2-98【覚醒1】
◇覚醒1◇
公園の遊具の影から……ズズズッ――と、意味の分からない不気味な音を発して現れる……ダークエルフの男。
「――さぁ、こちらへ来い」
どこまで俺を……理由はなんなんだよ!!
せめて説明をしろよ!このイケメンエルフがぁぁ!!
「――あ、ああっ……ジルリーネぇぇっ!!」
ミーティアさんのうわずった悲鳴に、俺もその視線を追いかけた。
その先は、男の影だった……そしてそこには、銀色の長いポニーテールを掴まれた、ジルさんが横たわっていたのだ。
酷い怪我だと一瞬で理解した。
だらりとする四肢に力はなく、影から引きずり出されて地面に横たわるジルさん。
この男は……自分の妹に、家族に……手を出したんだ。
そう判断した瞬間……俺の中で何かが弾けた。
「――お……お前っ!ジルさんは妹なんだろっ!!家族に何やってんだよっ!!」
「……ミ、ミオ……くん?」
あ!や、やべぇ……つい……地が出ちまった。
「ふん。コイツの為に男を見せるか……いい根性だな、少年」
あーそうかよ。それでいいよじゃあ!!
「――妹にそんな事が出来るなんて、そこまでの事をしてまでやらなきゃいけない命令なのかよ!あんたが受けてる命令はっ!」
「――そうだ」
淡々と答える男には、俺は無性に腹が立った。
まるで命令の前には、妹だろうが家族だろうが……命そのものすら関係ないような言い方だ。
くそっ……簡単に言いやがって!
「……それなら、大層身勝手な理念の持ち主なんだろうなぁっ!あんたのご主人は……!」
もう仕方がない!ここは俺が乗り切るしかない!ミーティアさんごめん!
幻滅したならそれでいい……でも、今は……見逃してくれ!
「――ミーティア!!」
「――え、あ……は、はい……!」
動揺していたミーティアさんだったが、俺に大きな声を出されて逆に冷静になれたのか、素直に返事をしてくれた。
「見える位置に隠れててくれ……ミーティア、あいつを倒して……ジルさんを助けるっ!!」
もういい……俺は隠さず行く。
そうしなければ……俺もこの子、ミーティアも死んでしまう。
ジルさんだってそうだ。
「で、でも……ミオくんっ」
「いいから!!――俺を信じろっ!!」
ロールプレイとか言ってらんねぇ……盗賊や敗残兵なんかと一緒にしてられない。
このダークエルフの騎士は、マジで強い。
本気で戦わないと、今持てる力を全力で出して……生き残るんだ!
「……は、はいっ」
そうだ、いい子だな。
ミーティアは大きめの遊具の後ろに駆けていく。
だが、一人にはさせられない。目が届く範囲にいてもらわないと、この男が影を使って、ミーティアを人質にする可能性だってあるからな。
だからさ、もういいよな――ミオ・スクルーズ!!
転生者の意地……見せてやんよぉぉぉぉ!!
◇
転生者の意地を見せてやる。
……簡単には言ったものの、今の俺に出来る事はと言えば。
物体の数値を弄り、オブジェクトの形状や効果を変更する能力――【無限】。
食物をどんなところでも急成長させる能力――【豊穣】。
家族の美を保つ能力――【美貌】。
それと新しく覚えた能力――【強奪】、そして【譲渡】だ。
う~ん。ちょっと冷静になって考えても……メインで戦える能力じゃないよな。
ならば、小細工でも何でもいい……あいつを足止めする事が出来れば!
「――俺と来い少年……そうすれば、ジルにもその娘にも手は出さない」
「もう出してるだろっ!交渉の余地なんかないんだよっ……このイケメン!!」
ジルさんをそこまでボロボロにしておいて、手は出さないだと?
もう遅いんだよ……お前は誰かに命令されてやってんのかも知らねぇけどな、こっちだって腹が立ってんだ!
俺が狙い……?そんなの知るか!
それよりも俺は、お前が自分の家族を傷つけた事に腹が立ってんだ!
「――ふっ……まるで殿下のような事を言う……」
「――なにっ?」
なにキザに笑ってんだよ……余裕か?余裕なのか?
こんなガキには負ける訳ないって?
なら味合わせてやるよ……土の力……甘く見んじゃねぇ!!
だからさ、不意打ちとか言うなよ!?
「……はっ!!」
俺は男に手を翳して。
その足元に――【無限】を発動した。




