
「ミオ、ミオ……?ほらね、かわいいでしょ」
「……本当だわぁ。食べたくなるわねぇ~」
「……(ぎろり)」
「あらやだ怖い、冗談じゃないのよ……」
え?何が起きたんだよ、目を瞑ってるから分かんねぇよ!?
「もういいでしょう。ミオもいるし、今日は帰るわ……話はまた後で聞く。今日はそれだけを言いに来ただけだから。それに、もう直ぐここにも入れなくなるし……貴女が次に来るときには、私も成長しているはずだし」
「確かにねぇ、大きくなるのは早いものね、人間って。まぁ私には他にも情報を聞き出したい転生者もいるし、別にいいけれどねぇ」
やっぱり……転生者は結構いるのか。
この女神……名前なんだっけ、ああそうイエシアスだ。
イエシアスの言葉を考えるに、クラウお姉ちゃん以外にも転生者がいるって事だ。
そして、イエシアスが滅多に現れない事を考えると……その転生者たちは他の町や国にいるんだろう。
「よっと……お、重い……」
クラウお姉ちゃんは、俺を抱えてくれる。
ごめん、重いよな。六歳児に三歳児を背負わせるのは。
でも、ここはなんとか頼む。
クラウお姉ちゃんは歩み出した。またあの狭い穴を抜けるのだろう。
あれ?そう言えば、この女神はどうやってここを通って来たんだ?
「……あ、そうだイエシアス」
「なにかしら?……クラウちゃん」
「ちっ……貴女の探してる、チート全持ちの転生者……見つかると良いわね」
クラウお姉ちゃんは子供らしくない舌打ちをして、それでも女神に言葉を送る。
「うふふ……ありがとう。なぁんだ、優しい所も――」
俺も思った……でも。
「――そんでもって、早く私の前から居なくなって。顔……見たくないから、出来れば二度と見たくないっ」
「……あーこわっ」
こわっ……!こ、これがクラウの本性?
いつもの寡黙な雰囲気も、おませな行動も、もしかして、演技なのか……?そうだとしたら、かなり侮れないぞ。
――ん?あ~っと……そうだな。
うん……あれだわ、俺と同じだわ……やってる事。
いずれにしても、俺もどこかのタイミングで行動しないといけないな。
クラウの事も、この女神の事も――
『――聞こえているんでしょう?』
――!!……な、なんだ……急に。声?
この女神の声だ。な、なんで……
『安心なさぁい。お姉ちゃんには聞こえないわよ……』
お、俺に直接語りかけてるのか?
『そう言う事。女神に分からない訳ないでしょう?転生者くん』
気付いてたのかよ……趣味悪ぃな。
『そう言わないの。お姉ちゃんにバレない様にしてあげたでしょう?』
それは、まぁありがてぇけど。
でも、なんで声をかけて来たんだ?――ってか、俺はこんな感じに心の中で返事するだけでいいのか?
『いいわよぉ。でね、私は人を探しているのよぉ。知らない?』
さっき言ってた、チート全持ちってやつか?
あいにくだけど知らないな。
俺は転生して三年、この村から一度も出てない。
転生者が他にもいるって、今知ったし。
『――あなたでは無いの?』
俺?いやいや、違うだろ。
チートって、転生する前に貰った能力の事だろ?
『そうよ』
だろ?なら、俺には一個しかないよ。それに、子供の身体じゃ何も出来なくてな。
まだどんな能力か、確かめてすらいないんだから。
『ふぅん……そう、分かったわ』
【女神イエシアス】は渋々納得した雰囲気だった。
だが、それがなんとも不安を煽るよ……だってそうだろ、自分の事だなんて、誰が思うかよ。




