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「ファンタジーで使える」シリーズ

内政物ファンタジーで使える、色んな「承継法」について考えてみた【性別、順位、宗教】

今回はかなり自己満&マニアックです!

ザックリ3パートに分けます:性別、順位、宗教

 王位継承権!否、「承継法」。ちょっとダークな、陰謀渦巻く王宮…的な内政ストーリーには欠かせないキーワードです。


 かくいう作者も、それ系統のストーリーを十代半ばの時に書きました(黒歴史暴露)。しかし、そういったストーリーにリアリティを出すには、やはり作中に置ける「継承権」について明確な法律ルールが必要です。


 本サイトをザっと見る限り、大半のストーリーは「王位は第一王子が継ぐ!」みたいな、男系男子継承制、もしくは男系・女系順の長子相続を採用しています。確かにこれは、とてもメジャーです。しかし、歴史は長く、世界は広い。「承継法」も、実はまだまだ沢山あるのを知っていますか?


 本作は、承継法における「性別」「順位」「宗教」をザックリ見ていきます。

 貴方の内政ファンタジーにピッタリな、承継法を探しましょう!


✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏


 第一に話すのは、「性別」に関する承継法です。


 男が継ぐべきか、女が継ぐべきか。血を尊ぶべきか、性別を尊ぶべきか…。現代ではあまり縁の無い悩みですが、貴方のファンタジー世界の住民には、思いっきり悩ませましょう。


 以下が性別に関する継承制の(多分)全パターンです。和訳が間違っていたら、感想欄にて指摘して頂けると幸いです(念の為英語名称も書いておきます)。



 【男系男子継承制・別名サリカ法典(Absolute Agnatic/Salic Law)】

 解り易く、男系男子のみが継承できる場合です。例えどんなに血が薄まっていようと、地位を継げるのは男系直系の男子のみ、女子は論外という場合です。例え候補はいなくとも、地位は女子に回る事は無い。女系の男子も基本、論外です。



 【女系女子継承制(Absolute Enatic)】

 上と同じ、ただし、性別逆バージョンです。



 【男系・女系継承制・別名セミ・サリカ法典(Agnatic - Cognatic/Semi-Salic Law)】

 最も多いパターン。基本男児が継ぐが、相応しい男系男子の候補がいない場合、女子に継承権が回る。基本、男系男子→男系女子→女系男子→女系女子の順に、優先順位が定められている。


 例えば長子相続の場合、Aの爵位はAの息子達の中で、長男から歳の順に回る事になります。Aの息子達に子供がいない場合、次に爵位が回るのは、長女から歳の順になります。しかし、例外として、例えば長女には息子がいないけれど、次女にはいる、等という状況なら、次女、長女の継承順になる事があります。


 また、Aの長男に娘が一人いた場合(A孫娘)、順位が長男、A孫娘、次男…となる可能性もあります(この辺りの細かいルールは各自で設定して下さい)。



 【女系・男系継承制(Enatic - Cogantic)】

 上に同じく、しかし性別逆バージョン。基本、女系女子→女系男子→男系女子→男系男子の順に、優先順位が定められている。



 【絶対的継承制(Absolute Cognatic)】

 継承権順において、性別は全く関係無い場合。現イギリス王家等です。



 世界では男系相続の方が確かに圧倒的に多いですが、女系相続も勿論存在します。女系女子相続の有名な例としては南アフリカ、バロベドゥの女王、「雨の女王」や、インドネシアのミナンカバウ族ですね(因みにミナンカバウの建築物はめちゃくちゃメルヘンなので、是非ググって見て下さい)。


 また、古代スパルタでは、政治や宗教的立場は男系男子相続だったのに対し、財産や事業は女系女子相続だったともされています。一方、女系男子相続の例には、ピクト人が挙げられます(父から息子ではなく、男兄弟や女兄弟の息子(甥)に継承権が渡る場合です)。


 また、ネイティブアメリカンの中にも、かなりの数の母系制が確認されています。私は残念ながらあまり詳しく無いので、興味があれば、是非調べて下さい(ホピ族、チェロキー族、チョクトー族、レナペ族、等を含みます)!




 次に話すのは、「順位」に関する承継法です!

 今回はシンプルに、「王族・貴族」の承継法に使えそうな物の中で、有名どころ&使い易そうなのを激選して、七つです。史実を探せばもっとありますが…それは各自やって下さい!

 これらを元にオリジナル承継法も、どんどん作ろう!



 【長子相続(Primogeniture)】

 定番&王道!王様の子供たちの中から歳の順に選ばれる場合です。冒頭の「王位は第一王子が継ぐ!」が正にこれですね。王が死んだ時点で、その地位も財産も全て一番上の子に行きます。権力も力も次世代で分散される心配がありません。


 次男以降は、宗教なり、軍なり、(犯罪なり)で身を立てていく事が多かったそうです(最も、「長男以外にも地位が与えられる」余裕があるのは、時によっては一種のステータスだったりもしました)。


 何と言っても解り易く、定着するのも解ります。うん。特に説明する必要ないね。


 が、長子相続にデメリットを挙げるなら、長男の成人と同時に、在位中の王から嫡男に、権力が移ろいやすくなる事がしばしばある事です。後普通に、次男以降がそんなの気に食わないよね!と言う訳で、いざこざはそれなりにある事は多いです。



 【分割相続(Gavelkind)】

 兄弟のいらっしゃる方に問います。子供の頃、飲み物や食べ物を、超均等に分けなければ、喧嘩に発展する…何て事、ありませんでした?まあこれは、それのもっとヤバいバージョンに発展しかねない承継法です。

 この承継法順位を決めず、兄弟で分ける場合です。世代を重ねるごとに富も地位も減り、なまじ兄弟内でお互いの領地や地位に権利があるものだから、戦争に発展しかねない。作者も、趣味である中世歴史シミュレーションゲームで、分割相続が原因の戦争が何度もありました。

 …ストーリー展開としては良さげですね!(暗黒微笑)



 【末子相続(Ultimogeniture)】

 意外や意外?そうでもない!下の順に継ぐ、末っ子に優しい承継法。グリム童話ではお馴染みですね!


 コンセプトとしては、上の子は世間で生きる術を身に着けられる時間があるのに反し、下の子はその分の時間とチャンスが少ないから、せめて土地や地位を与える、というものです。


 メリットとしては、長子相続で述べた問題点、「長男の成人と同時に、在位中の王から嫡男に、権力が移ろいやすくなる事がしばしばある」がほぼ無いに等しい事です。先ず、末っ子は当然ながらに成人するのが一番後回し、それと新しい「末っ子」が出来ないとは限らないからです。在位中の王からは良い事尽くし。が、当然デメリットとしては、幼子が家督を継ぐ危険が極めて高い事です。あとまあ、末っ子ちゃんが危ないですね。当然、お兄(姉)ちゃん達はそんなの気に食いません。歳のハンデがある分、長子相続における長男・長女より危ないです。


 史実の例としては、ザクセン=アルテンブルク公領は末子相続だったと言われています。



 【年功相続(Seniority *オリジナル和訳です。公式の訳が見つかりませんでした。ご存じの方は、コメントで指摘して頂けると幸いです)】

 亀の甲より年の功?名前そのまま、王の直系である一族の中から、歳の順で選ぶ場合です。


 亜種である承継法には、ロタ・システム等があります。メリットは少年王の可能性が低く成る事…デメリットは、逆にかなりの高齢者が即位する可能性がある事です。



 【選挙君主制(Elecive monarchy)】

 意味は名前のまま、王を選挙で決める事です。多くの場合、候補は特定の一族に限らず、複数の家から出ます。最初は選挙君主制だったけど、次第に世襲制に移る事もしばしば。神聖ローマ帝国で、ハプスブルク家から皇帝が選ばれ続けていた(1440年~1740年)故に、実質非公式な世襲制だったのが、良い例です(余談ですが、神聖ローマ帝位国の君主を投票できる者は、選帝侯(Prince-electors)とよばれていました)。



 【タニストリー(Tanistry)】

 個人的なお気に入り。王の在位中に、世継ぎ、若しくは副王を決める場合。これが「タニスト」です。王家の一族の全員の中(史実では男児のみ)、もしくはロイダムナ(Roydammna・意味は「王の素質がある者」)と呼ばれる候補の中から、現王と家臣が決めるという形を取ります。こうする事で、能力があり、心身ともに立派な、それでいて大半の支持を得たメンバーが次期指導者として選ばれる、という訳です。


 しかし、これにも弱点はあります。まず第一に、世継ぎの支持が高ければ、逆に在位中の王の権力が脅かされます。それと、一族の数が多ければ、誰もが権利ある故に、陰謀や内戦に発展しても、不思議ではありません。


 貴方の作品では、これを防ぐ為の追加ルールを加えるも良し、それか敢えてこのままドロドロ展開に持ち込んでも、面白そうです。


 …え?選挙君主制と似ている?というかただの亜種?……いえ、全然別物ですよ…(¬д¬;)



 【血縁の濃さ(Proximity of blood*和訳が見つかりませんでした…)】

 血筋の濃さによって、次の長を決める場合です。これがメインの承継法として採用されている例は、個人的には知りません。が、特に長子相続等に置いて、解り易い候補がいない場合に使われる事があります。


 例:先々々王の孫二人(どちらも王族直系の従妹婚)の間で生まれた候補A(先々々王のひ孫)は、異国の令嬢と結婚した先々々王の息子の孫である候補B(同じく先々々王のひ孫)より王家の血が濃いので、次期王に選ばれた。




 最後は宗教です。


 間違った場所で “間違った宗教” を信仰するのは、大変危険です。ええ、特に史実をみれば、そんなの嫌でも解りますが。そしてそれが少なからず誰かの継承権に関わってくる事も、しばしばあります。特定の信仰者は継承権を無くす事も、勿論ありました。


 今回例に挙げるのは、1703年、アン女王在位中のアイルランドです。影響力のある人をプロテスタントで固める為の政策として、以下の法案が下されました。


「カトリックが死んだ時、富や土地は、カトリックの息子達に分割される物とする。ただし、息子の何れか一人でもプロテスタントなら、全ての財産はその者に行く事にする。プロテスタントの息子が複数いた際、プロテスタントの中から長子相続を採用するものとする」


 うーん…想像するだけで嫌な状況ですが、創作には使えそうです。折角なので、「宗教」も承継法の要素に加えるのはどうでしょうか?




 〆は、史実の面白い例です!思い付いたら加えていきます。


 【長子相続vs年功相続!?ブリタニ―公アーサーvsジョン王】


 獅子心王リチャードの跡を継いだのはジョン王として有名ですが、彼には兄(リチャードからは弟)ジェフリーがいました。ジェフェリーはリチャード崩御の時点では既に亡くなっていましたが、面倒な事に息子、アーサーがいました。ジョン王は一応リチャード王の指名であったものの、長子相続でいくならアーサーです(両者の細かい主張は各自で調べて下さい…ちょっと説明が面倒なので)。


 要約すると、最終的にアーサーは、ジョンの軍政に捕まり、幽閉され、消息不明になります(暗殺されたとの説あり)。



 【血の濃さvs長子相続!?ブルース家vsベイリャル家】


 スコットランド女王、マーガレットが七歳で崩御すると同時に次々と名乗り上げる13人の王位請求者。その中の最有力候補がジョン・ベイリャルとロバート・デ・ブルースでした。片やデイヴィッド一世の三男の長女の孫(長子相続権を主張)、片やデイヴィッド一世の三男の次女の子供(血の濃さを主張)。勝った(と言っていいのか…)のはジョン・ベイリャル。



 【困った時は、全部使おう!ロバート・ブルース】


 ♔「タニストリーと年功相続と、ピクト系の女系男子相続の名において、次期王は俺である!」


 スコットランドの解放者、ロバート一世は、先程述べたロバート・デ・ブルースの孫だった訳ですが、それはつまり、長子相続は微妙に都合悪いという事。ピクト系の女系男子相続とタニストリーと年功相続のトリプル要素で、自身の立場を正当化しました。




 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!貴方のお気に入りの承継法は何でしたか?


 地域や時代、情勢や文化で大分変ってくる承継法。貴方のファンタジーにピッタリな物が見つかれば幸いです!


今後のエッセイにも書きたいものが色々あるのですが、今一つ決めきれません。今の所ブラブラと同時進行で幾つか書いているものの、これでは効率が悪いので、皆さんの意見を聞きたいです。次読むならどれが良いですか?



・ファンタジーで使える、宗教界に置ける、指導者の決め方


・ファンタジーにおける、宗教について考えてみた

(上のと一緒にしても良いかもしれません)


・ファンタジーにおける、「帝国」について考えてみた~成り立ち、維持、そして崩壊~


・「中世ヨーロッパ風の街並み」だと!?もうちょっと具体的に(する方法)!~中世ヨーロッパの建築史

(多分超長くなると思う)


・「中世ヨーロッパ風の街並み」だと!?それは近世だ!~近世ヨーロッパの建築史~

(多分超長くなると思う)


・ケンブリッジ大学を記念受験した時の話

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― 新着の感想 ―
 先日、浜本隆志『シンデレラの謎』(河出書房新社)を読んでいて、女系女子継承制のバリエーションを発見したので置いておきます。  女子が王位の血を継承するのですが、女王になるのではなく、その配偶者が王に…
[一言]  日本は末子相続だったみたいですね。  オオクニヌシがそれをあらわしている説を読んだ覚えがあります。
[一言] 中国の清朝は皇帝の遺言による指名制だったみたいですね。 だから皇帝が死んで遺言が公開されるまで誰が後継者になるかわからなかったとか。
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