主人公の頭はドレスだらけ
「ううん、…………」
セオドアは沢山の白いドレスを見ながら、悩んでいる。浮かんだデザインをあらかた作ったけれど、アミィール様の趣味がわからないのだ。
確かに、アミィール様は女性でドレスを着る機会は多い。けれど、エンダーに聞いたところ全て『わたくしを含めた侍女に全てを任せている』らしい。つまり、ドレスの好みはほとんどないのだ。
アミィール様は俺の前では必ずドレスを着てくれているけれど、執務の時間は俺がいない限り男装だ。それはもう俺よりも似合うレベルの男装で、軽く嫉妬するほどだ。
……いや、それは置いといて。とにかく、ドレスへの執着は皆無だ。でも、アミィール様は何度も言うがお美しい。凛々しいし格好いいけれど、女性らしいお体をしている。スタイルもいい。フリルのついたドレスも、レースのついたドレスも、リボンを沢山着けたドレスも全部似合う。断言出来る。
だからこそ悩むのだ。
……結婚の儀用のドレスを勝手に作っているけれど、もしかしたらサクリファイス大帝国伝統のドレスを着なければならないかもしれない。それならそれでドレスは別の時に着てもらいたい。
ここまで率先してプレゼントを贈りたいと思うのは我ながら珍しい。……それだけ、アミィール様の事が好きだ、と思うと恥ずかしいけれど……嬉しかったりする。
俺は本当、乙女だなあ……………。
そんなことを思いながら、群青色のリボンをふんだんに使ったドレスと、真っ白なレースのドレスを手に持って俺の執事・レイを見る。
「レイ!これとこれ、どっちがいいと思う!?結婚の儀で群青色を使うのはおかしいかな!?結婚の儀でレースばかりのドレスを着たら美しいお身体が透けて他の人にアミィール様の身体を見られてしまうかな!?」
「……どっちでも似合うと思うし、アミィール様は喜ぶと思うぞ?」
「テキトー言うなよ!私は真剣に聞いているんだ!」
ギャン、と吠える主人に、呆れかえる執事は大きな溜め息をついた。
きっとアミィール様ならお前からドレスを貰ったというだけで舞い上がり、何がなんでも結婚の儀で着るし、そしてそれを家宝として大事に仕舞われるだろう。
それを全く分かっておらず、真剣にどれがいいのか悩むセオドアはすっかり乙女のそれである。貴族の男以前に男はこんなことしないだろうな……
そんなことを言えないくらい本気で試行錯誤をし、部屋中にドレスの山を築いている。それを片付けるのを手伝う未来まで見える。
……とはいえ、どれも職人を超えた出来前である。オーソドックスから突出したものまで幅広いし、見栄えも可愛いものばかり。乙女心もここまでくれば凄い。
後であげなかったドレスを貰おう。そして女を口説こう。
そう決めたレイは未だに悩むセオドアを他所に悪い笑みを浮かべたのだった。
* * *
庭園にて。
「はあ~……………………」
結婚の儀まであと10日となった。
けれど、セオドアの顔は暗い。何故なら、アミィールへのドレスを未だに決められずに居るからだ。
あれも似合う、これも似合う、こんなのも着て欲しい、………こう脱線してミシンを高速で動かし、それでまた悩むを繰り返す。
……………俺は馬鹿なのかもしれないな。
いや、きっと馬鹿なのだろう。
けれど、アミィール様には喜んで欲しいのだ。それだけではなく、自分が作った可愛いドレスを着て笑うアミィール様を純粋に見たい。自分の作ったドレスを着たら、もっともっと独占欲が満たされるだろう。
「セオドア様、その花、いつまでお水をお与えになるのですか?」
「え?…………はっ!」
庭師に言われて我に返る。
五分以上同じ花に水をあげていた。これでは逆に花が弱ってしまう……!
「す、すみません!」
「いえいえ!頭を下げないでください!こんなお姿をさせているのを見られたら、私の首が飛んでしまいます!」
そう慌てて俺に言う庭師に、『ちょっと他のところの花にも水をあげてきます!』と言い残して逃げるようにその場を後にする。
うわぁぁぁぁ、思考がドレスのことだけになってる!恥ずかしい、恥ずかしすぎるぞ!俺!
真っ赤になりながら無我夢中に走る。無心だ、心を無に____
「いっ!?」
そんなことを思いながら走っていたら足に何かが引っかかって、その場に倒れた。とても痛い。一体何が……って、なんだこれ?
セオドアは顔を抑えながら、足元を見る。そこには____草木に紛れて、鉄の取手らしき物があった。




