2-93【不死の姫1】
◇不死の姫1◇
やけに豪華な馬車の扉が開いた……いったい誰だ?出てくんのは。
ざわざわとする【ステラダ】の住民たち。
だけど、馬車からその人物が降り立った瞬間……あれだけ活気のあった【ステラダ】の街は、まるで誰もいないのではないかと思わせるほど、静寂に包まれたんだ。
「……あ、あれは……?」
「――シャーロット・エレノアール・リードンセルク……この国の、王女殿下だよ」
俺の小さな声の疑問に、ジルさんが教えてくれる。
やっぱり、王女さまか……それにしても、なんだよあの佇まい……まるで淑女のお手本のようだぞ。
まだ子供……だよな、俺と同じくらいか?
「――本当に、お元気になられたんだね……」
「え?」
ミーティアさんはやけに嬉しそうに、涙ぐんでいた。
お元気に……って事は、病気かなんかだったのかな。
それにしても、ミーティアさんが泣くほどか。
「よほど慕われているんですね……お姫さま」
「……さて、どうかな」
「――え?」
ジルさんは……ミーティアさんと打って変わった態度だった。
てっきり同じ感じだと思ったんだけど、予想外だ。
しかも……不思議なほどの静けさの中に、怒りのようなものを感じるのは……俺だけだろうか。
「ジルリーネ、滅多な事を言うものではないわ……王女殿下は不治の病から復活された奇跡の御方なのよ……?」
「……はい、すみません」
不治の病からの復活……?
確かに話を聞くだけなら、凄い話だと思うけど……それじゃあジルさんはなんで……あ、もしかして。
あのダークエルフが原因なのか?
「――なんで隠れたんですか?お姫さまなら、お見かけした方がいいのでは?」
ごめんな、ジルさん。
俺は意地悪を言ってる。
「……それは……すまない、行けないんだ」
ジルさんの顔は……まるで、苦虫を嚙み潰したようの表情だった。
「――あ、いや……すみません僕こそ、無神経でした」
そこまでの事なのか。
なら、これ以上の深入りはしない方がいいのかな?
「私、一目見てくるわね……」
「……はい、お嬢様。わたしはここで待っていますので……ミオも行ってくるといい。待っているからさ」
「は、はい……」
ミーティアさんは嬉しそうに、駆け足で先に行ってしまう。
俺は追うようにして向かうのだが、くそっ……ジルさんが気になるな。
◇
うおぉぉぉ……凄い人だっ!
さっきより多くなってやがるっ!
ここは満員電車かよ!!
「ミ……」
ミーティアさん、いた!――って!苦しいんだよおっさん!寄ってくんなぁ!
「……ミ、ミー……」
押されて苦しくて声がでねぇ!!
でも、ミーティアさんも気付いてくれた。
俺が伸ばした手を……取って、引っ張る。
「ご、ごめんねミオくん……私、夢中で……!」
こうなってくると、やはり身長差がデカい。
腕の長さも違うし、人ごみに紛れたら完全にアウトだ。
これでは……完璧に子供だな、俺が。
「は、はは……よかったです、迷子にならずに済んで」
俺がな!!
少しだけ開けた場所に出られた。
中央通り……流石に人が多いな、しかも国のお姫様が来てるなんて噂が広まれば、更に集まってくるんだろうな。
この場所に来れたのも、お姫様が居れば人が集まるだろうと計算されて、鎧の人たちが整理をしていてくれたおかげだった。
「あれは……騎士ですか?」
「そうよ。【リードンセルク王国】の騎士団……ね、シャーロット殿下の護衛でしょうけど……」
なるほど、交通整理みたいなことをしていたのか……正規の騎士団が。
だけどおかげで、いい所を確保できたな……子供の身体に感謝だ。
「……」
「わぁ……」
ミーティアさんは、優雅に歩くお姫様に目を輝かせている。
やっぱり……年頃の女の子だな、こういう所はさ。




