紅銀の薔薇と群青のリボン
「………………も、もっと地味なやつの方がよくないか?」
「何を仰っているのですか。これでも地味ですよ」
セオドアは鏡の前に居た。
鏡には_____群青色の髪を横に流し、緑の瞳を出した黒いハーフマスク_黄金色が散りばめられている_を着け、赤と金の豪華で煌びやかな服を着た自分が映し出されている。
今日は_____歓迎パーティがあるのだ。
サクリファイス大帝国に来て10ヶ月が経過していた。歓迎パーティにしては遅いのだが、ラフェエル皇帝に認められたのが1ヶ月前なのだから当然といえば当然で。
俺がチート能力_アルティア皇妃様が"治癒血"と勝手に命名された_を持っているのを知ったラフェエル皇帝は、俺とアミィール様の結婚をお認めになられた。
それはとても嬉しい。…………その結果、アミィール様を深く傷つけたのは承知なのだが、とても嬉しいんだ。
だけど。
歓迎パーティは……………正直、気が重い。
何故ならこれは歓迎パーティという名のお披露目会なのだから。アミィール様はあの通り完璧な御方で、その御方が他国の王太子などではなく他国の公爵家の自分を婚約者としたのだ。完璧な御方でなおかつ次の皇帝であるアミィール様の隣に寄り添うという事は、誰もが『どんな者がアミィール様の隣に寄り添うんだ?』と思うのは火を見るよりも明らか。
また、そうでなくとも国内の重要人が来るのだから挨拶だってしなければならない。
それはもう緊張しかない。主人公でチート持ちでしかない乙女男子には荷が重すぎるのだ。逃げ出したいけれど、アミィール様とは一緒に居たい。となれば、出るしか選択肢は無いのだ。
とはいえ……………
セオドアは改めて自分の服を見る。赤色の服なんて着たことがないから違和感しかない。そして様々な所に金が織り込まれていてまるで王子の格好である。少女漫画で見る王子様のような格好を自分がしている……………本当に自分か?なんて考えたり………………
自分の姿にさえこんなに怯えているのだから、大衆の面前になど立ったら倒れてしまうのではないか………………
今にも倒れそうなセオドアを他所に、コンコン、とノック音が響いた。少し震えながら『どうぞ』と答えると、アミィール様専属侍女・エンダーが入ってきた。
「セオドア様、お着替え中に失礼致します」
「あ、ああ、どうしたんだい?」
「アミィール様の使いパシリで来ました。……………こちらをお付けくださいとのことです」
エンダーはそう言って、見たことがない色___紅銀の薔薇を差し出してきた。
セオドアはそれを手に取ると目を輝かせた。
「綺麗だ…………………」
薄いピンクにツヤツヤとした銀色が淡く入っている。こんな配色の薔薇を見るのは初めてだけど、気高く美しい薔薇はアミィール様を現している。
感動にも近い感情を抱いているセオドアに、エンダーは言う。
「この薔薇はセオドア様のこの日の為にとアミィール様が魔力を練り上げて作られた物です。パーティには必ずこの薔薇をつけて欲しい、と。
着替えも済んでいないというのに、本当に面倒なことを………………」
「……………………」
可愛らしい顔を歪めて毒づくエンダーに閉口する。最近俺にも遠慮がなくなってきたな、エンダーは。親しくなれた、と思おう。…………それより、俺の為だけにこのような綺麗な薔薇を用意してくれるとは………………
本当に王子のような御方である。本来ならば、王子の格好をしている俺が何かをプレゼントしなければならないのに…………………そうだ!
セオドアは何かを思い出したように、レイを見た。
「レイ、あの物をこちらに」
「は」
レイは短く返事をして、セオドアの机の引き出しを開け、群青色のリボンを取り出した。




