1-42【女神の囁き1】
◇女神の囁き1◇
「――あら?その子が弟?」
肌を焼くような恐怖。率直な感想は、それだった。
俺は聞こえないふりをして、秘密基地を堪能する。
しかし、クラウお姉ちゃんはその声に答えたのだ。
「……そうよ」と返答。まるで、この声の主が来るのを分かっていたみたいに。
いや、分かっていて当然なのだ――何故なら。
「それにしても意外ね?」
「……なにが?」
「だってそうじゃない?こっちに来てから、あなたは誰にも心を開かなかったんでしょ?まさかこんな小さな弟くんをここに連れてくるなんて……意外でねぇ」
その女の声は、クラウお姉ちゃんをからかっているような声音にも聞こえた。
「五月蠅いわね。自我が目覚めたのも三年前よ……?この子が産まれて来てくれたお陰と言ってもいい。私に貴女が近づいたのだって、それからでしょ?」
この子――って、俺の事だよな?それに……自我?目覚めた?いったい何の事だ?
「確かにそうねぇ、でもいいのかしら?この子をここに連れて来て……」
「――最初に大丈夫って言ったのは、貴女でしょ?……私にしか、貴女の姿は見えない、声も聞こえないって言ったのは、貴方自身だわ」
バッチリ聞こえてんだよな……姿は、昨日チラッと見ただけだし、今は気付かれない様にするので精一杯だから分からんけど。
「そうねぇ……確かに言ったわ。でも、その条件は――」
「――分かってるわよ。転生者だけなんでしょ?女神の声が聞こえるのは……」
――は?今……なんて言った?
転生者!?女神!?お、おいおいおいっ!心当たりがありすぎなんだが!?
それに――って事は、クラウお姉ちゃんは……俺と、同じって事だよな!?
「うふふ……そう。この私、【女神イエシアス】の声は、本来この世界の住人ではない人間、つまり転生者にしか聞こえない……あなた、星那にしかね」
せ、せいな?まさか日本人……か?
で、でもそうか、前世の記憶もあるのなら……あれだけませてた理由も納得できる。
俺と同じで、色々と知っていたからだ。その行為を、知っててやって来たんだ。
「――前世の名前で呼ばないでって言ってるでしょ?それに、貴女の目的はどうなの?終ったの?」
目的?女神の?……なんだ、それ。
「うふふ……それが、ぜ~んぜん駄目」
やけに簡単に言うじゃないか。
まるで……決まっていたセリフの使いまわしだ。
「――ムカつくわね、その言い方」
あ、なるほどな……クラウお姉ちゃんを怒らせる言い方なのか。
俺は秘密基地に夢中になる振りをしていたが、二人の話に思考が行ってしまって、身体が完全に固まっていた。
そしてそれを、女神に気付かれた。
「ねぇ、弟くん……動かないわね?」
「ん?……あ、本当だ」
やっべぇ!……ど、どうする!?クラウがこっちに来てしまうっ!!




