2-100【覚醒3】
◇覚醒3◇
俺を敵だって……?バカ言うなよ、俺は初めからお前を敵としか見てねぇよ!
理由はどうであれ、自分の家族に手を出すような男……俺は許すつもりはないんだからなっ!!
ああ……もう分かってるだろ?
俺は、前世で出来なかった事に直面して……怒っているんだ。
転生して十二年、ここまでキレた事はない。
なら何故、俺がここまで怒っているかと言うと。
俺は……前世で家族を蔑ろにしたんだ。
酒浸りで、家族に暴力を振るう父。
家事も育児もせず、ギャンブルに逃避した母。
優秀なくせに、他人を小馬鹿にする弟。
そんな家族を……俺は前世で捨てたんだ。
だから死んだ時……転生するなら、それでもいいと簡単に受け入れたんだ。
別に、毛嫌いするほど仲違いをしたわけじゃない……でも、自分から家族と交流をする事は無かった。
今世は……運がよかったんだ。
子供好きの両親に、弟思いの姉二人……可愛い妹。
転生して出来た新しい家族は、まさしく俺にとっての理想だったんだ。
だから……だからこそ。
前世で家族を捨てた俺だからこそ……目の前にいるコイツが許せない!
関係性は知らないよ。でも、妹であるジルさんを……あそこまでボロボロにした。
血だらけで、美しい銀髪は泥塗れだ。
「……許さねぇ……」
俺の緑色の瞳に映るジルさんは、今も俺やミーティアを気にしている。
その視線が、逃げろと言っている。
だけど……だけど!!
「――ふん。お前に許してもらう必要は無いな……少年。さぁ、黙ってこちらに来い」
「なんだって?……その状況でまだそんな事を言うのかよっ!」
ジェイルの腕には、超硬化させた木の鞭が巻きついている。
根元は、シーソーだった地面だ。
腕の部分には影もない、どうやって逃れるつもりだよっ!
「確かにお前の魔法は……子供とは思えない精度に予想外の使い方、更には見たことのない様な種類の力……見事だ」
「へっ……そりゃどうもっ!だからって、俺はアンタを……」
「――だが、それだけだ」
その一言を口にした瞬間……ジェイルが消えた。
「――っ!な……き……」
消えた!?ど、何処に……なんで!
木の鞭はそのままの形で残っている。
だが、ジェイルの姿は一瞬で消え去った。
「くそっ……何処にっ!」
周りを見渡すが、どこにもジェイルの姿はない。
しかし思い出す……ジルさんの言葉だ。
「影」だ。
「――下かよっっ!!」
ほんの一瞬の気配を察知して……俺は思い切り跳躍した。
だが……一足遅かった。
浮かんだ俺の足を目掛けて、真下の俺の影から伸びてくる……腕。
「うわっ……な……!!」
ガシッ――!
間に合わなかった!くそ……掴まれた!
影に――引きずり込まれる!!
「ミオくん!!」
「……ミオ……っ」
くそっ……影には……【無限】が使えない。
俺は必死に足搔き、ジェイルの腕を振り払おうとしたが、そこは大人と子供の力の差……敵う訳はなかったんだ。
「……こ……の……――っ」
俺は……影に飲み込まれていくように、その姿を消した。
残されたのは、瀕死のジルさんと……今にも泣きだしそうなミーティアだけだった。




