2-80【月の猫亭】
◇月の猫亭◇
レイン姉さんの様子がおかしい……そう言ったよな?俺。
もう絶対にそうだと断言できる。
現在俺たちは、父さんとレイン姉さんが宿泊している宿に向かっているんだ。
ミーティアさんの案内でさ。
でもって姉さんがおかしい理由を説明しよう。
俺の隣には、絶対に離れないと言う固い意志を持ったレイン姉さんが、俺の腕を組んで引っ付いている。
迷子だったらしいから、怖かったのかな……と、思ってはいるんだが。
もうさ……ずっと離れようとしないんだよ、いったいどうしちゃったの?
「ここですよ。宿屋……【月の猫亭】」
ミーティアさんは機嫌よく、俺たちを案内してくれる。
……まぁ、初めてなのは俺だけなんだけどさ。
「すっごいですね……」
「でしょう?お姉ちゃんもね、この前はびっっくりしたの!お父さんなんか、腰ぬかしてたのよっ!?」
レイン姉さんも興奮気味だ。
腕痛てぇ。ギュッ――とされると、流石に痛いよレイン姉さん。
「そうなんだ……あはは」
想像が容易くつくなぁ。でも、それも父さんらしいや。
そんな俺が笑っていると、扉が開き。
「――あら。おかえりなさいミーお嬢様、その子が追加のお客人ですかぁ?」
「――!!……!?」
(なんだ……と……)
扉を開けて出て来たのは、メイド服の女性だった。
考えずとも、この宿の従業員だろう。
「こ、こんにちは……」
「いらっしゃーい。お客人……ようこそ【月の猫亭】へ。歓迎するよー」
だがな、俺が驚いているのは……ただメイドさんだからじゃない。
そうじゃないんだよ……俺が見るのは、彼女の……耳だよ。
そう、耳だ。
人間の耳じゃない、獣の耳……そうだ!ネコミミだよぉぉぉぉ!!
「ミオくん……この子はキディ。キディ・クレセントって言うの。この【月の猫亭】で働く従業員よ」
「キディだよー。よろしくね!」
バチン――!とウインク!
目も猫のような目だ。
「……よろしくお願いします、キディさん」
ふふふっ、はははははっ!
異世界って言ったら――獣人だろ!
エルフがいるって分かった時、俺は内心で思っていたんだよ!
ネコミミさん来ねぇかなってなぁぁぁぁ!!
はい?幼馴染とお嬢様?
おいおいおい、違うだろ?……なにを言ってんだよお前ら!
恋と趣味は――違う!!断じて違うんだからな!
冷静になれって?
お、おう……分かってる。冷静さ……ふぅ。
という訳で……実はそんなにネコミミスキーじゃないんだよな。
初めてのものに興奮してしまったんだ……恥ずかしい。
「ミオくん……?」
ミーティアさんが心配してくれている。
すんません……邪念で。
「あ、すみません……その、初めてだったので」
俺の言葉に、キディさんが言う。
「あー、そうなの?お客人、獣人は初めてなんだねぇ?」
語尾が上がるキディさん。
「すみません……し、失礼をしましたか?」
「――あはは、気にしてないよー。可愛いねー!」
前世の俺で言えば……ギャルっぽい金髪とネコミミに、露出の多いメイド服だ。背中がら空きでまる見えだぞ?
更には軽めの口調と、少々焼けた肌……これはあれだな……童貞に優しいギャルだわ……うん。間違いないな。




