1-34【スクルーズの野菜は村一番】
◇スクルーズの野菜は村一番◇
悪ガキの一言に俺が一番カチンと来ていたが、大人げない真似はしない。
昼休みなんだろう、飯を食おうが遊びに行こうが自由だ。
だがな、人を馬鹿にしていい訳じゃねぇ。
俺が見据えるこのガキは、「どうせ野菜」と言った。
どうせ?お前、その野菜食ってんだろ?この村の野菜の出荷率は、スクルーズ家がトップなの分かってんのか!?
しかも瘦せた野菜とか言ったなこのガキ!
売りもん以外の質の悪い物は率先して自分たちで食うに決まってんだろうが!!
それに、この三年で……どれだけオヤジが努力してきたと思ってんだゴラァァァァ!!
――おっといけない。と、とにかくだ……どうせ野菜だなんて馬鹿にされたようなことを言われては、流石に黙ってはいられない。
きっとレインお姉ちゃんは、押し黙ってしまうと思うんだ。
だから、俺が大泣きでもして場を濁そうかと思ったん……だが。
レインお姉ちゃんは、机に掛けてあった布の鞄から、徐に何かを取り出した。
お!?まさか、何かしだすのか?温厚なレインお姉ちゃんが、いったい何を……!?
「……ふんっ」
ドスン――!と、机に置かれたのは、商人から買った小さなバスケット。
食品を入れるものだ。詰まる所の弁当箱だな。
「な、なんだよ……」
あ~、レインお姉ちゃん怒ってるよ。
悪ガキもさ、多分そこまで本気で言ってないんだよな、きっと。
分かるよ。最初に言ったお前……レインお姉ちゃんに気があるんだろ?
好きな子をいじりたくなっちゃうアレだろ?分かる、分かるよ。
まぁ、俺は――絶許だけどな!
ゴホンッ――そ、それで?レインお姉ちゃんは何で弁当をこれ見よがしに出したんだい?
まさか、うちの野菜は美味しいんだぞって、高らかに宣言するつもりか?
「……うちは……うちは……」
よし、レインお姉ちゃんがその気なら、俺だって応援するさ!
言ってやればいい!!
「うちだって……――お肉あるもん!!」
そうだ!!肉あんだよ!!肉が……え?肉?
レインお姉ちゃん?なんでそこで肉なのよ……?
え、なに?もしかして昨日の猪肉か?
ミオくんもきょとんよ。
ねぇ、しかもこのドヤ顔よ……そうじゃないんだよなぁ。
「――うわぁ、くっせぇ!くっっせぇぇぇ!」
「ぎゃははは、くっせーのー!」
「……レインおねぇちゃん……」
「――む、むぅぅぅぅぅ!!」
うわっ――なにその顔、めっちゃ可愛いんですけど!!
顔を真っ赤にして頬を膨らましてさ、涙目だぞ。
「――あんたら!!レインちゃんいじめたらただじゃ置かないからね!!」
お、ミラージュ……いい子だ。
友達を守る優しい子なんだな。尊敬しますよ。
「うっわー男女がおこったぞー」
「おこったおこったーー!」
「……こ、のぉぉぉぉ!!」
やばい!!ミラージュがキレた!!
どこの世界でもあるんだな、こう言う子供のトラブル!
俺は見る事しか出来ないまま、喧嘩が始まってしまったのだった。




