2-81【イエシアス襲来1】
◇イエシアス襲来1◇
ミオたちが【月の猫亭】へ着き、宿を案内されている頃。
豊穣の村では、一人の少女があらぶっていた。
「――ふんっ!!」
バキッ――と、斧で薪を割る。
何とも言い難い表情で、だ。
「はぁ……私も行きたかったな、街」
弟が、自分よりも先に村を出た。
出たといっても、隣国の街に行っただけであり、正式に旅立ったわけではない。
だがしかし、それは自分が先だと思っていたのだ。
「……」
(私の目的は、同じ転生者である武邑君を探すこと……探して、どうして殺されたのかを……聞かなくちゃ)
彼女の名はクラウ・スクルーズ。
前世の名を――漆間星那と言う、監察医をしていた女性だった。
彼女はある日、見知らぬ女に殺されたのだ。
だがそれは、自分の高校時代の同級生……武邑澪を殺した犯人と、同一人物だったと直感している。
いや、確信しているのだ。
では……何故、彼は殺されたのか。
何故、自分は同じ女に殺されたのか。
それ以外にも、考えることは多くある。
この世界に転生してから、更に考える事が増えていて……頭が痛いのだ。
「――ふんっっ!!」
バキッ――バキッ――バキッ――!!カラカラカラーン……
山のように、次から次へと薪を割っていく。
もう、完全に八つ当たりである。
「――あらあら、少し見ない内に……乱暴になったわねぇ……星那?」
「――!!」
何の予備動作もなく、自分の背後に突如として現れたその存在。
だがクラウは、飛び退くこともなく、冷静に答える。
他の誰かがいないかを確認して。
「――前の名前で呼ばないでって……何度言えばわかるの?――【女神イエシアス】……」
女神――星那や澪を転生させた存在であり、どうやらこの世界とも大きく関わりのあるらしい……超常の存在だ。
クラウは問う、女神に。
「――ねぇイエシアス、この村の名前が……アイズレーンだって、知ってた?」
「当たり前じゃない」
「……この村、転生者はみんなこの村スタートなの?」
「それは違うわ……全てバラバラよ?」
クラウは疑う。
この女神、噓は言わないが本音も言わない気がするのだ。
「そんな顔しないの。私も……いろいろあるのよ。管轄って言うの?だから滅多に来ないでしょ?ここには」
「……そう、ね。確かにそうだわ……」
確かに。前回来たのも数年前だ。
この女神は……本当に突然、いきなりやって来るのだ。
◇
それで、なんでこの女神は突然やって来たのかしら……わざわざ私に嫌味を言う為?それとも……前に言っていた目的、が見つかったから?
「……で、何の用なの?」
「あらぁ?用がないと来ては駄目なの?」
そう、こういう所なのよ。とってもウザいの。
だから私も対抗するわ、本音で。
「駄目」
「うふふ……相変わらず酷い子ね……」
余裕よね、あなたは毎回毎回。
会うのは長くて数年、短くても数ヶ月に一度……それなのに、毎回私の心を乱す。
でも……それこそ人間と神なのだもの……当然なのかもしれないわね。




