2-71【話をしようか】
◇話をしようか◇
幼馴染……アイシア・ロクッサ。
確か初めて会ったのは、四歳の時だったかな。
畑で遊んでいたら、突然紹介されたんだ……父さんに。
あの時は、ただ「仲良くしなさい」って言われて、言われるがままに仲良くしてた。村では数少ない、同世代の友達としてだ。
そして……許嫁。いつからだったのだろう。
俺は、何も知らなかったな。親同士が決めた事?恐らくそうなんだろう……でもさ、アイシアのこの数年の俺への接し方……それはきっと、恋だったんだろうなと、思えるんだ。
アイシアは本気で俺を好きでいてくれたんだ。
何年も、一途に……どれだけ邪険にされても、俺にくっついて、離れないで。
最低だけどさ、言われてはじめて気付いたんだ。
彼女が……女の子であると。異性であると。
幼馴染でも、立派な女の子だ。
だから俺は、彼女の一途な数年に……向き合わなければいけない。
◇
時刻は夕方。
訓練を終えてへとへとだったクラウ姉さんと、余裕で母さんの手伝いを始めたジルリーネさんを残して、家を出た。
そして向かう先は、村の南方……村長の家よりも更に南で、村内では遠い位置にある家。
ロクッサ家だ。
「こんばんは……リュナおばさん」
「あら?ミオくんじゃないっ……どうしたのこんな時間に?」
忙しそうにするアイシアの母、リュナさん。
父さんの元カノ……と言う事が無ければ、もっと接しやすいんだけどな。マジで。
「えっと……アイシアに会いに来たんですけど、いますか?」
「あ~そうなの……う~ん、今は……畑かしらねぇ?裏にいるかもしれないわよ?」
家の畑か……やべぇ、なんか緊張してきた。
「分かりました。行ってみます」
「はいは~い、ごゆっくりね~」
ゆっくり……出来るかな?
心臓バクバクいってるけど。
ロクッサ家の裏庭、少し控えめな畑。
そこに……いた。アイシアだ。
オレンジ色の髪が夕日と相まって、まるで輝いているようだった。
「――アイシア」
「……!――あ、ミオっ!?」
振り向いた瞬間に、眩しい笑顔で。
俺に花のような笑顔を向けてくれた。
「……や。元気かい?」
少しよそよそしかったかも知れない。
本当にダメだな……こう言った行動をとるのはさ、前世から継続して苦手なんだよ。
「あはは、何それ、集会所で会ったじゃない」
うん。そうだね……ミーティアさんを凄い顔で見てたからね。
その時とは、まるで別人のような笑顔だよ……まったく。
「そ、そうだね」
やっばいなぁ……言葉がスラスラと出てくれない。
俺はなにを言ったらいいんだ?
農作業を一段落させたアイシアは、一息吐くと。
「……ふぅ。で、どうしたの?こんな時間に。そういえば今日は学校、来なかったけど……ガルちゃんも心配してたよ?」
ガルスも心配してくれてたのか。
ありがたい……が、今はそれどころではない。
「あーっと……ほぼ仮病、かな?」
「え~~。ズルいよ~」
考える間もなく、俺は普通に答えていたよ……素直な気持ちでさ。
それを、彼女は笑って返答してくれた。
よく考えれば、今までも……そうだったんだよな。
この子は、ずっとそうやって接してくれていたんだ。
「……アイシア」
「ん?」
片付けをしていたアイシアだったが、俺が言葉を発するたび、わざわざ作業を止めて俺を向いてくれるアイシア。
それを、前みたいに「初めから見ておけ」とは言えないよな。
もう、俺はそれが出来ない。
向き合おう……アイシアと。
「アイシア……話を、しようか」
「……うん」
その短い返事だけで……多分俺が言いたい事が、アイシアには分かったのかもしれない。




