2-50【食べて見てください】
◇食べて見てください◇
アイシアが、苦戦しながらも何とか果実――アボカドを切り終えた。
しかし、種はボロボロになり皮はぐちゃぐちゃ、当然……中身もぐちゃぐちゃだ。
何より、この果実……アボカドは熟れた時こそ美味い。
まぁ人にもよるけど、切り方を間違えなければ見た目も綺麗に出来るはずだ。
「――た、食べて見て……?」
「え、僕が……?」
俺は食べなくても、味は知ってるけど。
まさかここまで見た目が一緒なのに、味が違うって事があるか?
「お願いします」
「わ、分かった……」
俺は不気味なものを食べるふりをして、アボカドを口に運ぶ。
「……あむ」
「ど、どう……ミオ?」
うんめぇ……ナニコレ。
前世で食べた時と全然違う……まろやかなのは勿論、とにかく甘い。臭みもまったく無くて……非常に新鮮だと思える。
そう言えば、アボカドって食べるまでの手順これでいいのか?
なんだか全部を無視している気もして気が引けるが……これも能力の賜物か。
「うん!美味しい……美味しいよ、アイシアもほらっ、食べてみて」
俺はこの美味い食い物を、とにかく食わせてあげたくなった。
何も考えずに、一つまみして……アイシアに差し出す。
「……え」
ん?どうしたアイシア……?いらないのか?
日本では女子に大人気だったんだぞ。食べてみ?ほれ、ほれっ。
「ほら、あ~ん」
「えっ……え、あっ、あ~~~~ん!」
どうしたんだよ、顔真っ赤だぞ。気合入れ過ぎだって。
そんなにしなくてもアボカドは逃げないさ、なんたってこんなにあるんだからな。
俺はアイシアの小さな口に、切り身を入れてやる。
そこで気が付いた……俺、何やってんだと。
自分の指にアイシアの唇が触れて初めて……唇に触ったんだと……気付いたんだ。
「……ど、どうだい……?」
平常心平常心平常心平常心平常心平常心!!
冷静を装え!心を乱すな!アイシアは幼馴染、アイシアは幼馴染!!
元来、幼馴染属性のない俺は、必死に言い聞かせて煩悩を取り払う。
「――お、美味しいぃ……とろけて……ふわふわっ!」
顔の真っ赤なアイシア。
それでも、初めて食べたアボカドは恥ずかしさ以上に美味しかったようで。
見惚れそうになるほどの満面の笑みだった。
「――か……あ!じゃあ、少しだけど……これを持って行こうか」
あっぶねぇ……可愛いって口に出すところだったじゃねぇか!
「うん!そうだね、皆に食べて貰おうよっ!大発見だよって、きっとおじさんもママも喜ぶよっ」
流石農家の娘だな。
俺の父さんと、自分の母親にも食わせる事を先決した。
もうさ、俺は分かんなくなりそうだよ……お前が天然なのか、計算なのかがさ。




