1番の笑顔
「俺は、今すぐにでもアミィと結婚したいんだ!結婚したくないわけないじゃないか!」
「っ……………」
泣いているわたくしを、セオドア様は珍しく荒っぽく抱き締めてきた。一人称も俺、と言っている。本心だと信じたい。けれど……………不安は、まだ消えなくて。
アミィールは涙を何度も拭いながら、下を向いて聞く。
「では、なぜ………………こんな所で、お待ちでしたの?なぜ、言いづらそうにしていらっしゃったのですか…………?」
「それは……、俺が、不甲斐ないだけで……アミィに、渡したいものがあるんだけれど、言えなくて……」
「渡したい、もの?」
たどたどしくも紡がれる言葉に、アミィールは泣きながら反応して、やっと顔を上げた。
黄金色の瞳が濡れている。美しい顔が、涙を沢山含んでいる。…………こんなに不安にさせてしまったのか、俺は。
ここまで、アミィール様の中で俺は愛されているんだ。そう考えると、俺も嬉しくて泣きたくなった。
でも。
それではまたアミィール様を不安にさせてしまう。今は泣かない。後から泣く。それよりも…………彼女の笑顔を、見たいんだ。
「レイ」
「は」
俺は1度アミィール様から離れてレイに預けた"ある物"を手に取り、不思議そうな顔をしているアミィール様に差し出した。
「……これを、貴方へプレゼントしたかっただけです」
____貴方の笑顔を見るために。
* * *
「………………?」
セオドア様は真剣な顔でわたくしにピンク色の、赤いリボンで括った大きな袋を差し出した。
わたくしはおそるおそる受け取る。
なんでしょう……?軽いもの、だけど、大きい……?
不思議そうにまじまじ見るアミィールに、セオドアはほんのり顔を赤くしながら『開けてみてくれ』と小さな声で言った。
アミィールはリボンを不器用な手つきで何とか解き、袋を取った。すると______
「これ………………………ドレス?」
袋に入っていたのは、白いドレスだった。綺麗な白で、レースやリボンが要所要所に飾られている。でも、それだけじゃない。
「……………わあ……………!」
少し角度を変えれば、白色が群青色に見えたり、また別の角度にしたら緑色にも見えたりする、不思議なドレスだった。他にも、サクリファイス大帝国の鉱山のみで取れる紅銀の宝石_サクリファイス大帝国では女神の涙と呼ばれている_がついた銀色のティアラ、白いベールが入っている。
とても綺麗な、触り心地もいい可愛いドレスと装飾品。自分が着たくても、男勝りな性格と評価で着れないと思ってしまうような可愛いドレスに思わず見蕩れる。
凄く可愛い……………でも、これって…………?
目を見開いて見蕩れているアミィールに、セオドアは誤魔化すように言葉を並べる。
「えと、………男手で作った代物だけど、………アミィの、ドレスを………あげたくて。
結婚の儀で着れるドレス、………あ、だけど、決まったものがあるなら無理にではなく………う、受け取ってくれるだけで……………」
「……………………」
無言。無言が怖い。
ガロ様すみません!アドバイスしてもらったけど目は見れません!あげるので俺は精一杯です!うわぁぁぁぁ無反応!怖い!俺やっぱ重いよな!可笑しいよな!?よし!気を取り直していっぺん死のう!死んで男前に___「セオ、様」………?
鼻声で、いつもの凛々しさを感じさせないか細い声。目の前にいるのがアミィール様なのか心配になって、顔をあげると_____
「わたくし、こんなに、こんなに嬉しいプレゼントは………
___生まれて、初めてです」
「_____ッ」
_____今まで見てきた笑顔はどれも好きだ。笑顔でなくても、どんなお顔でも好きだ。
けど。
こんなに_______泣いているのに、それでも幸せそうに優しく浮かべられた笑顔が、とても愛おしく感じたのは、初めてだった。