２－１８【私のヒーロー】
◇私のヒーロー◇
村の東に位置する、集会場。
客間と呼べるかは分からないが、それでも数人は横になれる程のスペースで、三人の元・奴隷たちが休んでいた。
一人は、久々の自由に安堵して、既に眠りそうになっている男。
もう一人は窓から遠く(おそらく北)を見て、故郷を思っているのか……静かに夜空を眺めている女性。
そしてもう一人……二人と同じく、【リードンセルク王国】出身の少女。
青い髪に青い瞳。スラリとした四肢に大きな胸。
きめ細やかな肌は、到底奴隷には思えないものだった。
彼女の名は――ミーティア。ミーティア・クロスヴァーデン。
【リードンセルク王国】の大商人、ダンドルフ・クロスヴァーデンの娘である。
詰まる所、ミーティアは富豪の娘と言う訳だ。
友達のグループで遊びに出かけていた所を、【テゲル】の敗残兵に攫われ、運悪く自分だけが奴隷とされたのだった。
仮にも国を代表する大商人の娘だ。きっとお国では大騒ぎだろうが、知った事ではない。ミーティア自身が商人と言うわけではないのだから。
友達関係だって、父ダンドルフの商人仲間たちの娘であり……信頼関係ではない。
だから、ミーティアは探していたのだ。
自分自身で選べる道……その導を。
◇
「ねぇ……」
奴隷とされていたもう一人の女性が、私に話しかけてくる。
先程まではあれだけ覇気が無く、全てを諦めていたような女性だ。
それがどうだろう……ニッコニコ。この笑顔だもの。
そんな笑顔で話しかけてくる女性に、正直私は余り好感が持てなかった。
「……なんですか？」
「あたしはジュン。ジュン・ジョルラフって言うの」
「はぁ……私は、ミーティアです」
奴隷になって結構経つけれど、今更自己紹介？
反射的に答えてしまったけれど……家名は伏せた。まだ冷静ね。
「あたし、全部諦めてたのよ……もう死ぬか、【テゲル】の男たちの慰み者になるしかないな……ってさ」
それは……実際、私だってそうだった。
考えない訳がない……だが幸いなことに彼らは、性的な要求はしてこなかった。
まだだったのだろうが、早めの救出があってくれたおかげで、最悪な思いをしなくても済んだのだ。
「でもさでもさ、こ～んなド田舎の村に……あんな子がいるなんて思わないわよね。あたしを助けてくれたあの金髪の子……顔もいいし、将来が期待できそうだわ……」
あたしを？せめて、たちを付けてよ。
「はぁ……」
もう、うんざりだわ……全てを諦めていたんじゃないの？
なんで急に女を出して……って、私も人の事は言えないわね。
でも、私とこの人では決定的に違う。
私は、ようやく見つけたんだ……私が、私の為に。
私の人生を捧げてもいいと……思える人に。
私の――ヒーローに。
