2-86【姉弟の夜2】
◇姉弟の夜2◇
ベッドに入る俺……そして隣には、レイン姉さんだ。
家だと当たり前で、普通の光景だけどさ……でも、ここは違う。
俺のもう反対側には、クラウ姉さんはいないんだからな。
「うふふ……」
はぁ~。そんなに嬉しそうにしちゃってさ……ギャップすげぇわ、この人。
俺とよく似た明るい金髪は、首元で束ねられていて、もうお姉さん!って感じだった。
近くで見ると……本当に美形だ。
寂しがりが噓かのような、神秘さえ感じるね。
「どうかな、これで寝られそう?」
「うん。ありがとうね、ミオ……」
この数日、どうやらレイン姉さんは殆ど寝ていなかったらしい。
流石に父さんに「一緒に寝て」とは言えなかったらしく、何とか我慢をしてきたらしいのだが、普段から隣で寝る俺が来たことで、我慢が出来なくなったのだとさ。
おと……弟冥利に尽きるって事よ。
別に、男冥利って言いそうになった訳じゃないぞ。
「……おやすみ、姉さん」
「うん、おやすみ……ミオ」
――すうぅ。すうぅ。
(寝た!?ははは……早いなぁ)
レイン姉さん、本当に寝ましたよ。ものの一瞬でな。
俺にはできない芸当だ……羨ましい。
俺は基本的に、寝る時に考え事をするタイプだ。
そのせいで寝付けない事もあるが、自然といつの間にか眠っている事の方が多い。
「……すぅ、すぅ……」
レイン姉さんはもう完全に寝息を立てている。
そっか……家族がいてくれれば、どこでも眠れるんだな。
まぁ、よかったよ。
さてと……俺は明日、ミーティアさんに街を案内して貰うんだよ。
でも、正直少しだけ不安だ。
普通に出来るかなってさ。
村でアイシアにああ言った手前、ミーティアさんを見る目も多少は違うからな。
前も言ったが、俺は……ミーティアさんを応援したいと思ったんだ。
綺麗だし、可愛いとも思う。
でも、それは恋ではない……と、思っていたんだが……自信もない。
夢を追いかける、未来を切り開く。
素晴らしい事だと思う。ミーティアさんはそれを目指しているんだ。
純粋にさ、それなら利用されてもいいと思ったんだよ。
だけど、ミーティアさんはどうやら違うようだ。
(俺を……本気で好き……なのだろうか)
や、やべぇ……自分で考えてて馬鹿らしくなってきた。
ありえないよな。前世から考えたら。
三十歳の魔法使いが、生まれ変わって――恋……だぞ?
ド田舎に転生して十二年……俺の異世界転生も、少しは始まったんだろうか。
でもって始まった先に、いったい何があるんだろうな……
「――うぅ~ん……ミぃオ~~~~」
「痛で!!」
ガシィッ――!!っと、レイン姉さんから首に腕を回された。
ぐ、苦しいぃ……けど……まぁ、今日はいいか。
この数日、父さんとレイン姉さんは頑張ったんだもんな。
弟として、甘えさせてあげるさ。
例え……俺がこの夜、寝られなかったとしてもな。
◇
【ステラダ】の北部にある、富裕層向けの区画……そこにある、一軒の豪邸。
そこは、【クロスヴァーデン商会】の会長、ダンドルフ・クロスヴァーデンの家だ。
つまりは、ミーティア・クロスヴァーデンの家でもある訳で。
「ふぅ~……はぁ~」
息を吸い、思い切り吐く。
緊張よ飛んでいけ~と、言い聞かせて。
そして意を決して。
コンコン――と、少女は扉をノックする。
「……失礼いたします。お父様……入ってもよろしいですか?」
「ああ。入りなさい」
扉を開けて、少女……ミーティアは入室する。
父、ダンドルフ・クロスヴァーデンと、話をする為に。




