※主人公は基本性能高めです
「……………うう、緊張したぁ…………」
「…………………………」
セオドアは金と赤の上着をソファにだらしなく放って、机に突っ伏す。それを見ていたレイは呆れていた。
歓迎パーティではあんなに堂々としていた美男子が、実はこんなに小心者だと思わないだろうなあ……
セオドアはこんなでもヴァリアース大国で代々宰相を務める公爵家の息子だ。人前に出ることは多い。それ故に礼儀作法はそこらの貴族よりもしっかりしているし、真面目な性格ゆえ人前ではしっかりと"貴族らしく"振る舞うことができる。
けれども実際はこのとおり、人前に出るのは苦手なのだ。頑張ったら頑張った分だけその反動で女々しくなる。難儀な性格である。
「俺……上手くできていたかな、アミィール様の品位を疑われたりしてないかな……俺を見てアミィール様の評価が落ちるのは嫌だ……ああ、なんで俺は俺なんだろう……いっそ花になりたい、アスファルトの上に咲く花のように強くなりたい……」
仕舞いにはグズグズと泣き始めるものだから目も当てられない。
結果から言えば、今日の歓迎パーティでセオドアは正式に皇配として認められた。本人はこう自信なさげだが、実際はセオドアの美しい顔立ちに、堂々とした振る舞いに『流石、アミィール様の選んだ御方は素晴らしい』と大絶賛されていた。国内外で憧れの的であり、高嶺の花と称されるアミィール様の横に立ってもおかしくないと納得させたのだ。
それだけの偉業を成した主人がこの様に女々しく泣いているのを見ると頭が痛くなる。…………セオドアはとても気のいい奴だけど、どうにもこの面倒くさい思考は慣れない。
レイはそこまで考えて、はあ、と溜息を零す。
「お前な、いい加減そのみっともない性格やめろよ。皇配様になるんだぞ?あの次期皇帝のアミィール様の夫になるんだぞ?そんな弱気でどうするんだ」
「レイにはわからないよ……俺もレイのような性格になりたかった……産道からやり直したい………」
「………………じゃあ、アミィール様との結婚はやめるか?」
「辞めない!絶対辞めない!」
結婚を辞めるか?という言葉を聞くとがば、と涙に濡れた顔を上げる。
……ちゃんと男の顔もできる癖に本当にこの主人は……
そんな会話をしていると、コンコン、とノック音が。勿論、いつもの如くこの時間に来るのはたった一人。そして、いつもの如く高速で手を動かし涙を拭い明るい声で『どうぞ』と言った。
「セオ様、今日はお疲れ様です」
アミィールは扉を開けるなりそう言って優しく笑う。……とんでもない破壊力を持つ美少女の笑み。いつ見てもユートピア屈指の美しすぎる皇女はセオドアでなくてもときめく。この皇女に愛された日には死ぬほど幸せだろうな、なんて思いながらレイはやっぱりいつもの如くそ、と部屋を後にした。
* * *
いつもの時間に部屋を訪れてくれたアミィール様は未だに着替えていなかった。もちろん、俺のあげたリボンも定位置から動いていない。全身を俺の髪の毛と同じ色に揃えていると再確認すると、それだけで幸せな気持ちになる。
「アミィも、お疲れ。着替えてなかったのかい?」
「ええ。……わたくし、セオ様に今一度ちゃんと見て欲しくて……セオ様に抱き締められているようで落ち着くのです」
「ぐはっ……………」
「セオ様!?」
さらりと歯の浮くような事を言うアミィールに鼻血が出そうになるセオドアでした。