2-90【交易】
◇交易◇
ミーティアさん……結局、馬車の中では何も言わなかったな。
何か深い考え事があるんだろうか……そんな、苦しそうな顔だったから、俺も何も言えなくて。
居心地の悪そうにするそんな俺に、御車席に座るジルさんが、器用に小窓から教えてくれた。
「――昨日な、旦那様とお話をしたんだよ……」
「えっ?」
旦那様……父親か。
それで、ミーティアさんはこんなにも悩ましい顔を?
昨日の今日って事は……契約の事とかか?
「察してやってくれミオ。彼女も、まだ十五の子供なんだからな……」
いやいや、それを十二の俺に言いますか?
まぁでも……なにを言われたかは想像がつく。
「大事な契約ですもんね、失敗出来ない……ですから、お互いに」
契約をする側とされる側、その双方の息子、そして娘だ。
緊張もするってものだ。きっとそう。
「……やれやれ。はぁ……」
え?ジルさんにため息吐かれた?
◇
「ここは……この街の中央に位置する、交易所です……様々な町や村、他国の人たちまで、多岐に渡った沢山の方々が利用しているの……」
どうやら、ミーティアさんは気持ちを切り替えたんだろうな。
流石にしっかりしてるよ。
「へぇ……凄いなぁ」
もう圧巻だった。
中央通りと呼ばれるこの通りには、様々な店が建っていて、この交易所もその一角だ。
三階に及ぶ階層で、様々な種族の人たちが、その村や町の自慢の一品を持ち込み、売り出す為の交渉が……今ここで行われている訳だ。
もうさ、村では見れない光景だらけだよ。絶対。
「あれ?でも、ここは【クロスヴァーデン商会】の建物なんですか?」
そうだよな。だって国一番なんだろ?凄い建物だぞ?ここ。
俺が勝手にそう思い込もうとすると、ミーティアさんは笑顔で言う。
「いいえ……違うわ。ここは国が権利を持つ建物で、【クロスヴァーデン商会】の交渉は本店で行われるの。ここより大きいのよ?」
「ええっ!?」
マジか……すげぇな【クロスヴァーデン商会】。
国が主導の交易はこの場所で行われて、【クロスヴァーデン商会】は自分たちで出来るのか……そりゃあ儲かるわな。
でも、だからこそ【クロスヴァーデン商会】は信頼を得ているし、顧客も沢山集まるんだろう。
ここと契約が出来れば、国に利益を取られなくても済むし、国内外に売り出してもらえるんだろ?それって普通に怪物クラスだよな?
それを国にも許可して貰ってる【クロスヴァーデン商会】って……恐ろしいんだが。
「……じゃあ、父さんとレイン姉さんは、【クロスヴァーデン商会】の本店に?」
ごくりと……俺は喉を鳴らした。
その意味を、理解してしまって。
「ふふふ……じゃあ次は、外の商店をみましょうか?」
「あ、はいっ!」
商店!店だ店!
世界から集まる様々な物流を見れる!
好奇心が沸き立つってもんだよなぁぁぁぁ!!




