表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/470

皇女は隠す

 








 「…………………………ふう」





 アミィールは一人、テラスから空を見上げていた。セオドアは父・セシルと居る。2人で話したい、と言っていたから席を外したのだ。



 ………………星は、サクリファイス大帝国と変わらず綺麗だ。




 セオドア様と早く結婚したい。

 それは確かだ。変わらない。



 でも。



 不安が無いわけじゃない。

 だって、わたくしは____………



 「アミィール様」



 「……………あ」



 不意に呼ばれ、振り返るとセオドア様の兄・セフィア様が居た。結婚したら兄になる人だ。



 アミィールはすぐに礼をする。しかし、セフィアは『頭など下げないでください』と軽い調子で言った。



 「むしろ、身分的に頭を下げるべきは私だ」



 「いいえ。兄になっていただくのですもの、母ではありませんが、家族です。


 身分など関係ありませんわ」




 事実である。

 …………わたくしには兄弟が居ないから、すごく新鮮。このセオドア様によく似た兄ができるなど、幸せだ。




 「是非、身分など忘れて話しかけて欲しいです。………そちらの方が、わたくしは嬉しいです」




 「…………そうか。では、遠慮なく。



 なあ、アミィール様、……………セオドアに、言ったのか?"龍神"のこと」




 「…………ッ」




 アミィールはその言葉に怯む。

 …………多分、わたくしとセオドア様が居ない時に、"龍神と結婚するという意味"を聞いたのだろう。家族に言う、とは前もって聞いていた。



 ぎゅ、と手摺を握る。

 セフィアはそれをちゃんと見ていた。





 …………これは、言ってないんだろうな。

 先程、サクリファイス大帝国皇妃、アルティア様から龍神との結婚について聞いた。端的に言うと"セオドアが傷つくことは一切ない"ということだ。



 子供も生まれるし、基本的には問題は無い。



 ただ____この、まだ幼げの残る美しい少女は、違う。



 「……………………言わないのか?」




 「………………ええ。言いません。



 言えない、と言った方が正しいでしょうか?」




 アミィールは力なく笑う。セフィアはそんな儚げな少女を抱き締めたい気持ちに駆られる。…………けど、それは私の役目ではない。




 「_____セオが聞いたら、悲しむだろうな。きっと首を突っ込む。


 ああ見えて、無鉄砲だから」



 「そんな気が…………します。でも、だから言わないという訳では無いのです」




 そう言ってアミィールはくるり、と背を向けた。月明かりを浴びた紅銀の長髪がサラサラと揺れる。




 アミィールは月を見上げながら、呟くように言った。




 「わたくし____セオ様、セオドア様が大好きです。愛していて、………どうしようもないくらい愛おしいのです。


 きっと、セオドア様が知ったらどうにかしようと奮闘してくださるでしょう。それは嬉しいです。けど………………あんなにお優しい人を、悲しませたくないんです。



 _____わたくしの身体のことを知って、あの方が泣くのは耐えられない。



 だから、わたくしは……………"呪い"や"代償"と、"自分一人"で戦う道を喜んで選びます。



 好きな人には、…………………」




 アミィールはそこまで言って、首だけをセフィアに向けて、笑った。




 「____綺麗なところしか、見せたくありません」




 「………………ッ」





 強くて哀しそうな顔に、セフィアは顔を顰めた。あまりに悲しすぎる選択だ。セオドアが知ったら泣くだろう。…………けど、それを選んだ彼女の決意を踏みにじってはならない。



 セフィアはそう考えて、目を細めて笑う。




 「______噂通り、貴方は強いな」




 「そんなことないです。………………可愛くない女なだけです」





 アミィールはそれだけ言って、部屋に戻っていく。

 その背中を見送ってから、セフィアは月を見た。






 _____セオ、お前の愛する人は強いぞ。いい女だ。お前達はお似合いだ。



 だけど。



 男として____気づいてやってくれ。








 月は、照らす。


 弟想いの兵士長を、静かに照らした。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ